2 魔法系というもの
鏡に写っている人は、自分のはずだろう。
しかし、私はこんな見た目ではない。
私は、典型的な日本人だったはずだ。
…。
あれ、そういえば私は彗星を見ていたんじゃなかったのか?
あぁ、そうだ。
思い出した。
彗星が落ちてきたんだっけ。
私は地平線の向こうまで彗星を見送ったつもりだだった。
その後、確か…地平線の向こうが爆発して…。
暗かった空が明るくなって…。
えぇっと…。
いろんなものが吹き飛んでた…ような。
あぁ…つまり、私は…
…死んだのか。
『大丈夫?』
オキシアの声で、目が覚めた。
ここは、私の部屋…。
そうか、今日からこの世界で生きなければいけないんだ…。
「あの、ごめんなさい…。今日はいろいろ疲れてて」
あぁ、泣きそうだ。
私は死んでしまったのだ。
もう、あの世界には帰れない。
『記憶喪失?ここのこと、わからないんでしょ?大丈夫。今日はゆっくり休んで!明日いろいろ教えてあげる。』
オキシアは優しい。
…。
今、部屋で一人。
窓の外はまだ明るい。
疲れているはずなのに、寝る気は起きない。
何か、暇つぶしになる物はあるのだろうか。
部屋の端に机があるな。
引き出し付きの立派なやつだ。
スッ
中には…何枚かの白い紙と、羽ペン、それからインク。
何も書くつもりはなかったが、机の上に紙とペンを置いてみた。
羽ペンなんて、初めて見るな。
それから、インクを開けてみた。
うわ、カチカチだ。
何年も使ってないのか、人にあげるような部屋にあるんだもんな…。
机の隣には、本棚。
一冊手に取ってみる。
…読めない。
この世界で生きるのに、文字が読めないなんて、かなりヤバイのでは。
相変わらず、アルファベットとタイ語を混ぜたような文字だな。
私はなぜか、読めない本をペラペラめくって、文字を見た。
そうだ、文とか単語がわからなくても、文字の形を覚えることくらいなら、今でもできるのでは。
ここには、ちょうど紙とペンが…あ。
インクがないんだった。
…もういい、今日は無理矢理でも寝るとしよう。
もしかしたら、寝て起きた時、今までのは全て夢でした的なことがあるかもしれない。
…。
『おはよう。朝だよ。昨日はよく休めた?』
起きたら、目の前にオキシア。
わざわざ起こしに来てくれたのだ。
『実はね、昨日いろいろ調べてたんだけどね。人間って思ってるより簡単に記憶が消えちゃうことがあるみたいなんだ。』
オキシアは、私が記憶喪失だと思っているようだ。
半分は違うが、私が私の名前を覚えていない以上、半分は正解なのだが。
『それでね、無くした記憶は、逆に簡単に戻ることもあるみたいなんだ。だからいろんなことをして、頭を使えば、いつか戻ってくるかも!』
本当にオキシアは優しい。
さっきからオキシアは優しいしか言っていないが、名前も知らない人のためにここまで尽くせる人なんだぜ?
優しいしかいえなくなるのも納得だろう?
『見て、コレ本だよ。見ての通り…ボロボロだけど、魔法のことが書いてあるんだ。私の小さい頃使ってた教科書だよ。』
オキシアの本は確かにボロボロだ。
しかし、文字の方が問題だろう…。
少し見てみたが、全く理解できなかった。
『えっ、もしかして。』
流石にバレるよね。
文字が読めない人の動きしてたよね、私。
『読めない?』
「読めません。」
あぁ、オキシアは黙り込んでしまった。
申し訳ない、文字が読めないだなんて、私も思わなかったさ。
『記憶喪失じゃ、ない…?学校にいったことが、ない…とか?見てると、君は本当に…昨日この世界にやってきたみたい。』
オキシア、その通りである。
私は確かに、昨日突然この世界にやってきた。
『大丈夫!私が教えてあげる!』
「…。」
オキシアに拾われて本当に良かったと思う。
なぜ他人にそこまで尽くせるのだろう。
私のために、本を読んでくれるのか?
『魔法にはね、8つの魔法系があるんだよ。水系、生物系、金属系、爆発系、毒系、光系、空気系、そして崩壊系。君は自分の魔法系分かる?』
もちろん、首を横に振る。
横に振りまくる。
『あははっ!大丈夫。自分の魔法系は手探りで見つけていくしかないからね。一緒に探がそ!』
オキシアはそれからいろいろ説明してくれた。
魔法系は、人によっていくつも持てたりするようだ。
基本は、自分の素質的なものに大きく左右される。
また、同じ魔法系でも、幅広いらしい。
どんなふうに幅広いのかの説明は、してくれなかった。
後の楽しみだってさ。
それと、オキシアが言うに、私が初めにあったような化け物は、ほぼ毎日街の付近に現れるようだ。
あんなのが毎日現れる…?
凄腕の魔法使いが退治してくれる、とは言っていたがあんなのが毎日湧くとか恐ろしすぎるんだが…。
街の外に出るなと言うのも無理はない。
『ねぇ、魔法系探ししない?』
オキシアがそう言ったのは今日の午後。
部屋の外から呼びかける。
やや気が早くはないか?
もう少し文字の勉強をさせて欲しい…と言うのが本音だ。
そうそう、少し前にオキシアから、文字の読みの法則と大体の書き方を教えてもらったばかり。
結構、教えてもらうと簡単な文字だった。
完全な表音文字、(アルファベットみたいな文字)で、英語ほど読みも難しくない。
当たり前だが!
日本語よりは断然簡単な言語だった!
『ほらほら早くおいでよ!』
急かすな急かすな、今行くから。
しょうがないな…。
魔法系探し…私はどんな魔法を使えるのだろう。
何もない…とかはないよね?
ガチャ
扉を開けるとオキシア。
オキシアはいつも制服を着ている。
そういえば、私の服もそれなりに制服っぽい…気がする。
オキシアは、にっこり笑うと、私の手を取った。
ダッシュで廊下を駆ける。
!!だからっ、!
廊下を走るなっ!
また、ガラスにぶつかったらどうする!!!
…。
階段へザザッと駆ける。
今回は、大丈夫だったようだ。
オキシアの家の庭はデカい。
下手したら、そこらの公園よりデカいのでは…。
オキシアはサッと庭の端の噴水へむかった。
はぁ…。私、体力が…。
ちょっと走っただけなのに…。
『あれれ?本番はここからだよ?』
オキシアは言う。
わかってるよ!
私ってこんなにすぐ疲れるやつだっけ?
私が息を整える間、オキシアはいくつか物を持ってきた。
木の枝、枯れ葉、あと石ころ…。
全部、庭でとってきたやつだろう。
コレでどう魔法を使うというのだ?
『覚えてる?8つの魔法系のこと。水系、生物系、金属系、爆発系、毒系、光系、空気系、崩壊系だよ。今から、君の魔法系を探すよ!』
オキシアは、噴水から離れ、近くの柵のところへ行った。
オキシアは、鉄製の柵をカンカンと鳴らす。
『まずは、金属系。一番多い魔法系だよ。ほら、この鉄の柵を変形させてみて。』
え、無理です。
鉄の柵って、それ…めちゃくちゃゴツいじゃないっすか…。
とりあえず、念じてみるが…曲がれっ。
…。
うんともすんとも言わない。
知ってた。
今度は触ってみる。
硬。
マッチョでも曲げられないんじゃないか、この柵。
『金属系ではないみたい…。じゃあ、コレは?爆発系。2、3番目に多い魔法系だよ。』
オキシアは、木の枝を持ち上げた。
爆発系…って、この枝を爆発させるの?
…。
とりあえず前と同じように念じてみる。
裂けろ裂けろ。
?…枝が黒くなった。
裂けてはない。
『わあ、爆発系魔法かな?少し特殊な形だけど。』
オキシアは、黒くなった枝を見て言った。
嘘、私の魔法そんなんなの?
地味…。
何にも使えなくないか?
枝…。
手に取ってよく見たが…。
コレ、炭化してるだけじゃん。
何が爆発系?
ただの炭じゃない!炭になっちゃっただけ!
『あ!忘れてた。魔法系の定義なんだけどね、結構独特でね。物を物理的に破壊することが爆発系の定義なんだ。…この枝が焦げたから、破壊されてることになるのかな…とか。』
そういうことね。
魔法系、分け方雑すぎない?
そういえば〈崩壊系〉とかいう魔法もあったけどそれはまた別な感じなのかね?
「じゃあ、魔法系の崩壊系は、物を破壊しないの?」
…オキシアは、少し返答に迷っているようだ。
やはり定義が曖昧なのかな、説明も難しそうだ。
『崩壊系の魔法はね、使っちゃいけないんだ。物を物理的に破壊することもあるけど、なんというか…』
使っちゃいけない魔法?
オキシアの返答の困りようをみる限り、あまりメジャーな魔法系ではないのか?
『崩壊系の魔法は、生き物をメインに壊すんだ。だから、禁止されてて…。崩壊系魔法使いのほとんどは無自覚で常時発動型が多いから…君はたぶん違うよ!』
何か焦るようにオキシアは言う。
『それとね、そういう無自覚発動型の崩壊系の人は、街から追放されてるんだ…。』
…。
追放。
まるで、崩壊魔法系そのものが犯罪みたいじゃないか。
『君は、大丈夫。きっと爆発系の魔法だと思うよ!』
オキシアは、私を庇うように言う。
生物を壊す…。
私のこの炭化させるだけの魔法も…もしかしたら、使い方によっては崩壊系だと思われてしまいかねない…のかもしれない。
いろいろなことを試したが、結局…。
私にできることは、物を焦がすことだけ…。
使えない。
明日、オキシアとこの街の教会に行く。
学校兼教会の建物なんだそうだ。
そこで、戸籍を貰えるようだ。
一緒に魔法系の登録もあるらしい。
オキシア曰く、魔法にランクがつくとか…。
なんか緊張してきた。