1 異世界にやってきたということ。
暇だなあ。
と、思った今日は休日。
私は、どこにでもいる学生。
ただ、ちょっと自然科学に興味があるだけのひとだ。
今は、ちょっと家でゴロゴロ。
何をしようかなって感じ。
テレビでも見てみようか。
なになに、彗星だって?
何?今日の夜?月より明るい見込み????
そんな話聞いてないぞ、テレビ君。
せめて前日には教えて欲しいなぁ???
てか、そんな話本当に聞いてないよ?
彗星だったら、軌道とかが何年か前にわかってるはずだよな?
ちょっとスマホ、スマホ…
え?謎の彗星?
発見は昨日だって?????
そんなことってありえる?????????
ああ、結構今は話題になってるみたい。
前例のない特殊な彗星とか、宇宙人からの贈り物だとか、いろいろ言われてる。
まぁ、突如宇宙空間に現れたんだから、話題にもなるよ。
彗星か、見てみたいな。
ちょっと外に出てみようかね。
今はまだ明るいけど、ちょっと山の方に行きたい。
着く頃には暗くなってるでしょう。
とりあえず、カバンに懐中電灯と、スマホ…。
あと、とりあえず財布。
よし!出発!!
…。
暗い。いい感じに暗くなってきた。
私はかなり田舎ものだから、少しあるけば、山だ。
まぁ、田舎の良いところかな。
自然に囲まれて、星の観察もできて。
山に入って数十分。
もう少しいけば、ひらけたところに出る。
ちょっと木に囲まれすぎて、空が見えない。
あぁ、虫除けを持ってくればよかった。
クソ痒い。
まぁ、足の痒みに耐えてたら、いつのまにかついた。
かなり良い暗さだ。
彗星は…。
…。
すごい…。
なんで気づかなかったんだろう。
めちゃくちゃ綺麗。…明るい。…大きい。
何が月より明るいだ!
太陽より明るいんじゃないか?(流石にない)
空の半分は彗星!
月なんかと比べるんじゃない!
なんというか、緑とか紫の力強い光が…。
シャーッて空にかかってて…。
綺麗!
こんなに大きな彗星が、今空を動いた。
いや、もともと動いてはいたのか。
ただ、どんどん加速されていって、どんどん近づいてきて…。
明るい。
うう、眩しい…。
それから、彗星が…
あれ、どうなったんだっけ?
痛い。
耳鳴りがする。
ここはどこだ?
とりあえずまわりを見てみる。
うん、こんな場所さっぱりだ。
ただただ、草と山。何もない。
あれ、遠くの方になりか見えるな、あれは?
村?
ドスンッ
!?
なんの音だ?突然。
ドスンッ
え、怖い。
何か動物に狙われているような…。
後ろに何かいる。
ゆっくり振り返ろう。
そう、ゆっくり、ゆっくり…。
羽のあるクマ。
クソでかい。終わった。
なんだ、コレ。
こんなのデカいハエじゃねえか。
こんな生物知らない。
めっちゃ、目があう。
まだ、逃げられるか?いや、無理そうだ。
それでも後ずさってみる。
ブンッ
動いたっ、クマが!
ヤバイ、逃げようとしたのがバレたか?
そんなそんな、腕を振り上げないでください。
あっ、終わった。
…。
ドカンッ
…。
ん???
爆発?
熱いんだけど。
ちょっと、煙でよく見えない。
あれ、火。
燃えてるのか?
『こっち、こっち!』
!!!!
助けか?誰か助けに来てくれたのか?
『大丈夫?』
人影だ、煙に人影が見える!!!
「助けてください!」
誰だろう。私の命の恩人よ!
羽のある可愛くないクマから私を救ってくれた勇者よ!
その姿は!
…女の子?
なんだこの子は。私と同じくらいではないか?
しかし、力強い。
私の手を引っ張る、その手は力強い。頼もしい。
はぁ!新鮮な空気!
煙の中からの脱出に成功!
あれ、そういえば透明な空気に出たから気づいたけど、隣の女の子、不思議な見た目をしている。
なんだ、この透き通るような青は。
淡青色の髪の毛は!
この透明感は、染めているわけでもないだろうし。
このオレンジの輝くような目も、本当に光っているようだ。
服装は、制服?
全体的に落ち着いた色で、雰囲気軍服っぽさもある。
学生っぽい。
やはり、私と近いのでは?年齢。
ヤバイ、あまりジロジロ見ると変なやつだと思われるかな?
『あの、大丈夫?』
「あっ、ありがとうございます!あなたは命の恩人です、」
あぁ、ちょっと驚かせてしまったかもしれない。
声が大きいな私。
『あはは!変な子だな。一人で街の外へ出ちゃうような人だから、もっと強い人なのかと思ってたのに。』
ん?
街の外に出る人は強い?
どういうことだ?
『あれ、そんな顔して。まるで、街の外へ出ちゃいけないこと、今知ったみたいじゃない?』
君、その通りだ。
本当に今知ったのだが。
この世界は一体なんなんだ?
「えぇっと、ごめんなさい。私…その街のことあんまり知らなくて、外から来たというか、そんな感じで…。」
あぁ、この返答はまずかったかな…。
すごい顔で見られてる、気がする。
「今、すごい混乱してて。」
どうにかして誤解させないようにしないと…
そうだよな、街の外に出ては行けないんだから、外の人がやってくるとか、ないんだろう。
もしかしたら外に他の街なんてない、なんてことがあるかもしれない。
『家はないの?よかったらうちに来る?一人は危ないよ。』
ほら、完全に私は不審者だ、こんなに…え?
今なんて言った。
うちに来るか、だって?
「え、人様の家に、行くだなんて…いいんですか?」
嘘だろ、こんな可愛い子の家に?
そんなことがあっていいのか?
『いいよ!ほら、ついてきて!』
あぁあ、ついていきます!
淡青色の透き通るツインテール。
少女は、私の手を引っ張る。
はぁ、疲れた。
街まではかなりの距離があったんだな。
まぁ、向こうからは豆粒くらいにしかみえなかったし、当たり前ではあるが。
街の景色を見る限りは…レンガの建物とか、石のタイルとか、少しヨーロッパみがある。
そして、なんとカラフルな髪の毛をしているのだろう、街の人は。
ベースは無彩色が多いが、光が当たってカラフルに反射している。
綺麗!
んん?
ちょっと待て…ヤバイ。
看板の文字が全く読めない…。
ヨーロッパじゃないぞ、ここは。
アルファベットとタイ語を混ぜたような文字が、至る所にある。
どうしよう。
少女が、急に立ち止まった。
いかにも金持ちの住んでそうな建物の前で、こっちを振り返る。
うそ、ここがこの子の家なのか?
えぇ、まじか…。
豪邸じゃないか。
デカい庭にはマイ噴水。
デカい窓のそばにバラ。
こんな家に住まわせていただくなんて、おそれおおい。
『へへ、そんな驚くことないよ。』
いやいやいや、驚く驚く!
普通こんな家にタダで済むだなんて、許されるわけがない。え、お金取らないよね?
『汗だらけだよ、緊張してるの?大丈夫、そんな大したことないよ。』
わぁ、こんな豪邸に連れ込まないでくれ!
引っ張るなあ!
…。
半ば強制的に金持ちの家に連れ込まれた。
怖い、怖すぎる。
あの子の両親は、どう思うのだろうか。
迷惑じゃないのか。
そんな不安は杞憂だった。
どういうことだ。
あの子が一言、
(今日からこの子と一緒に暮らしていい?)
的なことを言った時、
(かまいませんよ)
とニコニコしながら言ったのだ、両親は。
おかしいだろ両親。
優しすぎるだろ両親。
この家の物はやたら高そうな物ばっかり!
しかもほとんどガラス製のものなんだが!
怖い、私うっかり壊しても知らないよぉ?
部屋の端にガラス置くのは全然いいんだよ、ぶつかることないから。
だが、ここの家の廊下!
ガラスの彫刻だらけではないか!
いくら台の上に置いてあるとはいえ、危なすぎる!
ここが、地震とかに無縁な土地なのはわかった。
ただし、申し訳ないが、私が壊す!
『部屋を用意したんだ。教えてあげる。こっち!』
そう言うと彼女は、あのガラスだらけの廊下を、全力ダッシュで駆けた。
あの、怖いんですけど…。
ついて行かないわけにはいかないか…。
恐る恐る歩く。
ぶつからないように、ぶつからないように。
廊下の幅が中途半端に狭いんだよな。
気をつけないと。
ゴンッ…
…ガシャンッッ
あ
あぁ…
どうしよう。
ヤバイ。
『遅いよ、何してるの?』
まずい、こんなところを見られては、
『あ、壊しちゃったの。』
「あぁ、高そうな物を壊してしまって…。本当にごめんなさい。ごめんなさい。」
あぁ、本当にごめんなさい。
最悪死刑だよねコレ…。
ガラスのネコ?
首が取れてる。
『母上!ガラスのやつまた壊れたよ〜』
お母様を呼ばれてしまった。
この作品の所有者だろうか…。
あぁあぁ…殺される。
『あら、怪我はないですか?ごめんなさいね。ここガラクタばかりで。』
申し訳ございません。
私ここから出ていきますね。
『あらら、そんな顔をなさらないで、よくあることです。』
コレは何かの幻覚なのだろうか、あの子のお母様と思われる方がガラスのネコの首をくっつけているように見えるんだが。
素手で溶接みたいなことしてるんだが。
『ごめんね、先に行っちゃったから。』
少女は謝った。
どうして君が謝るんだ。
それで、自分の部屋に着いたとき、あの子から自己紹介があった。
『私ね、オキシア。』
オキシアは言った。
オキシア曰く、オキシアはこの街の魔法学校の生徒なんだそうだ。
この街で魔法は当たり前のものだということも教えてくれた。
それで、何か質問するたびにオキシアは驚く。
すまない、無知で。
本当にわからないんだ…。
『ねぇ、君の名前は何?』
オキシアが問う。
「私は…。あれ。」
あれ、なんだっけ。
私の名前。
なんだっけ。
思い出せない。
私は何を思ったのか、部屋を見回してみた。
あれ…。
誰…?
部屋の端にある鏡にオキシアと私…?、が写っていた。
「あれ、私じゃない。」