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98 人混みは辛いよ


 電車に揺られること一時間、そして徒歩で十五分。


 ようやく花火大会が行われる場所に到着した!!


「お〜!!すごいね!!屋台がいっぱい並んでるよ!!」


 今回訪れた花火大会はこの辺りではかなり有名なものらしく、屋台もそれなりの数並んでいた。


 それ見た佳奈美(かなみ)は楽しそうに辺りを見回し、こちらの手を引っ張ってくる。


「ねぇ早く行こ!!私たくさん食べたいものがあるの!!」

「ああ。でもそんなに慌てな…って聞いてないし」


 さっきまで軽く繋いでいた手に大きな負担がかかる。流石にはぐれるわけにはいかないので、少し強めに彼女の手を握って追いかける。


 だがやはり人が多く、少しすれば視界ではほとんど彼女のことを追えなくなっていた。


(ヤベェ人が多すぎる…このままじゃはぐれるかもな…)


 そんな危機感を抱き、少し先にいるはずの佳奈美に声をかけてみる。


「お〜い!佳奈美!!ちょっとペース落としてくれないか??」


 彼女の耳に届くように声を張る。

 だが向こうからは何の反応もなく、ただずっと同じように突き進んでいる。


(クソ…せめて手だけは絶対に離さないようにしないと…)


 まだ彼女のことを見失っているわけではない。だからせめて、この握られた手だけは離さないようにしようと強めに力を入れる。


 そしてその瞬間、彼女の手は震えながら何かを訴えかけて来た。


(しゅう)!?痛いよ!!」


 ようやく彼女の声が聞こえて来た。これで少しばかりは安心できた。


 いや、別に安心ではないか。

 だって佳奈美のことを離さないために力を入れているのに、彼女からは痛いと主張されているんだぞ。彼女のためにも離すわけにはいかないが、だからと言って向こうの意見を無視するわけにはいかない。


(どうすりゃいいんだ!?佳奈美のために力弱めたらはぐれてしまいそうだし…でも佳奈美に痛い思いはさせたくないし…)


 対立する意見に挟まれる。

 だがそこで、ようやく足を止めた彼女がこちらと対面した。


「ねぇ、痛いって__!!」


 ようやく佳奈美を目視で捉えることができた。


 だがその彼女は、少し涙目になりながらこちらを見て来ていて。


「ごめん!!ついはぐれないようにって考えてしまって…」

「それはわかるけど…でもなんか、私のことを子供みたいに見てない?」

「そ、そんなことは…」

「その目は絶対に私のことを子供扱いしてる目だね。全くもう、私のことを何だと思ってるの?」


 すんと拗ねる彼女。うん、可愛い。


 じゃなくて、とりあえず謝ろう。


「ごめん…佳奈美がはしゃいでいるからつい…。でも佳奈美とはぐれないようにしようと思ったのは子供扱いしてるとかじゃなくて、恋人として心配だったからで…」

「!?…そ、そうなんだ…」


 途端に顔を赤くする彼女。


「それならまあ…許してあげるっ。でももうしないでよ?怒らせちゃったんじゃないかと思ってちょっと怖かったんだから」

「あはは…ごめんな。でも俺が佳奈美に怒ることはないから安心して」

「そう?それならまあ安心だねっ」


 とりあえず彼女は納得してくれ、ニコッと笑みを向けてくれた。


 そして柊は今一度彼女の手を繋ぎ直し、佳奈美に目を向けた。


「って…今気づいたんだけど結構買い物してたんだな…」

「うん!そうだよ」


 なぜ今まで気づかなかったのかわからないが、彼女は様々な食べ物を片手に持っていた。綿飴、たこ焼き、ポテト、焼きそばなどなど…。


 いやどうやって購入したんだよ。

 あなた手繋いでたから片手塞がってたよね?なのになんでそんなに買えてんの?


 なんか、たまに世界ってバグるよね。まあそんなのはどうでもいいけど。


「で、まだ食べたいものとかあるの?」

「うーん…とりあえずはいいかな。柊は何か食べないの?」

「あ〜…」


 正直腹は減っている。でもこの状況では佳奈美を待たせるだけになってしまうため、本心を隠して首を振る。


「いや、大丈夫。それよりさ、それ、どこかで座って食べないか?流石に食べ歩くのは危なそうだし…」

「うん、そうだね。人混みはもう疲れたし、ベンチでも探そっか」

「ああ」


 こんなにうまそうな食べ物を見せつけられているのに我慢するのはかなり大変だが、なんとか抑え込んで彼女と共に座れる場所を探す。


 もちろん、手を繋いだまま。


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