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97 好きの対決


 ……。


 ………。


 …………。


「あ、お待たせ!」


 ついにこの時が来た。


 佳奈美(かなみ)と付き合い始めて初めてのデート、しかも花火大会デートだ!!


 考えただけで真似が踊るし、今目の前に現れた美少女を見てそれはさらに加速していく。


「おお…浴衣いいな」

「ふふ♪お母さんに着付けしてもらったんだ♪」

今日は彼女もご機嫌のようだ。

「どう?似合ってる?♪」

「ああ。めちゃくちゃ似合ってるよ。見惚れてしまいそうだ」

「ふふ♡ありがとう♡」


 いつもの彼女なら照れたりもしそうな状況だが、今日の佳奈美は一味違うようだ。


「実はお化粧もいつもより頑張ったんだ♪」

「やっぱりそうなんだな。いつもの佳奈美とは違う可愛さがあって新鮮だと思ったよ」


 彼女が家から出て来た瞬間、見慣れない美少女が出て来て驚いたものだ。その美少女が自分の彼女だと分かった時は、さらに興奮したものだ。


「相変わらず(しゅう)は褒めるのが上手だね。やっぱり花音(かのん)さんの影響?」


 柊が褒め上手なのは姉の花音のことを散々褒め散らかして来たからだが、佳奈美に対する言葉は間違いなく本物だ。


「ま、それもあるかな。でも今の言葉は全部俺が本当に思ったことだから」

「そっか。ありがとう♡」


 彼女は嬉しそうに笑い、直後にこちらの全身を見渡して来た。


「柊の服もすごく似合ってるよっ」

「そうか?ありがとう」


 今日は結構気合を入れて来たので、そこを指摘されるのではという不安もあった。だが当然佳奈美がそんなイジリをしてくるはずがなく、なんなら嬉しそうに褒めてくれた。

 それを聞いた瞬間安心して胸を撫で下ろすが、同時に恥ずかしさも込み上げてくる。


「…なんか照れるな。こうやって恋人として会うってなると」

「まあそうだね。私も今すごく緊張してるもん」

「そうなのか?全然緊張しているようには見えないけど」


 実際、佳奈美からは緊張が全く感じ取れない。だが彼女は本当に緊張しているようで、ようやく頬を赤くし始めた。


「うん…今日がが楽しみすぎるから顔に出てなかったかもしれないけど、正直すごく緊張してるの…」


 斜め下を見ながら顔を赤くしていく彼女。うん、可愛い。


 だがずっと眺めているわけにもいかない。ここはカッコいいところを見せないといけない。というわけで、柊は緊張しているのをなんとか隠しつつ、佳奈美に手を差し出した。


「そっか。でも大丈夫だ。絶対に今日を最高の日にして見せるから、その緊張を最高の気持ちに変えて見せる」

「…うん。楽しみにしてるねっ!」


 ニコッと笑いつつ、手を取ってくる。


「んじゃあ行くか。遅いと混んでしまうかもしれないしな」

「そうだね。早く行こっ!」


 こうして二人は手を繋いだまま駅に向かって歩き始めた。


 彼女の小さな歩幅になんとか合わせるように気を遣い、握られた手に汗が染みていないかが不安になる。だがそれでもなんとか歩みを進め、目的地に向かってゆっくりと歩いていく。


 そしてその途中、佳奈美が突然こちらに身体を寄せて来た。


「…?どうかしたか?」

「ううん。ただ…嬉しくなって」

「嬉しい?」

「うん。こうやって好きな人と一緒に手を繋いで歩いて、これからたくさんデートできるんだって考えると、すごく楽しみで」


 彼女は何の恥ずかしげもなく好きとか言ってくる。それはすごく嬉しいのだが、すごく心臓に悪かったりもする。


「そ、そうか…」


 おかげで全然上手く喋れなくなったではないか。


 というかこれ、こっちもなんか言った方がいいやつか?彼女にだけ恥ずかしことを言わせるわけにはいかない的なヤツか?

 まあ気持ちを適度に伝えることは大事だってネットで見たし、ここは勇気を出して言ってみるか。


「俺もその…好きな人と一緒に花火大会に行けて嬉しいぞ…?」

「ふふ、もしかしてちょっと張り合ってる?別にそういうつもりで言ったんじゃないんだけどな」

「別に張り合ってなんか…」


 いや待て。ここは張り合ったほうがいい気がする。


「あるぞ。ああ、めちゃくちゃ張り合ってる」

「?どうしたの急に。というか何で張り合ってるの?」

「それはまあ…俺の方が佳奈美のことを好きだっていうので…」

「!!??」


 いや絶対張り合わんでよかったやろ。何バカップルみたいなこと言ってんだよ。流石に佳奈美に引かれ__


「い、いや…!!私の方が柊のこと好きだよ…!!」

「!!!???」


 柊の心は完全に射止められてしまった。


 勝者、佳奈美。


「…そ、うか…」

「う、うん…!」


 自信満々に語る佳奈美。

 でもそんな自信満々な表情に相反して、全身が真っ赤になっていたりする。


 この勝負、今やる必要あったか?


 いや、ない。


 でも柊の中の謎のプライドが始めてしまったんだから仕方ないよ。


「…なんか暑いな」

「夏だからね…」

「そっかぁ…」


 絶対に夏以外の要因もあるだろうが、こればかりは慣れるしかなさそうだ。

 これから佳奈美と付き合っていく上で、きっと死ぬほどドキドキすることが何度もある。でもそこで動揺せずに堂々と佳奈美を引っ張っていけるような人間になりたい。


 ま、どう考えてもそんなのは無理だけど。


 だって彼女のこと、好きすぎるんだもん。


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