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95 自信


「ただいまー…」


 あの時何が起こったのか、今でも理解し切れていない。


 そんな中帰宅した佳奈美(かなみ)は、ボーッと目を開いたままリビングに入った。


「おかえり。晩御飯できたよ」


 家にいたのは母の(かえで)のみで、どうやら父はまだ仕事のようだ。それを知った瞬間、ホッと肩の荷が降りたような気がした。あ、別に父が嫌いというわけではないよ。


「お母さん、あの…」

「ん?どうしたの?」


 楓には色々と相談に乗ってもらってお世話になったので、彼と結ばれたことはちゃんと報告しておきたい。でもなぜか、口が言うことを聞いてくれなかった。


「いや、なんでもない。それより今日のご飯何?」

「お赤飯だよ」

「……??」


 なるほど。たまたま材料がそれしかなかったから赤飯になったんだ。そうだよね?


「なんで…?」

「ん?♡それは…秘密♡」


 ニコッとウインクをしながら口元に人差し指を当てる母。我が母ながら非常に可愛い。というのはどうでもよくて。


 なんなの?この含みのある言い方は。もしかして何があったかバレてる?確かに前から勘の鋭い人だとは思ってたけど…流石にそんなわけないよね…?

 まあここで何か考えたところで余計に情報を与えてしまいそうな気がするので、すぐに席に着いて話を変える。


「そ、それよりお父さん今日は遅くなるの?」

「そうみたいだね。でもなんで突然そんなことを?お父さんが遅いのなんていつものことでしょ?」

「あ…」


 しまった。全然考えずに発言してしまった。これじゃ焦っているのを伝えているだけのように感じる。

 だからもう、喋るのはやめよう。黙ってご飯を食べて早く部屋に逃げよう。


「……」

「……。彼と何かあったの?」


 赤飯を一口食べた後、沈黙を切り裂いてくる。


「…!?か、彼って…?」


(しゅう)くんしかいないでしょ。今日彼と遊んでたんでしょ?」

「それはまあ…そうだけど…別に何もないよ?」

「そうなの?ふ〜ん、そうなんだ…」


 怪しそうにこちらを見てくる。


 マズイ、バレそう。いや多分柊と何かあったのはバレている。


 というか、元々柊と付き合い始めたことを報告するつもりだったんだっけ。ついいつもの癖で否定してしまっていた。


「ごめん、やっぱり嘘…本当は、色々あったの…」

「ふふ♡そんなんだ?♡」


 わざとらしく笑う母。絶対気づいていたでしょこれ。どうせ報告するからいいけど。


 でもいくら母といっても、こういう報告するのは緊張するものだ。現に今、顔がすごく暑いし。でもそれに負けず、ちゃんと彼女の目を見て話し始める。


「実は…柊とお付き合いをすることになったの」

「…そっか。おめでとう♡」


 彼女は思いの外感慨深そうに笑う。でもその笑顔の奥には、計り知れないほどの喜びが隠れている。


 つい照れ臭くなって、目を逸らしてしまう。でも彼女は楽しそうに声をかけ続けてくる。


「ちなみにどういう感じで告白されたの?」

「そ、それはその…景色が綺麗に見える岩場に二人きりになって…その時に、『好きだ』って言われたの…」

「!?すごくロマンチックだね…♡」

「そうだね…」


 なぜか自分まで恥ずかしそうにする母。でも気持ちはわかる。いくら自分のことではないといえ、ロマンチックな話をされたりするとドキドキするものだ。恋愛ドラマを見ている時にドキドキするのと同じ感じだと思う。


「それで佳奈美は、ちゃんと自分の気持ちを伝えたの?」

「…うん。ちゃんと好きってこと、伝えたよ…」

「そっか。それならよかった」


 なぜか彼女は安心したように胸を撫で下ろす。


「ウブな佳奈美のことだから、ちゃんと柊くんに気持ちを伝えられていないのかと思ったよ」

「そ、そこまでじゃないもん…!!」

「そう?まあそうならいいけど。ちゃんと好きって伝えておかないと、後々彼が不安になることもあると思うから」

「そうなんだ…」


 柊意外の男性経験は、一切ないと言っても過言ではない。それは前世でも同じことで、夫以外の男の人とはほとんど関わりがなかった。

 だから正直、男心というものはあまり理解できていない。そのため、こうして楓から言われた言葉は少々意外で、ちゃんと気持ちを伝えた自分にホッとした。


「でも、ちゃんと気持ちは伝えれたと思うから大丈夫だよね…?」

「そうだね。とりあえずしばらくは大丈夫だと思う」

「…つまり、その内柊が不安になる可能性もあるってこと?」

「その通り。ちゃんと適度に好きだってことを言葉にしておかないと、向こうは自分だけが相手のことを好きなのかなって思うようになるよ。佳奈美だってそうでしょ?」


 言われてみれば、数ヶ月間柊から好きということを伝えられないとかなり寂しくなりそうだ。


「確かに、そうかも…」


 まあそれは前世で毎日愛を伝えていたせいもあるけど、大抵の女の子はそうなんじゃないかな?だからこちらだけが特別寂しがり屋で沢山求めてしまうとか、そういうわけではない!!はず…。


「でも私は、ちゃんと柊に気持ちを伝え続けるつもりだから…大丈夫だよね…?」

「…ま、佳奈美ならきっと大丈夫だと思うよ。なんせ私の娘なんだからねっ!!こんな世界一可愛い佳奈美に好き好き言われて平気でいられない男の子なんでいるはずがない!!」


 なぜか自信満々な母。でも前世で母親になった経験があるから気持ちはすごくわかる。

 こちらに向けて言われるとすごく恥ずかしいけど…。


「そ、そんなことないよ…」

「そんなことあるよっ!あなたは自信持って!柊くんなんて落としに落としまくればいいんだよっ!」

「うぅ…っ」


 あまり自信はないが、楓のおかげで少しだけ自信が湧いてきた気がする。


 でもやはり彼にまた好きだと伝えるのは恥ずかしいので、せめてこの高揚感が少し冷めた頃にしよう。


 ま、多分一生冷めることはないんだけど。


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