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3 忘れられない貴方を探して


「俺は絶対に帰ってくるよ。だって、クロエを置いて行けるわけないだろ?」


最愛の人は扉の前で平然とそのような言葉を発した。


「本当に…?絶対絶対、帰ってきてくれる…?」


あと一歩で溢れそうな涙を何とか堪えつつ最愛の人にそう確認をすると、彼はこちらの気持ちを察してギュッと抱きしめてくれた。


「ああ、約束するよ。俺は絶対にこの家に帰ってくる。だから、エリオと一緒に待っていてくれ」


優しい彼はそう囁きながら頭を撫でてくる。


そんな彼の温かさに何度も助けられてきたクロエは今回も彼の心の温かさに救われ、気づけばスッと涙が引っ込んでいた。


「うん…待ってるからねっ」


そう言った直後彼と口付けを交わし、思い切り腕に力を入れて抱きしめた。


彼の温もりを永遠に忘れないように。


「あなたがどこに行っても、ずっとずっと愛してるよ…リオ」

「ああ、俺も愛してるよ」

「ふふ、やっぱりあなたにそう言われるとドキドキするっ」

「それはよかった」


彼は小さく頬を赤らめつつ微笑んでくれて、その直後に彼は腕にめいいっぱいの力を込めて思い切り抱きしめてきた。


「行ってきます、クロエ」


彼はそう言った後背中に伸ばされた手をこちらの肩に乗せ、今度は向こうからキスをしてきた。


すると乙女の心臓は簡単に跳ね、直後に彼女は頬を真っ赤に染め上げた。


「い…行ってらっしゃい、リオ」


恥ずかしながらも愛しの彼の名を呼びながら満面の笑みを作り、小さく手を振って彼を送った。


きっとまた手を取り合えるという、小さな希望を胸に抱いて。



…………。


これで彼がいなくなってから何日目の朝だろうか。


あの日から長い歳月が経ったが彼女の愛は衰えるどころか何倍にも増幅していて、何十年も会えないことに狂おしい程の苦痛を感じていた。


(またあの夢…リオ…会いたいよ…)


彼女は何度も彼との最後の夢を見て、その度に寂しさと絶望に飲み込まれそうになっている。


(私みたいに…この世界にいないのかな…?)


今まで十五年この世界で生きてきたが、前世の記憶を持つ人物など聞いたことも見たこともない。


この事実がより一層絶望の二文字を強調してくるのだが、彼女にとってその程度は諦める理由にはならない。


(いや…今日こそ見つけてみせる!なんたって今日は…出会いの入学式だから!!)


こんな絶望的な状況でも彼女が深淵まで堕ちなかった理由はその部分にあり、彼女は気合を入れるために勢いよく身体を起こした。


「よしっ!今日は気合入れていこっ」


少女はいつにも増して時間をかけて支度をしようと決意し、今日再開するはずの最愛の人のために様々なコスメを使って自分を最大限に綺麗に仕立て上げた。


「よしっ!これなら大丈夫…!」


今の状態ならいつ彼に会っても問題ない見た目をしているため、少女は大いなる自信を持って家を出発した。


「いってきます」


彼女にとっても大切な意味を持つ言葉を言い残し、軽い足取りで新たな学舎へと向かった。


それから少し時間が流れた後少女はとうとう学校に到着し、早速校舎に向かって歩いて行った。


「おはようございます」


すると少女は受付にいるある美少女から挨拶をされ、思わず一歩後ずさってしまう。


どうしてそんな行動をとってしまったのか、その理由はとても簡単なもので。


(こ、これだけ可愛い人が同じ学校にいたらリオを取られちゃうかも…!!)


少女はリオがこの美人に惚れてしまうことを危惧していて、心の中で対抗心を燃やし始めた。


(いや、絶対に負けないんだからっ!!)


少女は勝手に目の前の美人と戦うことを妄想し、まるで戦乙女かのように心の炎を燃やした。


「え、っと…どうかしました?」


流石に数秒間黙って見つめられると困惑してしまったようで、目の前の美少女は頭の上に?を浮かべながら首を傾げている。


それに対して少女は対抗心をむき出しにした笑顔で挨拶を返した。


「いえ、何もありません。おはようございますっ」

「はあ…えと、新入生ですよね?お名前をお願いします」

香賀佳奈美(かがかなみ)です」

「香賀さん…あ、ありました」


その美少女はまだ少し困惑しているようだがとりあえず仕事をしようと佳奈美の名前の欄にチェックを入れ、早速クラスを案内してくれ__


「ん…?あなたもしかして新入生代表で挨拶をされる方ですか?」

「はい、そうです」


どうやら佳奈美の名前の横に付箋が貼られているようで、彼女はそこに書かれている内容をこちらに話してきた。


「あなたは今から打ち合わせがあるので私と一緒に生徒会室に来てくれますか?」

「あ、はい…」


早く教室に荷物を置いて彼と思わしき人物を探して回ろうと考えていたがどうやらそれは叶わないらしく、佳奈美は悲しみを表情にしながら先輩について行った。


そして歩くこと数分、生徒会室と書かれた教室に到着し、その先輩は軽くこの部屋についての紹介を始めた。


「こちらが生徒会室です。ここでは生徒会役員が放課後などの時間に集まって話し合いをしたり仕事をこなしたりします。この学校の方は皆んないい人ですから、私たち生徒会役員にいろんな仕事を任せてくれているんですよ。まあそのおかげで仕事は沢山あるんですけど、とてもやりがいがあって楽しいですよっ」


彼女は本当に楽しそうな笑みを浮かべていて、今の生徒会の説明すらも楽しいものと感じているのだろう。


それを目で感じた佳奈美は(眩しいっ…)という感想を抱き、先程以上に危機感を強めていった。


「ふ、ふーん…そうなんですね?」

「はい!とっても楽しいんですよ?個人的には夏休みに生徒会役員で行ったバーベキューとか__」

「それで、私は今から何をすればいいですか?」


楽しそうに生徒会の話をしている先輩を見ていると眩しすぎて目をやられそうになったため、佳奈美は無理矢理にでも話を変えさせた。


「あ、そうでしたね。ごめんなさい。話が逸れてしまいました」


その先輩は苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうにしていて、なんだかこちらが悪いことをしてしまったような気分になってしまう。


だがしかし、彼女に対して罪悪感など抱いていられない。


なぜなら彼女は…ライバルだから!!


という感じで佳奈美は先輩に対する罪悪感など一切抱かず、あくまでもライバルとして耳を傾けた。


「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね。私は神庭花音(かんばかのん)と言います。神の庭に響く花の音と覚えてくださいっ」


花音はニコニコの笑みで厨二病っぽい覚え方を推奨してきて、これには佳奈美も思わず苦笑いとなった。


「そ、そうさせてもらきます…神庭先輩…」

「あら、そんなに畏まらなくていいんですよ?私たち、今日から仲間なんですから」


花音の言う通り、佳奈美は今日から生徒会役員の一員となる。


これから共に様々な困難に立ち向かう仲間としてもっと親密的な呼び方をしたいような花音は、先程と変わらずニコニコとしながら期待の眼差しを向けてくる。


「さあさあ…!私を名前で呼んでください…!」

「…っ」


ふんわりとした見た目に反してかなり強引に攻めてこられて流石の佳奈美も顔が強張ってしまい、直後それを誤魔化すように深呼吸をして花音の目を見た。


「花音…さん…?」

「ふふ、なぁに?佳奈美ちゃん♪」


花音を名前呼びしてあげると彼女は露骨に上機嫌になり、先程よりも満面の笑みを浮かべて両手を叩いた。 

「さて!早速中に入りましょうか!早く説明しないと会長に怒られてしまいますし!」

「は、はい…」


佳奈美は花音の後ろをついて行くようにして生徒会室に足を踏み入れた。


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