2 君との出会い
少し暖かさが見え始めた春の日、柊は晴れて高校生となり、今は新たな校門を潜って校舎に向かっていた。
「おはようございま〜す、入学される生徒さんはこちらです〜」
校舎の前では在校生が受付をやっていて、柊は早速その場に向かった。
「おはようございます」
受付のところに座っていた女生徒は綺麗な黒髪を真っ直ぐ伸ばし、彼女はそれに負けず劣らずの綺麗な姿勢を保っていて、見るもの全てを引き込むようなオーラを放っていた。
それだけでなく彼女は誰にも負けないような整った顔を持っていて、肌も雪よりも白かった。
その上彼女は誰しもを引き込むような藍色の瞳を持っていて、周りの生徒も彼女の美貌に引き込まれている様子だった。
「うわ、あの人綺麗〜」
「何年生だろぉ?私も挨拶されたいわ〜」
「あいつ…何であんな綺麗な人に…!!」
そういった声はしっかりと柊の耳元に入ってきているが、それをしっかりと無視して目の前にいる綺麗な女生徒に挨拶を返した。
「…おはようございます」
「ふふ、どうしたんですか?」
「いやどうしたも何も…」
あまりに狂気じみた完璧美人に柊は一瞬ジト目を向け、直後に呆れたようにため息をついた。
「はぁ…まあいいか。とりあえず受付してくれない?」
「え〜?それはいたしかねますね〜」
「なら他の人にしてもらおっ」
この綺麗な人は見かけによらず面倒な性格をしていたため隣に座っている人に受付をしてもらおうとそちらを向いたのだが、そこでなぜか思い切り腕を掴まれてしまい。
「柊…??こっちにしなさい…??」
「っ…」
彼女から全く笑えていない笑みを向けられて柊もすっかりビビってしまい、ほぼ反射的に首を縦に振った。
「はい…」
「あら、気が変わったんですね?いいですよっ。では名前を教えてくださいっ♡」
「神庭柊です…」
「あら、私と同じ苗字ですねっ♡」
「いや同じ苗字も何も…」
柊は先程から心の中で溜まっていたものを吐き出した。
「俺ら姉弟じゃねぇか!!!!」
柊は先程から初めて会ったかのように振る舞ってくる姉への不満を爆発させ、それは周りの生徒にもしっかりと知れ渡った。
それは当然隣に座っている姉の友達らしい人も同じのようで、彼女は目を見開いて驚きを見せている。
「え!?この人が噂の弟くん!?」
「そうですよっ」
「初めまして。うちの姉がいつもお世話になっています」
「は、初めまして…こちらこそいつもお世話になってます…」
彼女はまだ困惑している様子だが、それは一旦放置しておいて今はさっさとこの場から去るために姉に対して口を開いた。
「で、早く受付してくれない?早く教室行きたいんだけど」
「わかっていますよ。あなたは…一年三組ですね。すぐそこの階段を登って左にある教室です」
「おっけー、ありがと。じゃ」
「また後で」
姉弟は軽く手を振って別れを告げ、柊は早速案内された自教室に向かった。
「この前の映画見た??」
「え、あれめっちゃ面白かったよな!!」
「あたし今日新しいコスメ買ってさ〜」
「え、もしかしてあのブランドの!?」
扉を開けて目の前に広がった空間は思ったよりも賑やかなもので、柊は心の中で少しばかりの焦りを覚えた。
(コレ…もう友達できちゃってる感じ…?)
割と遅めの時間に来たせいかもうクラスの半数以上はすでに友達作りを終えている様子で、柊は何とも言えない気まずさを抱えながら自分の席を探し回った。
(クソ…早起きするんだったな…。まあいいか。時間が解決してくれるだろ)
そんな楽観的なことを考えつつ教室を歩いているとようやく自分の名前が書かれた席を発見し、そこに静かに腰を下ろした。
「ふぅ…今日からここが俺の学舎か」
座って一息ついた後、これから待ち受けている青春について思いを馳せる。
(これから何が待ってるかな〜。友達と放課後に飯食いに行ったり授業サボったり?夏休みには海とか行きたいよな〜)
後ろの席から何となく教室を見渡し、これからどのような思い出が刻まれるのかで胸を躍らせる。
(冬はみんなでクリぼっちパーティーとか、面白そうだよなぁ…)
そこでクリスマスで一人寂しく家にいた過去を思い出し、そしてついには産まれる前のことを思い出してしまう。
(あの時は…毎日クロエが一緒にいてくれたのにな…。流石にあんなの経験すると、ぼっちは耐えれないんだよなぁ…)
今まで冗談っぽくはぐらかしてきたが、正直言ってクリぼっちは辛い。
あれだけ充実した日々を送ってきたんだから、これだけ空虚な日常なんてつまらなすぎる。
だから高校では彼女の一人ぐらい作って充実した毎日を送りたいと考えたりもしたのだが、その度にクロエの姿が頭をよぎる。
(クロエ…俺はどうすればいいんだ…?)
クロエ以外の人は嫌だ。
でも、クロエはこの世界にいない可能性の方が圧倒的に高い。
なぜならそもそも柊という前世の記憶を持った人間があまりにも特殊だからである。
つまり、仮にクロエがこの世界に転生していたとしてもその記憶を持っている可能性は限りなく低いのである。
(諦めた方が…幸せになれるのか…?)
あまりにも絶望的なこの状況に直面すると一瞬邪念が頭をよぎってしまうが、すぐに首を強く横に振ってそれを打ち消し、気持ちを切り替えてポジティブに考え始めた。
(いや違うだろ!!俺の相手はクロエしかいねぇだろ!!確かにクロエがこの世界にいるかはわからないけど、俺っていう前例があるから希望はあるだろ!!)
そう、確率は決してゼロでは無い。
ならそれに向かって突っ走ってこその自分であるし、そこで自信を失っていたら彼女もきっと__
「隣、失礼するね」
「?」
柊は頭の中で様々なことについて考えを巡らせていたのだが、その途中で隣から美声が届いたためすぐにそちらに目をやった。
そこで柊の目に入ってきたのは、およそ言葉では表せないほどあの人に似ている美少女であり、柊は一瞬言葉を失ってしまう。
「え…?」
柊の頭の中にはクロエの姿が鮮明に映し出され、その隣の少女が本物のクロエに見えた。
「ん…どうしたの?私の顔に何かついてる?」
柊がずっと凝視しているのに不快感を感じたのか、その少女は少し眉間に皺を寄せたまま首を傾げていた。
そこで柊は彼女がクロエでは無いことに気づき、すぐに言葉を取り繕った。
「い、いや…!!別に何もついてないけど…綺麗な人だなと思って…!!」
その発言をした瞬間彼女は嬉しそうに笑ってくれたが、柊の頭には一斉に後悔が襲ってきた。
よく見ればクロエとは全然見た目が違うし、クロエ以外の女性を慌ててたとはいえ褒めてしまったからだ。
そしてさらに一つ、柊の頭には疑問が浮かんできた。
(何で俺…この人をクロエと見間違えたんだ…?)
流石にボーッとしていたとしてもクロエとただの美少女を見間違えるわけがない。
だが現に柊の魂は彼女がクロエであると判別したため、より一層わけがわからなくなる。
「ねぇ…ちょっと質問してもいいかな?」
またしても様々なことについて頭を巡らせていると隣の美少女から怪訝そうな目つきでそのような言葉を言ってきて、柊はまた慌てて返事をする。
「い、いいぞ…!!ばっちこい…!!」
慌てていたせいで変なことを口走ってしまっていたが、彼女は気にすることなく質問をし始めた。
「私たち、どこかで会ったことがある?」
柊の身体には言葉では言い表せない程の期待が渦巻いた。