133 憂鬱な始まり
憂鬱な体育祭当日。
あまり表舞台に立ちたくない柊にとっては嫌な一日であるが、他の生徒はその限りではない。
熾烈なトップ争いに燃える男たちに、必死に声援を送り続ける女子達。体育祭序盤から三年男子の陸上部同士のデットヒートを見た時なんかはもう何かのプロスポーツを観戦しているのかというぐらいの歓声に包まれていた。
そしてそれから少し経った今、もう一度同じような歓声が沸き立ち始めていた。
「うぉぉぉ!!神庭先輩だ!!」
「体操着姿可愛い〜!!」
「付き合いてぇ!!」
「てか結婚してほしい!!」
誰よりも目を引く雪のように真っ白な肌、艶やかで光り輝く黒髪。
そんな高校生離れした容姿を持った高校のマドンナ的存在の彼女が見据える先は、もちろん愛する弟の姿だった。
「あ、柊〜!!」
全ての観客の視線を集める彼女は、なぜか冴えない一人と男に手を振っていた。
「え?誰に手振ってんの?」
「もしかして俺じゃねぇか!?」
「いや絶対俺だろ!!俺に一目惚れしたんだよ!!」
「あの人に限ってそんなわけねぇだろ!!俺以外なんてあり得ないからな!!」
周りの男達はそんなありもしないことを嘆いていて、その周辺にいる女子達にドン引きの目を向けられていたりする。
しかしそんな女子達の中にも全く気にしていない様子の子がいて、彼女はこちらに笑顔で話しかけてくる。
「手、振られてるよ?こっちもしてあげないと」
外国人と見間違うような白銀の髪を後ろで結び、長いまつ毛の長さが分かるぐらいの距離でこちらを見ているのは、一年生では1番と言われるほどの美少女、佳奈美である。
佳奈美は柊の彼女なので、こうやって他の男のことを気にせず話しかけてきている。そして柊は当然の如く佳奈美の言いなりなので嫌でも頷くことしかできない。
「…ああ」
人前で姉と仲がいいことをアピールしたかなんてないんだが、佳奈美に言われてしまったので仕方なく手を振りかえした。すると花音はすごく嬉しそうに笑みを浮かべ、直後にこちらに視線が集中してしまう。
「ん!?誰だ!?」
「あ、なんだ弟か」
「焦らせるなよ〜」
やはり姉は人気なようだ。たかが手を振った程度でザワザワするなんて。
何となくモヤモヤする気もするが、そんなことは言ってられない。なぜなら、彼女達のスタートが迫っていたからだ。
「位置について!よーい!ドン!!」
そんな合図がした直後、彼女達は一斉に走り出した。
そしてまず先頭に立ったのは、もちろん可憐な美少女だった。
「おー!!花音さん早い!!」
「いい感じだな」
先頭を奪い去る花音の姿に観客達は魅了されていく。
「はえー!!」
「いけー!!」
「かわいー!!」
そんな大声を気にかけず、彼女は涼しい顔で後続を突き放していく。
そして柊たちの目の前を通りそうになった時、二人は彼女に大声で歓声を送った。
「花音さん頑張れー!!」
「そのままいけー!!」
「はい!!!」
なぜか走りながらニコニコ笑って返事をしてきた。まあそれぐらい余裕があるということだろうから安心だ。
そして結局花音はそのまま突っ走り、先頭でゴールテープを通過した。その瞬間、大きな歓声が上がった。
「「「うぉーー!!!!」」」
いや、これは雄叫びの方が近いな。てかやっぱ人気者だな。
でも花音もあまり表舞台に立ちたくないタイプだから多分恥ずかしがっている。
「おーい!!柊〜!!」
…いや、羞恥心を少しでも抱いている人があんな笑顔で手を振ってきたりしないか。なんかさっきより楽しそうだし。
「柊!!花音さん手振ってるよ!!」
「あ、ああ…」
そしてまた佳奈美の指示で手を振り返した…。
そんな風にして激動の体育祭は幕を開け、柊は早速十年分の恥をいたのだった。




