127 膝枕
チュンチュンチュン__。
昨夜は災難だった。
まずテントに入るなりすぐに花音に押し倒されるし、それを見た佳奈美が怒って花音に対抗して抱きついてくるし。それを見て拗ねた花音が佳奈美を力ずくで退けてキスしようとしてくるし、今度こそ我慢の限界の佳奈美がマジでキスしてきたし。それはもう災難な夜で、結局柊はほとんど眠ることができなかった。
そしてそのせいかテントを開いた時に差し込んでくる太陽がいつも以上に眩しくて、疲労がドッと身体にのしかかってくるのを感じた。
(…マジでヤバいかもな…。流石に寝てようかな…)
昨日は温泉でのぼせて一瞬寝込んだりもしたし、よく眠れなくて疲れが取れていないのが大きく響いているようだ。
「おはようございます」
テントから出てすぐ、目の前に花音が現れて何事もなかったかのように挨拶をしてきた。全く呑気なものだ。こっちは疲労でぶっ倒れそうだというのに。
「おはよ…」
「…?大丈夫ですか?どこか悪いんですか?」
しかしやはりブラコンの姉はこちらの体調不良に一瞬で気がつき、すぐに身体を支えてくれた。
「え、柊!?どうかしたの!?」
そして佳奈美もこちらにやってきて焦っている様子を見せた。その原因が君たちだと言ってやりたい。
だがそんなことを言えば二人ともガチで反省して死ぬほど謝ってきそうだし、これからこういう積極的なことがなくなるかもしれないので正直に言うつもりはない。意外と佳奈美に嫉妬されたり花音のブラコンに付き合わされるのは嫌いではないから。でも流石に限度は守ってほしいから少し回りくどく言ってみるか。
そういう決断に至った柊は、何とか顔を上げて二人の目を見て話し始めた。
「…なんかわからないけど頭が痛くてな…。昨日は色々あったから疲れが溜まってるのかも…」
「そ、そうなんですか!?」
「じゃあえっと、とりあえず日陰に行こっか!!」
二人は自分たちが原因であることなど全く気づいていない様子で、焦った目をして柊をテントの中に運び込んだ。
「とりあえず寝させましょうか。枕は…私の膝にしましょうか」
「っ!!ダメです!!私が膝枕します!!」
「いえ、ここは小さい頃から柊の看病を務めてきた私の膝にするべきです。慣れていない膝だと寝心地が悪いかもしれませんからね」
「そ、そんなことありません!!私だってたくさん柊に膝枕してますから!!」
「そうなんですか?でも二人は付き合い始めてから日が浅いですよね?それに対して私は赤ん坊の頃から柊のことを愛していましたから♡」
「いや、愛なら私の方が上です!!」
「………」
そういうのが頭痛にクルということを言ってあげた方がいいだろうか。
昨晩も二人はこんな感じで柊のことで争いを繰り広げていて、柊の中にはそろそろいい加減にしてほしいという感情が芽生えていた。
でもそれを言ってしまうと二人がガチで凹んでしまうからなぁ…。難しい所である。
「コラ、二人とも。そんなに騒いでも柊を苦しめるだけだぞ?」
そこで元生徒会長である沙奈が割って入ってきて、二人の喧嘩を止めてくれた。
「っ…そ、それはそうですね…」
「確かに…ごめんね、柊」
「はぁ、全く…。とりあえず看病は私がやる。二人のどちらかがやるとまた喧嘩になるからな」
「「っ!!…はい…」」
まさかの第三勢力の登場に二人はつい物申したくなっていたようだが、沙奈の目力に押されてシクシクと下がっていった。
そしてそれを見届けた後、沙奈はこちらを向いて軽く頭を下げてきた。
「全く…すまない。あの二人には後でちゃんと言っておく」
「謝らないでください。悪いのは沙奈さんじゃありませんから。それと、二人にはあまりキツく言わないであげてください。今回は単に二人の愛が空回りしただけですから」
この人が怒る時はどれぐらいの熱量か知らないが、トラウマ級だったりしたら後で二人を慰めるのが面倒なので一応止めてはおく。
すると沙奈は一瞬目を見開いたのだが、直後に小さく笑みを向けてきた。
「…わかった。軽く言うだけにしておく」
「ありがとうございます」
「優しいんだな」
「そんなことありませんよ」
「…そうか。そういうことにしておこう」
とりあえず彼女には納得してもらえたので良しとする。
それよりも今問題なのは彼女がこちらの頭付近に正座をしてきていることだろうか。
「それよりも、枕が必要だろう?花音や佳奈美ほど柔らかくはないかもしれないが、私も一応女だからある程度の寝心地は保証できるはずだ」
「…もしかして膝枕しようとしてます?」
「当たり前だ。病気にはコレが一番有効だからな」
「????」
謎情報すぎる。一体どこから仕入れたんだ。
しかし悪い話ではない。どこか冷え切った枕よりも暖かくて弾力がある膝枕の方が何となく癒される気がするから。まあ柊がこうなってしまっているのは多分昔から体調不良になると花音が膝枕してくれたからだろう。
…もしかしたら花音に調教されてしまっているのかもしれない。いやそんなことは考えたくないから考えるのを放棄しよう。そしてとりあえず今目の前にあることに立ち向かっていこう。
「…じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「ああ、任せてくれ」
そう言って頭を乗せることを許可してくれた彼女の膝は、思っていたよりも女の子らしくてとても柔らかかった。




