123 お怒りの時間
ご飯を食べ終えてから一時間ほど経った頃、一同は併設されている温泉へ足を運んでいた。
「じゃあ、また後で」
「はい!あ、混浴もあるみたいですけど」
「ああ。ちゃんと肩までお湯に浸かるんだぞ〜」
「むぅ…」
柊は何事もなかったかのように男湯に入って行った。すると花音は少し拗ねていたが、周りのみんなは意外そうに彼女のことを見ていた。
「やはり花音は弟のこととなると積極的なんだな」
「それは勿論ですよ。私は柊のことを愛していますからね」
「まさかあなた、本当に普段から彼と一緒に入っているの?」
「そうですよ?」
「すごいですね…!これが愛なんですね…!」
「はい♡何せ私たちは家族ですから♡」
「家族でもここまでラブラブな人は見たことがありませんけど、それでこそ花音さんですね」
「ありがとうございます♡」
驚愕、興味、関心。そんな気持ちが一斉に花音に向けられていて、彼女はとても嬉しそうにしている。
だがしかしそのことをあまり良く思っていない人物もいて、彼女は柊に対する怒りを抱えながら頬を膨らませていた。
「あら?佳奈美ちゃん、もしかして怒ってます?」
それにいち早く気づいたのはやはり花音で、その言葉が放たれた瞬間に視線が一気に集中する。
「もしかして嫉妬しているのかい?」
「ふふ、あなたそんな顔もするのね」
「だ、大丈夫だよ!!花音さんは家族として愛しているだけだから!!」
「ですが彼も彼です。高校生にもなって姉とお風呂に入るなんて、誤解されても仕方ないですから」
みんなそれぞれの反応を示してくる。しかし佳奈美の気持ちは全く治らなかった。
「…もういいです。柊なんて知らないっ」
「「「「「あ…」」」」」
佳奈美を完全に怒らせてしまった。しかも彼がいないところで。
コレには流石の花音たちも罪悪感を抱き、なんとか佳奈美の心を鎮めようと言葉をかける。
「あ、あのっ…!!実は私が強制しているだけであって、柊は悪くないんです!!」
「…」
全く話を聞いてくれず、そのまま脱衣所に入って行った。その瞬間一同は目を見合わせてやらかしたことを自覚したが、これは急いだ方がいいと考えて彼女の後ろを着いて行った。
「あ、あの…!」
「…」
花音は完全に無視されている。
これは本当に怒っているやつだと全員が自覚する。
「なあ佳奈美…花音も反省しているし謝っているみたいだから、許してやってくれないか?」
この中で最年長の沙奈がなんとか仲裁をしようとするが、佳奈美の怒りは全く鎮まらなかった。
「…許しません」
「!!!…」
ガーン、という感じで絶望した顔を浮かべる花音。それに寄り添う友人たち。そして何とか解決しようと声をかける元生徒会長と現在生徒会長。
「本当に身勝手で申し訳ないんだが、今日はせっかく生徒会のイベントで来ているんだからどうか怒りを収めてはくれないか…」
「この件は私から花音に強く言っておくから、今はどうかお願いできないかしら」
彼女たちは佳奈美に声をかけているが、そんな声は全く届いていない。むしろ佳奈美の怒りは大きくなり、結局不満は大爆発を起こした。
「もう柊なんて知らない!!!」
可愛らしさの中に怒りのある声でそう叫んだ。
普段はふわふわしてて優しくてどこか品のある彼女がここまで乱れている姿など誰も見たことがなかった。そのためこの場にいる全員が本当にやってしまったと冷や汗をかき始めていたのだが、それは全くの杞憂に終わる。
「ふぅ、スッキリした。あれ?みなさんどうしたんですか?温泉、入らないんですか?」
「え…?」
「怒っていたんじゃ…」
「…?はい、怒ってますよ?柊はちゃんと謝ってくるまで絶対に許しません」
「えと…花音には怒っていないのかしら…?」
「…?何で花音さんに怒るんですか?」
「「「「「……」」」」」
みんな頭の理解が追いつくのに時間がかかったが、数秒後には一斉に大きく息を吐いた。
「はぁ…驚いたぞ…。本当に花音に怒っているんじゃないかって」
「え!?そんなわけ無いじゃないですか!?悪いのは全部柊なんですから!!」
((((いやそんなことはないと思う))))
柊はどちらかと言えば被害者であろうが、佳奈美の価値観的には加害者らしい。女の子って難しいね。
「そんなことよりも!!早く温泉行きましょっ!!私ずっと楽しみにしてたんです!!」
「…そうね。せっかくキャンプに来たのだから楽しまないと」
「確かにそうだな」
「私も早く入りたい!!」
「あまりはしゃぎすぎてもダメですよ。他のお客さんもいるかもしれませんから」
「はーい!」
「……」
一瞬どうなるかと思ったが、場はいつも通りの雰囲気を取り戻した。それに対してはみんな安堵の気持ちを抱いたが、人一倍大きく息を吐いた人もいた。
(どうなることかと思いました…。後でちゃんと佳奈美ちゃんと柊に謝っておかないと…)
この状況を作り出した原因でもある花音は気づかれないように大きく胸を撫で下ろし、後で土下座でもしてやろうかと考えた。
しかし流石にそこら辺の常識は弁えているので、とりあえず友好の証として佳奈美の胸でも揉んでおこうと考えるのだった。




