121 センスをくれ
キャンプ場についてから約一時間後。やはり女性が多いので準備にはかなり手間だったのだが、それでも柊が力を発揮してようやく全ての準備を終えた。
そして今、ちょうど良い時間ということもあり早速バーベキューを開始するそうだ。
「さて、火を起こそうか」
「あ、俺やりましょうか?」
万が一にでも女性の手に火傷の痕が付いたらいけないと自分が変わるよう提案したのだが、そこでなぜか姉が乱入して来た。
「柊?あなたはもう休んでて大丈夫ですよ?」
野菜などの準備をしている花音は少し離れたところから水を差してくる。しかし柊もちゃんと手伝いをしたいと思っているので、彼女の言葉にしっかり反抗する。
「いや、俺は手伝うよ。その為に呼ばれたんだし」
「別にその為というわけではないのだけれどね」
「そうよ。今日は単に生徒会にはどんな人がいてどんな事をしているのかを知ってほしかっただけだから。そういうことは考えずに楽しんでくれればいいのよ?」
元生徒会長の沙奈、そして現生徒会長の麗沙がそう言ってくれる。やはり生徒会には優しい人しかいなくて困ってしまう。
だがしかし、だからこそ手伝わなければならないという信念が心にあり、彼女らの言葉を気にかけずにライターを少し強引に奪った。
「そう言ってくれるのは有り難いですけど、見たところ今日は女性しかいませんよね?流石に皆さんの中の誰かの肌に傷がついちゃったりしたらマズイですから。こういうのは全部俺に任せてくれたら大丈夫ですよ」
キャンプ用のライターを手に取り、着火方法を確認する。そして今度は一度お試しで着火してみ__
「柊?あなたは休んでてくださいね?」
「え」
だがそこタイミングで花音がライターを奪ってきた。
「何で?別にいいじゃん」
「花音?柊もこう言っていることだし、やらせてあげたらどうだ?さほど疲れてもいないみたいだし」
沙奈が助けてくれる。やはりウチの姉とは違ってわかっている人だな。
「いやそういう問題じゃないんです。火傷では済まなくなりますよ?」
「ん?どういうことだい?」
何を言っているんだこの人は。という感想を抱いたのは柊だけではなく、沙奈や麗沙も疑問を抱いていた。それに対し、花音は過去の記憶について語り始めた。
「あれは四年前でしたか…。家族でキャンプに来て、せっかくなので柊に火おこしを頼んだんです」
「あ〜…そんなこともあったなぁ…」
何かを思い出してしまった柊。しかし花音は話を続ける。
「いくら柊でもそれぐらいは問題ないだろうと思っていたのですが、次の瞬間に柊がライターを落としてしまいまして」
「……」
「しかもタイミング悪く火がついていたので草に燃え移ってしまって…。あの時はかなり焦りましたね…あはは…」
花音の目が死んでいる。あの時そんなに焦っていたのか。申し訳ない。
しかしこちらにもその時の言い訳は存在するのでしっかりと言わせてもらう。
「まああの時はたまたま運が悪かったからな。誰にでもそういう時はあるだろ。多分」
「…じゃあ去年自分の指を包丁で切り落としそうになったのも三年前家を燃やしそうになって何とか火傷で済んだのも運が悪かったからですか?」
「……」
何も言い返せない。
「そ、そんなことがあったのね…。柊くんって…料理が苦手なのね」
「いやこれは苦手というか…圧倒的にセンスがない…?と言った方が正しいだろうか…」
「……」
酷い言われようだ!間違ってないけど!!
心の中に溜まっていた悲しみの気持ちが爆発し、泣きそうになってしまう。
「だ、大丈夫…?」
「!!」
しかしそこで天使が現れ、優しく背中を撫でてくれる。
「佳奈美か。危ないから君は離れていた方がいいぞ」
「危ない…?よくわからないですけど私は大丈夫ですから。それよりもコレ、どうしたんですか?」
柊が悲しそうに下を向いていたのを見て駆けつけてくれた佳奈美が何があったのかと訊いている。それに対し、花音がちゃんと説明をした。
「簡単に言うと、柊は料理が出来ないという話です」
「あ〜…なるほど…」
「納得しないで…!!」
佳奈美は以前柊と一緒に料理をしたことがあるので彼のセンスがどれだけ絶望的かを知っている。なので佳奈美は擁護できなくなって明後日の方向を向いてしまった。味方はいないのか…!
「じゃあ…柊には休んでいてもらった方がよさそうだな…?」
「そうね…。さっきは沢山荷物を運んでもらったし、丁度いい休憩になると思うわ」
「…わかりました」
本当は手伝いたかったが、コレばかりは仕方ない。
それもコレも真実を知っている花音と佳奈美が悪い!!
…いやセンスがない自分が悪いだろ。
そういう事実は置いておいて、仕方がないので佳奈美が料理している姿でも眺めることにする。




