116 勘の良い母
ずっと一緒にいたい気持ちは山々だったが、流石に家に帰らないわけには行かないので、佳奈美は昼前には自宅に帰って行った。
そして姉の花音は友達とランチに行くからと言って家を出て行って、今は母の沙也加と二人で昼食を食べているところだ。
「それで、昨日は佳奈美ちゃんとどうだったの?」
あるタイミングで昨晩のことを訊いてくる。まあ昨日あんな言葉をかけてきたんだから結果が気になるのだろう。
いや正直に言うわけないけどね!!
「別に何もないけど。普通に寝ただけ」
「ふ〜ん…そうなのね♡」
なぜかニヤニヤとした笑みを向けてくる。そして彼女は何かを理解しているのかと感じた柊は咄嗟に話を変えようとする。
「というかこのサラダ美味いな。いつもよりシャキっとしてて食感が最高だ」
「今朝コッソリ手洗いしてベランダに干してあるタオルは何かしら?」
「……」
「あとサラダはいつもと何も違わないわよ」
もう完全にバレている気がする。
ちなみに彼女が言っていることは全て事実で、汚れたタオルをコッソリ手洗いしてコッソリベランダに干しておいた。でもこの家の全ての家事を担当している彼女には簡単にバレてしまっているようだ。
だがしかし、ここで諦めるわけにはいかない。それは自分のためにも、佳奈美の名誉のためにも。とりあえず何とかいい感じの言い訳を言ってみる。
「なんか意外と部屋が暑くてな。その時にタオルを使ったんだけど佳奈美に嗅がれて汗臭いとか思われたくなかったからコッソリ洗っておいたんだ」
「へ〜、ちゃんと自分で洗ったのね」
「それは勿論。俺だってもう高校生だし自分の身の回りのことぐらいは自分で__」
「あなたがそんなことをしているの見たことないけどね」
「……」
もっと普段から自分のことは自分でしておくべきだった。もしそうしていたら今回だって勘繰られなかった筈なのに。
だがしかし、今更そんなことで悩んでももう遅い。だって既に沙也加から尋問されているから。
「それで!?ちゃんと上手くできたの!?」
「は?…それは…」
もうダメだ。この人相手に隠し事なんてできない。
そんな諦めの気持ちを抱いた柊は、濁しつつも正直に答えることにした。
「失敗ではないと…思う…」
「そうなのね!!それならよかったわ〜。女の子は初めてを大切な記憶としてこれから一生覚えていると思うから、いい思い出にできたのなら何よりだわ」
最初は佳奈美とそんなことをするつもりはなかった。でもこの母が女の子も期待しているとアドバイスをしてくれたおかげで初めてをいい思い出にすることができたのは事実。
心の内ではちゃんと感謝している。一応。
「それで、どうだった?佳奈美ちゃん意外と期待してたんじゃない?」
「それは…まあそうかもな」
「やっぱり。好きな人相手にはそういう気持ちを抱くものなのよ、女の子も」
「……」
正直母に言われるまでそんな気持ちを抱くことがあるなんて考えもしなかった。こちらが一方的に欲を押し付けて嫌われることを恐れていた。
でも実際は違った。沙也加の言う通り、佳奈美は期待していたし、欲だって沢山ぶつけてきた。それもこれもこの母親の予想通りで、二人の愛を深め合えたのも彼女のおかげ。
もう仕方ない。普通に感謝を伝えるしかない。彼女のアドバイスはそれに値している。
「ありがとな。背中押してくれて」
「別に、私はただ自分の昔の気持ちを話してあげただけよ?」
「その話は脳から消したいけどな」
「何でよ〜!!私の大切な思い出なのに〜!!」
そりゃ親がイチャイチャしている話なんか記憶から消したいわ。でもそうやってイチャイチャしてくれた経験があるからこそ、今回の成功がある。つまりこの親の記憶と柊の記憶は結び付けられているので、多分一生忘れられないのだ。
まあそこは一生の不覚であるが、その分一生の思い出ができたのでプラマイゼロということで。
「まあ何でもいいだろ。それよりこの後暇?」
「え?家中掃除して買い物に行って夕飯の支度とお風呂の準備と、あと洗濯物を取り込んだりしないといけないわね」
親ってすごいな。こんな仕事量毎日こなしてんのか。流石にこれには脱帽だ。
「なんか手伝うよ。俺は暇だし」
「え?別にいいわよ。いつもしていることだし」
「いやいや、たまには手伝わせてくれよ。母さんもたまにはゆっくりしなよ」
「柊…」
驚いたように、そして嬉しそうな顔を向けてくる。
「じゃあ、お願いしちゃおうかしら。とりあえず晩御飯の支度以外で」
「何でだよ!!」
「そりゃあ…あなたが料理なんてしたら家が何軒あっても足りないから…」
「俺を何だと思ってるんだよ!!」
否定できないのはすごく悔しい。でもまあ、他にも何か手伝えることがあるなら出来るだけやっていこう。
せめてもの恩返しを夏休み期間ぐらいはやってみようと誓う今日この頃であった。




