114 愛してる
「……」
なんか、すごく心地いい夢を見ていた気がする。
前世で好きだった女の子と、今世で好きな女の子。つまりクロエと佳奈美と一緒に一晩を過ごす夢。
起きてみて冷静に考えてみれば好きな女の子の前で他の女の子とイチャイチャするなんてめちゃくちゃ気まずいが、まあ楽しかったからどうでもいい。
しかもこの二人はもしかしたら同一人物かもしれない。だからこそ、柊の中の罪悪感はあまり強く芽生えていなかった。
「……」
夢のことを思い出しつつ、隣で気持ちよさそうに眠っている彼女に目を向けた。
見た目こそ似ていないが、その性格や仕草はクロエそのもの。こうやって眠っている姿さえ、彼女にしか見えなくなっている。
(…てか、クロエかどうか訊くの忘れてたな)
そういえば今晩に質問をしようと思ってきたのだが、勢い余って言い逃してしまった。
…いやちょっと待て。勢い余って?
(やっちまったぁぁぁぁ!!!!)
そんなつもりは一切なかった!!決して、そういうつもりだったわけではない!!ただ向こうから誘われただけだ!!
(あぁもう…大切にするつもりだったのに…!!誠実なお付き合いをするつもりだったのに…!!)
心の中に呻き声が湧き出る。だがしかし、今更そんなことを考えたとてもう手遅れだ。
現に今自分の上半身は裸だし、彼女もなぜか下着しか付けてないし。…なんか勝手に腕枕させられてるし。
(もうこれじゃあ不純カップルじゃないか…!!ド変態バカップルじゃねぇかぁぁぁ!!!)
それは世の中の色んな人に怒られるぞ。
別に高校生ならこれぐらいのことは当たり前…とまでは言わないがあってもおかしくはない事だろう。多分。
でも柊の中では高校のうちは手を出さず、ある程度自分の気持ちの整理がついた頃にしたかったのだ。まあでも前世ですら同じことをやらかしているからあくまで理想に過ぎなかったのだが、このタイミングでその理想は塵と化した。
(俺はもう無理だ…このまま前世みたくお泊まりするたびに手を出すんだ…。そして佳奈美に嫌われて人生終了するんだ…)
完全マイナス思考。これも前世と同じ。
しかし向こうから誘ってきたのは事実だから嫌われることはないということにはまだ気づいていない。
(せめて最後だけ…肌の温もりを堪能させてくれ…)
シクシクと泣きそうになりながら佳奈美の背中に腕を回した。
(あぁ…あったかいな…。なんかもう色々とどうでもよくなってきたな…)
彼女の温もりを感じるだけで全てを忘れる柊。もう佳奈美抜きでは生きられなくなっている。
(俺佳奈美のこと好きすぎるな…。ま、それが最高なんだけど)
起こさないように頭を優しく撫で、庇護欲を掻き立てる。
「(絶対に守るからな、佳奈美)」
前世とは違って戦いがそこまで身近にはないとはいえ、これほどの美少女なら日常に危険が潜んでいるのは間違いない。そして彼女はクロエみたいにある程度の自衛能力を持っているわけではない。そんなか弱くて可愛らしい彼女を、絶対守ってあげないといけない。
そしてもう一つ、柊の中には決意がある。
(そして今度こそ、最後まで添い遂げてみせる)
それは前世での後悔から来たもの。
あの時彼は、クロエと娘を残したまま若くして亡くなった。既に愛は深め合っていたのは確かだが、きっとそれ以上があるのも理解している。だから今までに味わったことのない愛を知りたいという気持ちもある。
だがそれよりもこの決意はクロエを悲しませてしまったという後悔から来ている。彼女なら絶対に悲しんでいただろうという悔いを胸に、今度こそ彼女は死ぬまで笑っていてもらいたいという願いを抱く。
この結末がどこに向かうかはわからないが、きっとやり遂げるために柊は歩み続ける。
「愛してるよ」
自分の心に溢れた思いを伝え、もう一度深い眠りにつく。




