108 俺のために争わないで
最近出来た彼女が家に泊まることになった。家隣なのに。
嬉しいと言われれば嬉しいが、正直心の準備ができていない。だって同じ家で一晩を過ごすことになれば、こういうことが起こるから。
「柊、早く佳奈美ちゃんと一緒にお風呂入ってきなさ〜い」
「「!!??」」
いや、普通の家ではこんなこと言われないか。だが我が家にはこういうことを平気で言ってくる母がいる為、お泊まりは恐怖でもあるのだ。
「いやいや、入らねぇよ!?」
「でも四人が一人づつ入ってたら時間かかるじゃない?だからあなたと佳奈美ちゃんで同時に済ませて?」
「済ませないよ!?」
「…っ」
母の暴論に対抗する柊に、顔を赤らめながら下を向く佳奈美。そして、これを好機と捉える姉。
「柊が佳奈美ちゃんと入るのが嫌なら、私と入りますか?♡」
楽しそうに話に入ってくる花音だが、普通に考えて彼女の前で姉と一緒に風呂になんか入れるわけないだろ!!
「無理だろ!!この歳になって一緒に風呂入る姉弟がどこにいるんだよ!?」
「ここにいますよ?私たち一週間前に__」
「よし黙ろうな!?余計なこと言わなくていいんだよ!?」
流石に佳奈美の前でそれを暴露されるのは困る。いくら優しくて心が広い佳奈美といえど、未だに姉と風呂に入ることがあるのを知られるとドン引きされる未来しか見えない。
なので花音の発言は何としても阻止したのだが、敵は彼女だけではない。
「佳奈美ちゃんはどう?柊と一緒に入るの」
また余計なことをする母。いい加減その口を縫ってやりたい。
だが花音を抑えるのに精一杯なのに二人同時になどできるはずがなく、母は佳奈美に話し続ける。
「別に嫌だったら無理しなくていいのよ?その歳だと好きな人とはいえ異性とお風呂なんて抵抗があるでしょうし」
優しい言葉をかける母に対し、佳奈美は恥ずかしそうながらもちゃんと自分の言葉を返す。
「…いえ、嫌ではないです…」
「そう!?なら一緒に入りたい!?」
「それは…はい…」
「!!!ならお願いするわ!!」
「…」
小さく頷く佳奈美。
いや何勝手に話進めてんの?
「ちょっと待ってください。勝手に話を進められると困ります」
そこで話に割って入る姉。
よくやった!!たまにはいいことするじゃないか!!
「私が柊と一緒に入るんですけど?」
「は???」
よし、お前は帰れ。もう二度と干渉しないでくれ。
そんな気持ちが浮かんできたりもするが、今はそんなことを言っている場合ではない。なぜなら、このままでは確実にどちらかと一緒にお風呂に入ることになるから。
ここは一つ、選ばれる側としてガツンと一言言ってやらないと。
「言っとくけど!!俺は誰とも入らないから__」
「し、柊は渡しません!!」
「何対抗してんの!?」
こちらの言葉を無視して戦争を始めやがった。
こうなったらもう女の子戦いを止めることはできない。
「あら、もしかして柊とお付き合いしたからって自分だけのものだと勘違いしてます?言っておきますけど、佳奈美ちゃんがそんなことを考えている間にも私たちは今月だけでも三回は一緒に入ってますからね?」
「三回!!??」
「ちょ__!!やめろよ!?」
勢いに任せてとんでもないことを暴露しやがった。これには流石の佳奈美も驚いた様子で、身体を震えさせながらこちらを向いてくる。
「柊…?花音さんとそんなに仲良しなんだ…?」
「い、いや…!!あれは姉さんが勝手に入ってきたというか、強制的に一緒に入れられただけなんだよ!!」
「ふ〜ん…?そうなんだぁ…?」
彼女は何とか笑顔を作っているようだが、あまり上手く笑えていない。
それを見て動揺を察した花音は、さらに佳奈美に追い打ちをかける。
「それに佳奈美ちゃん。あなたはまだ覚悟ができていませんよね?柊と一緒にお風呂に入るという、覚悟が」
「それは…っ!」
「ふふ♪無理しなくていいんですよ?心の準備は大切ですから。また次の機会に挑戦してください。今日のところは私が一緒に入って__」
「喧嘩しないで!!!」
なぜか母が声を上げ、会話に入ってきた。
「柊のために争わないで…!柊は…柊はみんなのものでしょ…!!」
「違うよ?」
「二人が柊のために喧嘩して決まらないのなら…私が柊と一緒に入るわ!!」
「「「!!!???」」」
ごめん、何言ってんの!?高校生にもなって母親と一緒にお風呂に入るヤツがどこにいるんだよ!?
…ここにはいないよ!?
(ヤベェ…ついに全員参戦じゃねぇか…)
母の参戦で状況はよりカオスになり、三人が週と一緒にお風呂に入るために睨み合い始めた。
だがここで一つ、言いたいことがある。
「俺、誰とも入らねぇよ?」
言い争いをする三人に言葉が届くはずがなかった。




