100 思い出
そんな感じで色々あったが、いよいよ本命の花火が直前に迫っていた。
柊と佳奈美は人混みを割いてなんとか場所を確保し、腰をかけて花火が打ち上がるのを待機している。
「ふふ、楽しみだね」
「ああ。写真でも撮ろうかな」
「あ、いいね」
スマホを取り出し、カメラアプリを起動する。そしてスマホのカメラを佳奈美に向けた。
「え、私を撮るの?」
その瞬間に彼女から困惑の声が飛んできたが、それを無視してシャッターを押す。
「それはもちろんだ。こんな可愛い佳奈美を写真に残さない手なんてないからな」
「そ、そうなんだ…」
顔を赤くする佳奈美。
だが直後に向こうもスマホを取り出してこちらにカメラを向けてくる。
「え、なんで?」
「やり返しだよっ」
「えぇ…俺なんて撮っても何もないだろ」
「そんなことないよ。柊と付き合い始めて最初のデートなんだから、ちゃんと形に残しておきたいの」
「そうなのか」
確かに今日は記念すべき日だ。念願の佳奈美と付き合い始めて最初のデートだし、しかも花火大会だから浴衣着てるし。
つまり、こちらからすれば最高のシャッターチャンスである。
というわけでパシャパシャと数回シャッターを押した。
「…ねえ、そんなに撮るなら一緒に撮らない?」
せっかくやり返したのにそれ以上に撮られてしまった少し拗ねているが、ツーショットのお誘いをしてくる。
「ああ、いいな」
こちらとしては願ってもない誘いだったので、すぐに頷いた。すると彼女はこちらに身体を寄せてきて、スマホを前に突き出した。
「じゃあちょっと失礼して…これ、結構難しいね」
多分彼女も初めてツーショットを撮るのだろう。それぐらいに慣れていない手つきで手を伸ばしていて、どう撮るかを模索している。
「もうちょっと私がこっちに寄って…」
「!!??」
フニッ__。
柔らかいものが腕に当たる。
(ななななんだこれは…!?当ててるのか!?当ててるのかぁぁぁ!!??)
脳が爆発しそうになる。
でも彼女は容赦なく柔らかい物を押し付けてくる。
「もうちょっと身体を寄せて…よしっ、いい感じ」
「……」
「ね、撮ってもいい?」
「…あ、ああ…」
写真よりも腕に意識が飛んでいるが、彼女はシャッターを押した。
「ん?柊、もしかして私見てる?」
マ、マズイ。ちょうど佳奈美の方をチラ見していた時にシャッターを押されてしまった。
でもまだ言い訳はできる。胸が当たっていると言わなければ何事もなく解決できるはずだ。
「あ、ああ…佳奈美の顔が綺麗すぎてつい見惚れてしまって…」
「そうなんだ…でもその割には視線の先に顔はないみたいだけど?」
「あ」
よく写真を見てみると、完全に彼女の胸部をガン見していた。
「…」
「ああいやその…!!別にそういうつもりじゃないっていうか…!!コレは事故なんだよ…!!」
必死に言い訳を並べる。
だがそれは意味をなさなかった。
「…柊のえっち」
「違うんだってぇぇ!!!」
胸を両手で隠しながら口元を尖らせている。そういう仕草の一つすら可愛いと思えるが、そんなことを考えるほどの余裕はなかった。
「ほ、本当に事故なんだって!!佳奈美が押し付けてくるから本能的に目がいってしまっただけで!!」
「っ__!!そ、それは…ごめん…」
ようやく真実に気づいた佳奈美は頬を赤く染めて下を向いた。
「わざとじゃなくて…」
「それはわかってるんだけど…気をつけてくれよ?俺も男だってことを忘れないでくれ」
「っ…はい…」
こんなことが毎回毎回起こっていたらこちらの心臓が持たないし、下手をすれば襲ってしまう可能性もある。だから彼女を守るためにも、ちゃんと自制してもらわないといけないのだ。
まあこちらが感情を殺しまくればいい話ではあるんだけど。でもそんなことが柊に出来るわけないだろう?佳奈美のこと大好きなんだもん。
というわけで一旦佳奈美には注意してもらうことにして、とりあえず今度はこちらのスマホを取り出した。
「で…もう一枚撮らないか?今度はちゃんとカメラ目線のやつ」
「そ、そうだね…思い出に残るものだし、ちゃんとしたのも欲しいね…」
彼女は終始顔が赤くて恥ずかしそうだが、とりあえずスマホを前に突き出して準備を進める。
「じゃあ…俺が近づくな」
「うん…」
いい感じに身体の角度を変えて、佳奈美に接近しすぎないように…。
「いい感じだな。それじゃあ撮るぞ」
「うん…!」
そこで二人とも気合を入れ、カメラに向かって笑みを向けた。
パシャリ__。
シャッター音が響き、二人の思い出が形に残された。
「よく撮れてるな」
「そうだねっ」
「…なあ」
「なに?」
二人が一枚の写真に写っているのを見て、つい自分の気持ちが溢れ出る。
「これからもずっと一緒に居ような」
「!!__うん!!」
佳奈美は綺麗に笑ってくれた。つまり、これからもずっと恋人でいてくれるということだろう。
それはとても嬉しいことだが、いつまでも恋人というわけにはいかないんだと、ふと考えてしまう。
いずれは、恋人のその先へ__。
遠くない未来に訪れて欲しい願望を胸に、彼女と口付けを交わすのだった。




