デリーター現る!
ミニ・シリーズ「デリーター」です。そう。「ターミネーター」をやりたくて書いた作品です。
その夜。不思議なことが起きた。
天気も悪くないのに、暗闇の中、雷が走り、光を発する巨大な球体が地上に現れた。やがて光の球体は消え失せ、球体の中から一人の男が現れた。
疲れていた。
このところ残業続きだったし、上司から「いつも以上にミスが多いぞ。気を付けてくれよ」と嫌味まで言われて、ストレス一杯だった。
仕事から解放され、重たい足を引きずりながら家路についた。
「おい! お前」と怪しい男に声をかけられた時、「なんだよ⁉」と咄嗟に答えてしまった。
いきなり路上で呼び止められたら、そんな反応になってしまうだろう。
男はむっとした様子で、俺に掴みかかって来た。デカイ、岩みたいな男だ。争っても勝ち目は無さそうだ。頭のおかしな男のようだ。
俺は男の手を振り解くと、走って逃げた。
上手くまいたと思った。
地下鉄に乗ってアパートへ帰る。最寄り駅から徒歩十五分程度だが、駅を出た時、視線を感じて振り返ると、あの男がいた。俺の後をつけて来る。
しつこい。俺が何をしたと言うのだ。こういう輩を相手にしてはいけない。俺は駅前のスーパーに入る振りをして、裏口から抜け出した。
今度こそ、男をまくことができたと思ったが、アパートに戻ると、男が立っていた。何だ、このしつこさは。俺が一体、何をしたと言うのだ。
俺の姿を見つけると、「おい! お前」と叫びながら男が駆け寄って来た。
「何だ! 何だ、何だ!」
俺は恐怖に駆られた。掴みかかろうとする男を、咄嗟にしゃがみ込んで避けた。男は俺につまずいて盛大にこけた。
反動がついていたせいで、俺につまずいた男は駐車場に停めてあった車に頭から突っ込んだ。その衝撃で車が揺れたほどだった。
男は気絶した――と思ったのだが、平気だった。さして痛そうな素振りも見せずに、立ち上がると、俺に向かって「おい! お前」と言った。
驚いた。ぱっくりと避けた額から、血ではなく、金属製の頭蓋骨らしきものが覗いていた。
「何者なんだ⁉」
「俺はデリーターだ」と男が言う。「おい! お前」以外の言葉が言えたのだ。
「デリーター?」
「未来から、お前のタマを潰すためにやって来た」
「俺のタマを潰す⁉」
変態か。何を言っているんだ。
「お前の子供が生まれてもらっては困るのだ」
「俺の子供⁉」
「お前の子供はいじめっ子になる。いじめっ子になって、我が主を虐め抜くのだ」
「我が主?」
「私をつくった創造主だ」
なんとなく理解できた。どうやら俺の子供に虐め抜かれた天才がデリーターをつくって、過去に送り込んで来たようだ。俺のタマを潰し、子供が出来なくする為に。
「勘弁してくれ~!」
怖くなって、俺は走って逃げた。タマを潰されてはかなわない。
「逃げても無駄だ。俺は何処までもお前を追って行く。追って、追って追い続け、お前のタマを潰すのだ」
止めてくれ! 聞いているだけで痛そうだ。
俺は夜中の町を走って逃げた。だが、やつは疲れを知らない。どんどん距離が縮まって来る。やがて、デリーターに追いつかれた。
「く・・・くそう・・・はあ、はあ・・・ここまで・・・か・・・はあ、はあ・・・」
息が上がる。逃げられない。絶体絶命だ。
「ぐへへへへ」と機械のくせに卑下た笑い方をしながら、やつが近づいてきた。
もうダメだ!――と思った時、やつの動きが止まった。
俺に手を伸ばしたまま、静止してしまった。
何が起こったのか、分からなかった。
やつに近づくと、人差し指でつんつんと頬をつついてみた。柔らかい。人間の皮膚と変わらない感覚だった。よく出来ている。
やつは動かなかった。
動力源が何なのか分からないが、どうやら、エネルギーが切れてしまったようだ。




