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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その三
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花火・思い出

 花火大会なんて何時以来だろう。

 社会人になってからは、仕事、仕事で花火大会を見に行く余裕なんて無かった。

 仕事のストレスで精神を病み、休職した。実家に戻り、死んだように時を過ごしている。毎日、日が暮れるのを、明日が訪れるのを、ただ待っているだけの生活だ。


――今晩、花火大会があるみたい。気晴らしに行って来たら?


 母親からそう言われた。

 無論、花火を見に行く気になんて、なれなかった。ただ、寝ていること、それが、今の僕に出来ることだ。

 花火大会が行われる港まで、うちから歩いて三十分程度だ。花火大会当日には港の周りには出店が並び、祭りのような賑やかさになる。

 花火大会の開催時間が近づくにつれ、港を目指す家族連れや恋人たち、仲間たちが、ぞろぞろと家の前を通り過ぎて行く。窓から彼らの姿を眺めている内に、僕はスリッパをつっかけて外に出ていた。

 ジャージ姿で、町を歩く。人波に流されるようにして、港へやって来た。

 鄙びた町だが、港は人でいっぱいだった。

 学生時代の同級生と顔を合わすと面倒だな~と思っている内に、人の流れが止まった。花火大会が始まったのだ。



 夜空に花が咲く。

 大倫の花が夜空を彩る。

 全てを忘れて花火を見上げていた。

 ふと、気がつくと、隣に浴衣を来た若い女の子が立っていた。

 目を遣ると、彼女と目が合った。

 彼女が笑った。

 高校時代につきあっていた彼女だった。

 不思議なことに、僕の記憶の中にある彼女だった。高校を卒業してから十年以上、経っている。彼女が昔のままのはずがない。

 気がつくと、僕も浴衣を着ていた。そう言えば、二人で浴衣を着て、花火大会を見に来たことがあった。

 花火が彼女の横顔を照らす。


――ああ、あの時のままだ。


 と思った。

 高校時代に戻ってしまったようだ。

 そっと、彼女の手を握ってみた。

 彼女が僕の顔を見て、恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。

 あの日のままだ。

 花火が上がる。

 僕らは手を繋いだまま、夜空に広がる花火を見上げていた。



 花火が終わった。

 僕は一人だった。

 彼女はいない。

 僕はジャージ姿で、一人、ぼんやり港に立ち尽くしていた。

 家路につく人々が、ぶつからんばかりにしてすれ違って行った。

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