観覧車
どこの遊園地だったのだろう。
閉園になった“ひばり遊園地”だったような気がする。
母方の祖父と一緒に、観覧車に乗った。夜だったので、観覧車から見る夜景が幻想的で綺麗だった。観覧車が一周すると、祖父が「さあ、降りて、降りて」と私を追い立てた。
それだけだが、そんな思い出があった。
母に聞くと、「あんた、祖父ちゃんと“ひばり遊園地”に行ったことなんて無いよ」と言われた。「大体、あんたが生まれて直ぐに祖父ちゃん、亡くなったし、二人で観覧車に乗る機会なんて無かったはず」と首を傾げた。
父方の祖父との記憶がごっちゃになっているのかもしれない――そう思った。
今、気がつくと、私は娘と二人で観覧車に乗っていた。
夜だ。辺りは真っ暗で、夜景が見える。
「綺麗ね~」と娘が言う。
「お前、暫く見ない内に随分、老けたな」と娘に言うと、「嫌だ~お父さん。そりゃあ老けるわよ。孫までいるんだから」と答えた。
「孫? ああ、そうだった。でも、お前、何故、ここにいるんだ?」
「さあ? 分からない」
「昔、俺もな、子供の頃、気がついたら観覧車に乗っていたことがあった。夜景が綺麗で、窓にへばりついて眺めていたよ。観覧車が一周すると、祖父ちゃんが『降りろ、降りろ』と急き立てるんだ。俺はもっと観覧車に乗っていたかったけど、祖父ちゃんに追い出された」
「ふ~ん」
「お前も知っているだろう? 父さん、子供の頃に事故に遭って死にかけたことがあった。どうやら、その時に、そんな夢を見ていたらしい。それを覚えていたんだな」
「そんことがあったのね」
「ほら。そろそろ観覧車が一周するぞ。さあ、降りた、降りた。お前が来るのは、まだ早い。孫がいるんだ。もっと遊んでやれ」
そう言って私は娘を追い立てた。