サンタからの贈り物
――バカだなあ~サンタクロースなんていないんだよ。
ハルト君はそう言う。
クリスマスプレゼントは親が買ってくれるのだと。毎年、僕の家にはサンタが来ないという話をした時に、ハルト君が教えてくれた。
「そうなんだあ・・・」
目の前が真っ暗になった。
だったら、何を願っても、クリスマスの贈り物なんて来る訳がない。うちにはパパがいない。
「ねえ、何故、僕にはパパがいないの?」とママに聞くと、「あなたはね。ママが直接、神様にお願いして授かった子なの。だから、パパがいないのよ」と答える。
「あなたは特別な子供なのよ」と言われて、悪い気はしなかった。僕は人とは違うのだ。神の子なのだと思った。
僕が神の子なら、サンタがプレゼントを持って来てくれるはずだ――と毎年、思っているのだが、サンタがやって来たことがない。
不思議だった。
僕が良い子でないから、サンタが来ないのだと思っていた。
親がプレゼント買ってくれるとなると絶望的だ。ママは毎日、朝から晩まで働いている。僕の誕生日だって、忘れていたんだ。クリスマスなんて覚えているはずがない。
うちにお金が無いことくらい分かっている。最新のゲーム機なんて、そんな高価なもの、買ってくれる余裕など、うちにはない。
今晩もママは遅くなりそうだ。僕は枕を抱えて寝た。
何時もの朝だった。
「おはよう」とママが笑顔を向けてくれた。今日はクリスマスだが、そんなこと、ママは忘れているだろう。
食卓につくと、ママが言った。「ねえ。今日はクリスマスでしょう。プレゼントがあるのよ」
「やった~!」僕は踊りあがって喜んだ。
ママはクリスマスを忘れてなんかいなかった。
「ほら。これ」とママが包装紙に包まれた箱を僕にくれた。うん⁉ 最新のゲーム機にしては妙に小さい。それに薄い。
「開けて良いのよ」
「うん」
包装紙を破ると、色鉛筆セットが出て来た。
「あなたが欲しがっていたでしょう。十二色の色鉛筆」
確かに僕の欲しかったものだ。クリスマスなので、もっと特別な、スペシャルなものが欲しかったが、そんなこと、とてもママには言えなかった。
「ありがとう! ママ」
僕は精一杯の笑顔を向けた。
「もう夜が明けたみたい。カーテンを開けてちょうだい」
「は~い」
カーテンを開けて、ベランダを見てびっくりした。
うちのベランダには野菜がいっぱいある。
「少しでも新鮮な野菜が食べたいからよ」とママは言うけど、お金が無いからに決まっている。プランターが並べてあって、毎朝の水やりは僕の仕事だ。
野菜の上に最新のゲーム機があった。
「うわっ!」と僕は声を上げた。
ママが買ってくれたものだろうか。でも変だ。箱に入っているのではなく、ゲーム機は丸裸のまま野菜の上に載っていた。コントローラーまで一緒にあった。
「ねえ、ねえ。ママ、ママ!」とママを呼ぶ。
「どうしたの」とママが来てくれた。
「ほら、見て」
「まあ~」とママも声を上げた。
何も知らないとママは言う。やはりママが買ったものではなかった。動かしてみると、ちゃんと動いた。おまけに最新のゲームソフトが差し込んだままだった。
「ねえ、ママ。僕のものにして良いの?」
「そうねえ~誰かが取りに来るかもしれないから、取り敢えず預かっておきましょう」とその日から、うちに最新のゲーム機が来た。
「遊んでも良い?」
「良いけど、変ねえ~」とママが首を傾げる。
うちはアパートの三階だ。誰かがゲーム機をベランダに投げ入れるには高過ぎる。
サンタさんが持て来てくれたのだ――と僕は思った。
その前の夜。
仕事が終わり、家に帰ってもゲームばかりしている旦那に細君がとうとう切れた。
「うん、うんって、あなた、私の話、ちゃんと聞いていないでしょう!」
「そ、そんなことないよ」
「ゲームを止めてって言ったでしょう」
「今、いいとことなんだ。もう少しで――」
「私の話よりゲームの方が良いの⁉」
「そう言われると、まあ、そうだな」と旦那が答えたものだから、細君の怒りが爆発した。
細君はゲーム機を一式、テレビから引っこ抜くと、窓から放り投げた。
「ああっ~!」と旦那が悲鳴を上げた。
翌朝、旦那はこっそりゲーム機を探しに出た。だが、何処にもなかった。夫婦が住むのはマンションの八階だ。地面に落ちたのであれば、粉々になっているはずだ。だが、破片すら落ちていなかった。
マンションとは道、ひとつ隔てて、四階建てのアパートがある。アパートのベランダに落ちたのかもしれない。だけど、八階から放り投げられたゲーム機が無事なはずない。きっと壊れてしまっていて動かないだろう。
見つけても使い物にならないはずだ。
「まあ、いいか」
細君の怒りが収まったら、新しいゲーム機を買えば良いと思った。




