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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その三
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サンタからの贈り物

――バカだなあ~サンタクロースなんていないんだよ。


 ハルト君はそう言う。

 クリスマスプレゼントは親が買ってくれるのだと。毎年、僕の家にはサンタが来ないという話をした時に、ハルト君が教えてくれた。

「そうなんだあ・・・」

 目の前が真っ暗になった。

 だったら、何を願っても、クリスマスの贈り物なんて来る訳がない。うちにはパパがいない。

「ねえ、何故、僕にはパパがいないの?」とママに聞くと、「あなたはね。ママが直接、神様にお願いして(さず)かった子なの。だから、パパがいないのよ」と答える。

「あなたは特別な子供なのよ」と言われて、悪い気はしなかった。僕は人とは違うのだ。神の子なのだと思った。

 僕が神の子なら、サンタがプレゼントを持って来てくれるはずだ――と毎年、思っているのだが、サンタがやって来たことがない。

 不思議だった。

 僕が良い子でないから、サンタが来ないのだと思っていた。

 親がプレゼント買ってくれるとなると絶望的だ。ママは毎日、朝から晩まで働いている。僕の誕生日だって、忘れていたんだ。クリスマスなんて覚えているはずがない。

 うちにお金が無いことくらい分かっている。最新のゲーム機なんて、そんな高価なもの、買ってくれる余裕など、うちにはない。

 今晩もママは遅くなりそうだ。僕は枕を抱えて寝た。


 何時もの朝だった。

「おはよう」とママが笑顔を向けてくれた。今日はクリスマスだが、そんなこと、ママは忘れているだろう。

 食卓につくと、ママが言った。「ねえ。今日はクリスマスでしょう。プレゼントがあるのよ」

「やった~!」僕は踊りあがって喜んだ。

 ママはクリスマスを忘れてなんかいなかった。

「ほら。これ」とママが包装紙に包まれた箱を僕にくれた。うん⁉ 最新のゲーム機にしては妙に小さい。それに薄い。

「開けて良いのよ」

「うん」

 包装紙を破ると、色鉛筆セットが出て来た。

「あなたが欲しがっていたでしょう。十二色の色鉛筆」

 確かに僕の欲しかったものだ。クリスマスなので、もっと特別な、スペシャルなものが欲しかったが、そんなこと、とてもママには言えなかった。

「ありがとう! ママ」

 僕は精一杯の笑顔を向けた。

「もう夜が明けたみたい。カーテンを開けてちょうだい」

「は~い」

 カーテンを開けて、ベランダを見てびっくりした。

 うちのベランダには野菜がいっぱいある。

「少しでも新鮮な野菜が食べたいからよ」とママは言うけど、お金が無いからに決まっている。プランターが並べてあって、毎朝の水やりは僕の仕事だ。

 野菜の上に最新のゲーム機があった。

「うわっ!」と僕は声を上げた。

 ママが買ってくれたものだろうか。でも変だ。箱に入っているのではなく、ゲーム機は丸裸のまま野菜の上に載っていた。コントローラーまで一緒にあった。

「ねえ、ねえ。ママ、ママ!」とママを呼ぶ。

「どうしたの」とママが来てくれた。

「ほら、見て」

「まあ~」とママも声を上げた。

 何も知らないとママは言う。やはりママが買ったものではなかった。動かしてみると、ちゃんと動いた。おまけに最新のゲームソフトが差し込んだままだった。

「ねえ、ママ。僕のものにして良いの?」

「そうねえ~誰かが取りに来るかもしれないから、取り敢えず預かっておきましょう」とその日から、うちに最新のゲーム機が来た。

「遊んでも良い?」

「良いけど、変ねえ~」とママが首を傾げる。

 うちはアパートの三階だ。誰かがゲーム機をベランダに投げ入れるには高過ぎる。

 サンタさんが持て来てくれたのだ――と僕は思った。


 その前の夜。

 仕事が終わり、家に帰ってもゲームばかりしている旦那に細君がとうとう切れた。

「うん、うんって、あなた、私の話、ちゃんと聞いていないでしょう!」

「そ、そんなことないよ」

「ゲームを止めてって言ったでしょう」

「今、いいとことなんだ。もう少しで――」

「私の話よりゲームの方が良いの⁉」

「そう言われると、まあ、そうだな」と旦那が答えたものだから、細君の怒りが爆発した。

 細君はゲーム機を一式、テレビから引っこ抜くと、窓から放り投げた。

「ああっ~!」と旦那が悲鳴を上げた。

 翌朝、旦那はこっそりゲーム機を探しに出た。だが、何処にもなかった。夫婦が住むのはマンションの八階だ。地面に落ちたのであれば、粉々になっているはずだ。だが、破片すら落ちていなかった。

 マンションとは道、ひとつ隔てて、四階建てのアパートがある。アパートのベランダに落ちたのかもしれない。だけど、八階から放り投げられたゲーム機が無事なはずない。きっと壊れてしまっていて動かないだろう。

 見つけても使い物にならないはずだ。

「まあ、いいか」

 細君の怒りが収まったら、新しいゲーム機を買えば良いと思った。

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