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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その三
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タイムカプセル

――庭でタイムカプセルを見つけた。


 と親父から連絡があった。

 昔、よく食べていた煎餅が入っていたスチール缶に「未来の僕たちへ」と書いてあるのだと言う。

「何が入っていたの?」と聞くと、「開けずに置いておくから、自分で確かめろ」と親父に言われた。

 どうせ子供の頃に大切にしていた玩具が入っているのだと思ったが気になった。僕は仕事の関係で家を出て、アパートで独り暮らしをしている。久しぶりに親父の顔を見たくなった。そこで、週末に実家に帰ることにした。

 お袋が亡くなって一年、親父は一人でやって行けているだろうか?

 実家に戻った。

 意外に片付いていた。親父なりに、頑張って暮らしているのだろう。

「タイムカプセルを見せてよ」と頼むと、「これだ」とスチール缶を持って来た。

 懐かしい。お袋が好きで、昔、よく買っていた。缶の上蓋に「未来の僕たちへ」と書いてある。

 何時、こんなもの、つくって埋めたのだろう。全く記憶にない。

 親父に聞いても、「知らん」としか言わない。ある日、「そう言えば――」と病床にあったお袋が庭にタイムカプセルを埋めたと言い出したらしい。そこで、親父が庭を掘ってみたが、タイムカプセルは見つからなかった。そう伝えると、お袋は「変ね」と言っただけで、それきりタイムカプセルのことは忘れてしまった。

 そのことを親父が思い出して、もう一度、庭を掘り返してみたらタイムカプセルが見つかったと言うのだ。

「開けるよ」と缶の蓋を開けた。

 予想通り、僕が子供の頃に遊んでいた玩具がぎっしりと詰まっていた。もうほとんど記憶になかったが、子供の頃に持っていたもので間違いない。大事なもの――と言うより、遊び飽きたものだ。遊び飽きた玩具を閉まっていた空き缶をタイムカプセルと称して庭に埋めたのだろう。

 謎が解けた気がした。

 親父にそう伝えると、「そうか」と短く呟いただけだった。

 ひとつだけ見覚えのないものがあった。カセットテープだ。何が録音してあるのだろうか。気になった。

 録音を聞きたいと思い、「ねえ、ラジカセある?」と親父に聞くと、「そう言えばあったなあ~」と探し始めた。

 僕も自分の部屋に行き、ラジカセを探した。

 家中探したが、ラジカセは出て来なかった。僕はカセットテープを持って、アパートに戻った。


――ラジカセって、持っているやついる?


 と友だちに聞いて回った。

「あるよ~」という友人がいて、早速、借りて来た。

 どきどきしながらカセットテープをセットした。

 再生ボタンを押すと、歌声が流れて来た。僕とお袋の歌声だ。二人で童謡の「どんぐりころころ」を歌っていた。歌を聞いていて、急に思い出が蘇って来た。

 遊戯会で披露する歌を練習しているのだ。その歌声が録音してあった。幼い僕が声変わりする前の声で一生懸命歌っている。お袋が歌詞を教えながら一緒に歌ってくれていた。楽しそうだった。

 お袋の声を聞いたのは、本当に久しぶりだった。

 胸が熱くなった。

 飽きもせずに録音に聞き入っていたが、プツリと録音が途切れた。

 やや、間があって、お袋が話し始めた。


――あなたが、この録音を聞いているということは、家は無事だったのね。私たち幸せになったようで、良かった。良かった。

 あなたは、頑張り屋さんだから、あまり根を詰めてはダメよ。リラックス、リラックス。

 また、こうしてお歌の練習をしましょうね。


 子供の頃、親父の事業が上手く行かず、家は借金の抵当に入っていたと聞いた。庭に埋めたタイムカプセルに入れたカセットテープを聞いているということは、借金のカタに、家を取り上げられずに済んだということだ。だから、僕らは幸せになったという意味なのだ。

 お袋も心配していたのだ。それでも、僕の遊戯会の歌の練習に付き合ってくれた。

 僕は小声で「どんぐりころころ」を歌った。

 お袋の笑顔を瞼に浮かんだ。

 涙が止まらなくなった。

子供の頃に埋めたタイムカプセル、どうなったのだろう? と時々、思い出すことがあります。

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