雨男、雨女
係長に呼ばれた。
「今週の金曜日、就業時間が終わってから、中央公園に花見に行きたいんだけど、どうだろう?」と相談を受けた。
俺は担当者の中で最年長、一応、係のまとめ役だ。
「ああ、良いんじゃないですか。最近は会社のイベントに参加したいっていう若者が増えましたからね」と答えると、「そうかい」と係長が嬉しそうな顔をした。
係長が若手の頃は、会社のイベントが毛嫌いされた頃だ。係長自信はそうでもなかったのだろう。イベント好きのようだ。
「ただ、ひとつ、問題があります」と言うと、「何だい?」と係長が不安そうな顔をした。
何とかハラスメントになるのではないかということを心配しているのだ。
「うちには最強の雨男と雨女がいます」と言うと、「ああ、そうか」と係長が頷いた。
最強の雨男こと、イノウエ君は人生のイベントがある時に、雨が降ることで有名だった。彼自信が語ったことによれば、生まれた日は嵐だったそうだ。小学校の入学式、運動会、卒業式とことごとく雨が降った。家族でハイキングに行けば、山についた途端に雨が降り始めるし、傘を持たずに外出した時に限って雨が降ると言うのだ。
そして、もう一つ、係には最強の雨女こと、サトウさんがいる。こちらは、一人で外出する時は雨は降らないのに、誰かと一緒だと必ず雨が降るというジンクスがあった。実際、係の女性は皆、サトウさんと一緒に外出して雨に降られたという経験を持っていた。
「最強の雨男と雨女が揃って外出すると、どうなるのでしょうね?」
それはそれで興味があった。
とは言え、花見の時期は限られる。皆がのんびりできそうな週末を逃すと、今年の花見は無理だろう。
「一応、金曜日ということにして、当日、天気を見ながらどうするか考えましょう。最悪、雨天中止になるかもしれませんが」
「仕方ないだろう」
こうして週末の花見が決まった。
職場で週末の天気が話題になった。「最強の雨男と雨女が揃うと、どうなるのだろう?」と誰もが同じことを考え、「嵐になるんじゃないか」、「意外に晴れたりして」と結果を予想し合った。
週末になった。
天気予報では晴れの予報だったが、朝からどんよりとした天気で雨が降りそうだった。
「流石に最強の雨男と雨女が揃うと、天気予報も外れそうだ」と皆、空を見上げながら噂した。終日、降りそうで降らない天気が続き、就業時間を終えた。
「一雨来そうですけど、行きましょう」と係長に進言した。
皆、楽しみに準備して来たのだ。今更、中止は寂しい。皆で中央公園に繰り出した。
雨は何とか降っていない。
桜の木の下にビニールシートを敷いて、缶ビールで乾杯した。
「最強の雨男と雨女が揃うと、曇りになるんですね~」
「ダメだよ。そんなこと言うと、雨が降るから」
「そうそう。無視した方が良い」
などと皆で盛り上がった。
僅かに風があって、桜の木から花びらが、はらはらと舞い落ちて来た。ライトアップがされていて、幻想的な夜だった。
「綺麗ですね~」とサトウさん。
係長が言った。
――最強の雨男と雨女が揃うと、桜の花びらが降ってくるんだ。




