伝言板
ローカル線の無人駅に、昔、懐かしい伝言板があった。
かつては、電車を乗り降りする知人や家族にメッセージを伝える為のものだった。携帯電話の普及に連れ、その存在意義が薄れ、伝言板は役割を終えた。
無論、この駅でも伝言板は使われていない。撤去するのが面倒で、そのままになっているだけなのだろう。
ある日、伝言板に書き込みがあった。
――傘、ありがとうございました。お返ししたいのですが、どうすれば良いですか?
と書かれてあった。
翌日、伝言板には;
――ビニール傘ですので、捨ててください。
とあった。
すると、その伝言に続けて;
――バカね。彼女、傘を返したいというのは口実で、あなたにお礼が言いたいのよ。
とメッセージが書かれていた。それに対して;
――どうして女だって分かるんだ?
という書き込みがあった。
――俺、見たよ。電車で男の子が女の子に席を譲っているの。
――私が見たのは、雨が降り出して、改札で男の子が女の子に傘を渡していたところ。
――彼女、電車で気分が悪くなって、それに気がついた男の子が席を代わってあげたのよ。
――彼女が傘を持っていないことを知って、自分の傘を貸してあげたのね。
――ちゃんとお礼を言いたいだろうね。
彼と彼女の話で伝言板は盛り上がった。そして;
――男の子が持っていたバッグに関高バスケ部って書いてあったよ。ムルチのキーホルダーがついていた。
という情報があった。ムルチは大バズりのアニメ「漆黒の剣闘士」の主人公の名前だ。
――それって、レンのことじゃない。
とついに男の子が特定された。
――ミーちゃん。中学が一緒だったメル。彼氏がレンさんの連絡先、知ってるって~。
と彼女のことも特定されてしまった。そして、ついに;
――お騒がせしました。皆さんのお陰で彼にお礼を言うことができました。
という書き込みがあった。
――良かったね。
という書き込みが続いた後;
――二人、付き合っちゃえば良いのに。
――お似合いの二人だね。
とあった。
伝言板のお祭り状態はまだまだ続きそうだ。