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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その三
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奇跡の子

 一昨日から降り続けた雨は豪雨となり、記録的な降水量を記録した。

 未明に街はずれにある一軒家では、裏山が土砂崩れを起こし、あっという間に大量の土砂に飲み込まれてしまった。

 隣家より通報を受け、消防隊が駆けつけ、救助活動が始まった。同地区だけで三か所の土砂崩れが確認され、合計、四軒の民家が被害に遭ったことが分かった。被害の大きさが明らかになると、生存者救助の為、自衛隊が派遣された。

 被害に遭った四軒の民家の内、二軒は土砂が家屋の一部を押しつぶしただけで、幸い、住人は無傷だった。

 三軒目からは年老いた夫婦が心肺停止の状態で発見された。

 最後に残った一軒は、最も山裾にあり、家屋は土砂に流され、何処にあったのか分からないほどだった。民家には両親と娘の三人が暮らしていた。娘はまだ高校生で、安否が気遣われた。

 懸命の捜索活動が続いたが、住人はなかなか見つからなかった。

 救助活動が始まって二日目、二人、抱き合うようにして土砂に埋もれていた遺体が発見された。その姿に救助隊員も涙した。民家に住んでいた夫婦の遺体だと考えられた。

 残るは高校生の女の子だけだ。

 救助活動の様子は、連日、テレビの報道番組で放送された。テレビ局には、全国から、女の子の無事を祈る応援メッセージが寄せられた。

 三日目。「生死を分けるタイムリミット」である七十二時間が迫っていた。だが、女の子は見つからなかった。

 そして、七十二時間を超えた時、「いたぞ~!」と自衛隊員の一人が叫んだ。

 わらわらと救助隊員が集まって来る。

 テレビ・カメラが救助の瞬間をとらえていた。泥まみれで救助された女の子は、かすかに息をしていた。

 女の子は仏間で寝ていたようだ。

 何と、仏壇が女の子に覆いかぶさり、上から落ちて来た瓦礫や土砂から女の子を守っていたのだ。しかも、仏壇に斜めに突き刺さった長い梁が、地上までの空気の通り道を確保していた。

 奇跡だった。

 一家は昨年、祖母を亡くしており、


――亡くなった祖母が女の子を守った!


 と大々的にテレビで報道された。

 多くの視聴者が「きっとそうだ」、「そうに違いない」と涙ながらに語った。


 女の子は孤児となってしまった。

 父の兄、伯父に女の子は引き取られることになった。伯父はアメリカで働いており、一家はアメリカにいたが、この春、長女が日本の大学に入学、隣町にマンションを借りて長女を住まわせていた。

 女の子は長女と同居することになった。

 伯父の長女は、親戚の中で一番、年が近く、仲の良かったお姉さん的存在だった。性格は温厚で、怒ったところなど見たことがないような女性だ。

 女の子は直ぐに二人だけの生活に馴染んだ。

 当然、転校することになった。

 転校先で紹介されると、「あの土砂崩れで生き残った子」、「奇跡の少女だ」と学校中で話題になった。

 同級生は勿論、学校中の生徒が、「大変だったね~」、「困ったことがあったら、何でも言ってね」、「無理しないでいいよ」と引っ切り無しに訪れ、少女を気遣った。「ありがとう」と女の子はお礼を言うのに忙しかった。

 直ぐに友だちも出来た。

 生徒たちが家で女の子の話をしたのだろう。町を歩いていても、「あの時の女の子ね。大変だったね~」、「ねえ、これ食べて行きなさい」とたくさんの人から声をかけられた。中には、「これ、持って行きなさい」、「何かの足しにして」とお金をくれようとした人もいた。女の子は丁寧にお礼を言って断った。

 やがて、女の子は「奇跡の子」と呼ばれるようになった。

 学校で女生徒の一番人気だった野球部のエースが女の子を訪ねて来た。将来はプロ野球選手になるのではないかと噂されている逸材だ。エースは恥ずかしそうに頬を染めると、「握手してください」と言った。

 これから甲子園の予選が始まる。絶対に甲子園に行きたい。ついてはあなたの奇跡を、運を分けてもらいたい――と言うのだ。

 女の子は恥ずかしそうに手を握った。

 エースは学校の有名人だ。この話は学内で一気に広まった。野球部が予選を勝ち進んだものだから、運動部に限らず大会を控えた部活の部員たちは、女の子に握手を求める為に行列をつくるほどだった。

 こうして奇跡の子は、今日もみなに強運を分け与えている。

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