孤独
俺は町に戻った。
トンネルの先は海で、何処まで行っても崖が続いており、島にいるとしか思えなかった。周りは全て海、船でもなければ、何処に行けそうにない。
筏でもつくって海に漕ぎ出せば、何処かに辿り着くことができるかもしれない。だが、失敗すれば、海の上で餓死してしまうだけだ。
俺にそんな勇気は無かった。
システムが停止して三か月が経った。新鮮な食料品は手に入らなくなってしまったが、レトルトや冷凍食品など、食料はまだ十分あった。水と電気が止まっていないので、生きて行くのは問題ない。だが、停電が頻発に起きるようになって来ていた。
水も電気も、いつまで持つのは分からない。
何より、一番、困っているのは話し相手がいないことだ。ロボットたちに囲まれて、生きて行くことにストレスを感じていたが、いなくなるとなったで、寂しくて仕方がなかった。
孤独にさいなまれていた。
「おい! 何時になったら復旧するんだ⁉」
一日に何度も、天に向かって叫ぶ。
――現在、復旧作業中です。今しばらく、お待ちください。
とシステムが返事をしてくれていたが、その返事も返って来なくなった。
俺は一人ぼっちになってしまった。
もう限界だ。
生きて行くのに疲れた。
――どうやって死のうか?
と考え始めた。この町で死ぬのは嫌だ。もう一度、外に出てみよう。崖から飛び降りるか? いや、どうせ死ぬのなら、筏でも作って海に漕ぎ出してみるか。そうすれば、何処かに辿り着くことが出来るかもしれない。
そう思った。
俺は町を出ることにした。
町中、探して回ると、レジャー用のゴムボートを見つけた。これで筏をつくる手間が省けた。後は水と食料だ。これをどれだけ持って行けるかだ。
こうして俺は準備を進めた。
やがて準備が整うと、途端に怖くなった。怖気づいてしまったのだ。海の上に漕ぎ出して、餓死してしまうかもしれない。いや、嵐に巻き込まれて、海に放り出されるかもしれない。そう考えると、怖くなってしまったのだ。
今日は止めだ。明日にしようと、一日伸ばしにしていたある日、ファンファンとサイレンが鳴り響き、ドカンと爆発音がした。
家を飛び出る。
町の彼方から、もうもうと煙が立ち上っているのが見えた。何が起きたのだろう?
やがて、人影が見えた。
「いたぞ! 生存者を発見!」という声がした。
迷彩柄の戦闘服に身を包み、銃を構えた兵士たちが、わらわらと俺の周りに群がって来た。
「良かった。生きていたんだな」
隊長らしき人物が俺に尋ねた。
「・・・」何と答えたらよいのか分からずに黙っていた。
「さあ、ここから脱出しよう」
「脱出?」
「そうだ。君がここに囚われの身になっていると知って、助けに来たんだ」
「そうなのですか⁉」
「君は人類の敵となったコンピュータ、マザー・ネイチャーの実験台になって、この町で暮らしていたんだ。マザー・ネイチャーは君からデータを取り、人類の弱点を学ぼうとしていたようだ」
「そんな・・・」
「さあ、ここから逃げよう」
俺は兵士たちに囲まれて、町を出た。
兵士たちは壁に巨大な穴を開けて、町に侵入して来ていた。穴を出るとヘリコプターが待機していた。
俺はヘリコプターに乗り込んだ。
兵士たちを収容し、ヘリコプイターが空に舞い上がった。
俺が住んでいた町が、いや、島が見えて来た。何もない。円錐形の山がある、丸い島だった。この島で俺は生きて来た。
「どこに行くのです?」
隊長に聞いた。
「町だ。俺たちが住んでいる町に行く。そこで、俺たちと一緒に暮らすのだ」
「町へ・・・」
今度はどんな町なのだろうか?
ふと気になった。彼らは本物の人間なのだろうか? 町が機能不全になってしまったので、マザー・ネイチャーはロボットを使って、俺を騙して、別の町に連れて行こうとしているのではないだろうか?
彼らを殺してみれば、ロボットかどうか分かる。
だが、もし人間だったら・・・
とんでもないことをしてしまうことになる。
俺は考え込んだ。そして、思った。
――もうそんなんこと、どうでも良い。これで俺は孤独から解放された。