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辻斬り

 大真神社の境内で、千春は脇差を抜いた。

 そして、「大真神よ。とくとごろうじろ。我が命、そなたにくれてやる。故に、あの憎き辻斬りを呪い殺して、我が夫となるはずだった秋野彦次郎の恨みを晴らしてたもれ」と唱えた。

 城下に辻斬りが現れると噂になったのはひと月ほど前だった。

 凄腕の辻斬りのようで、町民は勿論、いっぱしの武士まで犠牲者となった。

 奉行所でも無視できなくなり、藩内で一、二を争う腕を持つ秋野彦次郎に辻斬り討伐の命がくだった。

「案ずるな。辻斬りなどに引けは取らない」と彦次郎は千春に言った。

 彦次郎は千春の許嫁で、来春の挙式が決まっていた。親同士が決めた縁組であったが、幼少の頃より彦次郎の嫁になると聞かされ育った千春にとっては、彦次郎が全てだった。

 彦次郎なら辻斬り相手に遅れを取ることなどないはずだ――と誰もが考えていた。その彦次郎が夜中に辻斬りと斬り合い、命を落としてしまった。

 斬り合いを目撃した目明しの証言によれば、辻斬りは夜目が効くようで、彦次郎は敵を探して右往左往していたと言うことだった。

 彦次郎が死んだ。

 千春は目の前が真っ暗になった。このまま生きていても仕方がないと思った。だが、彦次郎を斬った辻斬りが許せなかった。どうせ死ぬのなら、辻斬りに一太刀浴びせてから死にたかった。だが、千春に辻斬りと戦うことなど無理だった。

 そこで大真神社にやって来た。

 この神社は禁断の神社だ。願いごとをかなえてくれる代わりに命を奪って行くと言い伝えられていた。

(私は彦次郎様の内儀。夫の仇を討つためなら、我が命、くれてやる)

 千春はそう覚悟を決めた。

 大真神社の境内で千春は喉を突いて死んだ。

「よかろう。そなたの願い、かなえてやろう」

 何処からか声がした。

 祠の扉が開くと、もやもやと黒い霧が湧き出し、二頭の狛犬の石像を包み込んだ。狛犬は雄大な体躯をもつ狼男へと変身した。二頭の狼男が台座を降りると駆けだした。

 その夜、辻斬りが現れた。辻斬りが噂となってから、人々は外出を控え、町に人気(ひとけ)は無かった。辻斬りは獲物を求めて町をさまよった。

 町をうろつく辻斬り前に、巨大な影が現れた。人の姿をしているが、人ではない。

「ほう~化け物か。面白い。刀の錆にしてくれよう」

 辻斬りはにやりと笑った。

 刀を抜いて構えた。腕には覚えがある。夜目も効く。例え、化け物であっても、斬り捨てる自信があった。

 先手必勝、辻斬りはだっと跳躍すると、化け物へ斬りかかった。

 袈裟懸けに斬りつける(やいば)の切っ先を、化け物ははっしと受け止めようとした。刀が化け物の腕を斬り飛ばす――かに見えた。

 だが、化け物は辻斬りの刃を手で受け止めていた。

 放さないようにがっしり握ると、刃が熱を帯び始めた。

「うわっ!」と辻斬りが声を上げて、刀から手を放した。

 一瞬で刀は真っ赤になると、どろどろと溶けて行った。

「な、なんだ~⁉」

 辻斬りが逃げようとすると、もう一人の化け物が背後に立ち塞がっていた。

「おのれ!」

 脇差を抜こうとした時には、化け物たちが辻斬りに襲い掛かっていた。

 あっという間に辻斬りは食べ尽くされた。

まだ書けそうでしたが、基本的にワンパターンなので、三作で打ち止めにしました。

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