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脱出

 水、電気はまだ来ているが、それも何時まで続くのか分からない。

 バグが発生してから、一カ月、町の人々の動きは止まったままだ。レストランに行っても、何も出て来ないが、スーパーにはまだ食料品が残っていた。それを食いつないで生きて来た。

(このままではじり貧だ。町の外に出てみようか)と思った。

 この世界にうんざりして、過去に何度か脱出を試みたことがある。町の外れまで行くと、道は続いているのに、透明な壁のようなものがあって、先に進めなくなってしまう。東西南北、どちらに進んでも同じだった。

 興味があった。生まれてこのかた町を出たことがない。この町の外に、どんな世界が広がっているのか見てみたかった。

 隣家の兄ちゃんがバイクに乗っていた。俺は隣家に忍び込むと、バイクの鍵を探した。隣家の奥さんが壁に額をつけたまま固まっていた。面白いおばちゃんだったのに。

 兄ちゃんの部屋でバイクの鍵を見つけた。

 俺はバイクに乗ると、町外れを目指して走り出した。


 箱庭のような町とは言え、結構、広い。端から端までバイクで走ると優に三十分はかかる。俺一人の為に、この町がつくられたのだ。

 バイクを飛ばして走っていると、「それ以上、前に進むのは危険です!」という警告が聞こえ始めた。それでも無理矢理、走り続けていると、「それ以上、前には進めません! 強制的に排除します」というメッセージに変わり、乗っていたバイクが突然、停止した。

 ここからは徒歩だ。

 以前はずっと道が続いていたが、前方には巨大な壁が立ちふさがっていた。壁はスクリーンになっていて、先に広がる景色を映していただけだったようだ。それが消えて、今は金属製の壁が延々と町を取り囲んでいるのが見えた。

 恐らく、この青空も偽物だろう。実際には金属製の天井があるに違いない。そこに空を映しているのだ。

 壁に行き着いた。何処かに出入り口がないか探した。だが、何もない。外に通じる通路など、何処にも無かった。

 壁沿いに歩いていると、ビルがあった。ビルが壁にくっついていた。ハローワークの看板が上がっていた。俺には縁のない建物だ。だが、何だか怪しい。壁と一体化している。

 中に入る。

 人がいたが、誰も動いていない。建物の中を歩き回る。二階の隅にある所長室だけドアにだけ、鍵がかかっていた。

 構わない。ドアを蹴破った。

 予想通りだ。所長室が外部へ通じる通路になっていた。この入り口には、誰も気がつかないだろう。

 俺はトンネルのようになった通路を歩き始めた。

 高さは二メートル以上ありそうだ。幅も同じくらいある。長いトンネルだ。延々と続いている。ところどころ、非常ランプが点いているお陰で、何とか歩いて行ける。トンネルをひたすら歩いて行く。この先には、何があるのだろうか? 期待が半分、不安が半分といったところだ。

 歩く。歩く。まるで先が見えない。

 どれくらい歩いたのだろう。足が棒のようになって来た。もう歩けない。そう思った時、はるか彼方に小さな光が見えた。ランプではない自然の、太陽の光だ。

 最初は、小さな、小さな点のように見えたが、歩き続けると、段々、大きくなって行った。


 俺はついに外に出た。

 生まれて初めて、本当の空気を吸い、本当の太陽光に全身に浴びた。

 トンネルを抜けた先に、海があった。見渡す限り海だ。

 振り返ると、背後は山で、山の斜面にトンネルの出口があった。雑草をかき分けながら斜面を下って行くと、直ぐに崖の上に出た。目の前には海しかない。

 崖淵を歩く。

 どこまで行っても同じだった。片側は山、反対側は崖だ。そして、その先には海が広がっているだけだ。

 段々、分かって来た。

 俺は絶海の孤島にいるのだ。

 孤島の地下に、山の下に、俺が住んでいた町がつくられていたのだ。

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