いいんじゃね
田舎なものだから、俺たちが溜まる場所なんて、コンビニしかない。
大体、俺ら、不良でも半グレでもない。ごく普通の高校生だ。コンビニの前に座り込んで、気の合った仲間と夜中まで、だらだら、ふざけ合っている。
いつも決まったメンツだ。
俺、紅一点のユーリン、タカシ、エース、ミタケンの四人だ。何時も四人、飽きるまで一緒にいる。
「俺さあ~最近、なにかやってみたいなあ~って思っているんだ」と俺が言うと、「いいんじゃね」とユーリンが携帯を弄りながら答えた。
「俺、ミュージシャンになろうかな」
「いいんじゃね。オレは歌、上手いから」
紛らわしいが、俺は皆からオレと呼ばれている。何時も「オレオレ」言っているからだそうだ。
「ユーリンがそう言うなら、やってみようかな」
という訳でミュージシャンを目指してみた。ギターを買って勉強して、誌を書いて、曲を書いて、隣町の駅前に行って、演奏してみた。
誰も足を止めてくれなかった。
へこんだ。ミュージシャンになるのは止めた。
再び、コンビニの前。
「俺~ダンサーになろうかな~」
「いいじゃね」とユーリン。「オレは踊りが得意だから、ダンサーになれんじゃね」
「ユーリンがそう言うなら、やってみようかな」
俺はダンサーを目指した。独学ながらダンスを研究し、町に出てオーディションというやつを受けて見た。
あっさり落ちた。周りは俺よい上手いやつばっかり。嫌になった。
ダンサーになるのは止めた。
コンビニ前に戻って来た。
「俺さあ、漫画家になろうかな~」と俺が呟くと、「いいんじゃね」とユーリンが言ってくれる。「オレは昔から絵が得意だから、漫画家になれるよ」
「ユーリンがそう言うなら、やってみるか」
俺は漫画家を目指した。
三日間、構想を練って、漫画を描いた。書き上げた漫画を漫画雑誌の新人賞に応募した。落ちた。がっかりした。俺は漫画家になるのを止めた。
俺が行くところはコンビニ前しかない。何時ものメンツだ。
「俺、やることなくなっちゃった」
「いいんじゃね」とユーリン。相変わらず携帯を弄りながら、「オレはいつものオレで」と言った。
「ユーリンはいつも無責任に背中を押すよな」
「いいんじゃね」
「俺、お前と付き合おうかな?」と言ってみた。
前々から、ずっと気になっていた。
ユーリンが答えた。
――いいんじゃね。あたいもオレのこと、好きだから。