雨使いの詩・雨音
今日も雨だ。
僕はおうちでお留守番だ。縁側に出て、雨が降るのを見ていた。
すると、空から男の人が降りて来た。そう。雨の中を、ふわふわと風船のようにゆっくりと舞い降りて来たのだ。
変な服を着ている。上下ひとつになったツナギのような服を着ている。手袋に靴まで一体になっている。しかも全身、水色だ。靴先が異様に長くて、尖っていた。首の周りには、ひらひらと花びらのような襟がついていた。
「うわあ~」と僕が声を上げると、男の人は驚いたようで、「君、君。僕が見えるのかい?」と聞いた。
「うん」と僕が頷くと、「へえ~」と感心し、僕の前にぷかぷかと浮かびながら、「何をしているの?」と聞いた。
「別に。雨が降るのを見ていただけ」
「誰もいないの?」
「うん。僕、一人」
「お母さんは?」
「ママは死んじゃった」
「死んだの?」
「うん。去年」
「病気」
「そうみたい」
「お父さんは?」
「パパはお仕事だよ」
「ふ~ん。ねえ、君、小学生? 学校は?」
「クラスに嫌な子がいるんだ。だから行きたくない」
「そうかあ~不登校なんだね」
「そうみたい」
「そうみたいって・・・」
「お兄さん、誰?」
「僕かい。僕は雨使いだよ」
「雨使い?」
「雨を自由に操ることができるんだ」
「へえ~凄い!」
僕が驚くと、男の人は嬉しそうな顔をした。
「凄いだろう」
「ねえ、何かやって見せてよ」
「何かやれって言われても・・・う~ん・・・そうだなあ~」
「・・・」僕は期待に胸を膨らませながら、男の人の返事を待った。
「ねえ、ねえ。家に空き缶や空き瓶、ない?」
「ゴミで集めているから、あると思う」
「ここに持って来てよ」
「うん。分かった」
僕は家に飛び込むと、パパが台所の流しの下に保管している空き缶と空き瓶の袋を持って戻った。
「ほら~こんなにあったよ」
「じゃあ、その空き缶と空き瓶を僕の言う通りに並べて」
「分かった」
僕は男の人の言う通り、空き缶と空き瓶を並べた。縁側の端、軒下から雨粒を落ちて来る場所に。相変わらず、僕の前の前にふわふわと浮いたまま、雨粒が空き缶や空き瓶に落ちる水音を聞いては、「ああ、その空き缶はこっち」、「その空き瓶は鯖缶の隣だよ」と細かく指示を出した。
男の人の言う通り、空き缶と空き瓶を並び終えるまで、かなり時間がかかった。
やがて、「さあ、準備完了だ」と男の人が言った。
「終わったの?」
「ほら、そこに座って雨音を聞いていて」
男の人はそう言うと、目を閉じて、オーケストラの指揮者のように手を振り始めた。
ぽちゃぽちゃと空き缶、空き瓶に落ちる雨音が音楽を奏で始めた。
「あっ! 雨雨、ふれふれだ~!」
曲は「あめふり」だった。
「あめあめふれふれかあさんが~」僕は雨音に合わせて歌った。
「はは。凄いだろう?」
「うん。凄いね」
こうして、僕は雨使いのお兄さんと楽しいひと時を過ごすことが出来た。
パパが帰って来て、そのことを伝えると、「そうか~お昼寝したんだね」と信じてくれなかった。夢でも見たのだろうと思ったようだ。
翌日、僕は雨使いのお兄さんの話を誰かにしたくて学校に行った。




