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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
お天気使いの詩
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虹使いの詩

「風使いの詩」の続編となるショートショート集「お天気使いの詩」です。

――虹の橋を渡って行けば、天国があって、そこにママがいる。


 そうパパから聞かされていた。

 だから、僕は雨が降ると、虹が出ないかと、窓から外ばかり見ていた。そして、虹がかかると、僕はママに話しかけるのだ。

「ねえ、ママ。今日ね。幼稚園でね。粘土で象さんをつくったんだ。よく出来ているねって、先生のほめてもらったんだよ」

 だけど、ママは何も答えてくれない。

 今日も雨だった。だから、僕はずっと窓から外を見ながら、虹が出るのを待っていた。

 うちはアパートの三階だ。窓の外に隣のおうちの屋根が見える。

 雨の中、変な恰好をしたお兄さんが飛んで来て、屋根に止まった。シャツとズボンが一緒になった、七色の服を着ていて、つま先の尖った靴を履いていた。耳がピンと尖っていて、もの凄く痩せていた。

 変なお兄さんは僕に気がつくと、ふわふわと窓の外まで飛んで来て、こんこんと窓を叩いた。僕が小さく窓を開けると、「君、君。僕が見えるのかい?」と聞いた。

 僕が「うん」と答えると、「僕は虹使い。大丈夫。雨が入らないようにしてあげるから、もう少し、窓を開けてよ」と虹使いのお兄さんが言った。

「ねえ。何をしているの?」と聞くので、「雨が上がって、虹が出るのを待っているんだ」と答えると、「そうか~君、虹が好きなんだね。だから、僕の姿が見えるんだ~」と虹使いのお兄さんは嬉しそうだった。

「あのね」と僕は虹の橋を渡って行けば天国があって、そこにママがいるという話をした。

「へえ~虹の橋を渡ったことはないけど、君が虹を見たいのなら、見せてあげてもいいよ」と虹使いのお兄さんが言った。

「そんなこと、出来るの?」

「僕は虹使い。自由に虹を出すことができるんだ」

「へえ~じゃあ、虹を出してよ。でも、出来れば今日じゃない方が良いな」

「じゃあ、何時が良いの?」

「今度の僕の誕生日」

「君の誕生日かぁ~それは何かお祝いしないとね」

「うん。まりこさんも来てくれるんだ」

「まりこさん?」

 最近、パパが時々、おうちに連れて来てくれるようになった女の人だ。とっても優しくて、良い匂いがする。

「僕ね。生まれた時からママがいないんだ」

 ママは僕を生んで直ぐに亡くなった。

「ずっと寂しかったんだけどね。最近、まりこさんが来てくれるようになったの」

「その人が嫌いなのかい?」

「ううん。大好きだよ。僕のママになってくれたら、嬉しいんだけどね。だからね。ママに色々、伝えたいことがあるんだ」

「分かった。君の誕生日に虹をかけてあげるよ」

 虹使いのお兄さんがそう約束してくれた。

 そして、僕の誕生日が来た。

 朝から雨だったけど、まりこさんがケーキを持って来てくれた。僕が欲しかったカエルの玩具をプレゼントされた。嬉しかった。

 まりこさんがつくってくれたご飯を食べ終わると、雨が止んでいた。

「あっ! 雨が止んでいる」

 僕は窓に飛んで行った。

 虹使いのお兄さんが隣のおうちの屋根の上で手を振っていた。

「ありがとう。お兄さん」

 虹がかかる。

 僕はママに話しかけた。「ママ、ママ。今日は僕の誕生日なんだ。まりこさんが来てくれて、一緒にご飯を食べて、これからケーキも食べるんだ。ねえ、ママ、会ったことないけど、僕、ママのことが大好きだよ。でもね。僕、ママがいなくて、ずっと寂しかったんだ。友だちは、みんな、ママがいるのに、僕だけいないから、寂しくて、寂しくて、ずっとママが欲しかった。ごめんね。ママ、僕ね。まりこさんにママになって欲しいんだ。ママのこと、忘れたりしないけど、まりこさんがママになってくれたら、嬉しいんだ。ごめんね。ママ。僕ね。ママと手を繋いで歩いてみたいんだ。だから、まりこさんにママになってもらいたいんだ」

 僕が一生懸命、虹に向かって話しかけていると、後ろからまりこさんがやって来て、僕のこと抱きしめてくれた。パパもやって来て、僕らを抱きしめてくれた。パパは大声で泣いていた。

 まりこさんが言った。


――私でよければ、ママにしてちょうだい。


 まりこさんも泣いていた。

 拙作をご一読いただき、ありがとうございました。


「風使いの詩」を書き終わって、ショートショートのアイデアを練っていた時、雨、雷、竜巻、まだまだこの設定でつくれそうだとつくった作品。

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