カリスマ占い師
プリンセス天空はカリスマ占い師だ。
彼女には不思議な能力がある。恋占いにやって来る人の未来のパートナーが見えるのだ。二人が楽しそうに談笑している光景が動画のように頭に浮かんでくる。
「大丈夫ですよ。直ぐに良い人が現れますよ。あなたの周りに、こういう人はいませんか? いなければ何時か、近い将来、こういう人と出会いますよ」と天空はそのパートナーの風貌を告げるだけで良い。
天空の占いは当たると評判になり、連日、列が出来るほどだった。
時に、パートナーの顔が浮かばない人がいる。
そういう人には、親身になって相談に乗り、恋愛の障害となっていることを取り除いてあげる。性格的なものだったり、経済的なことだったりする。天空はパートナーの顔が見えるようになるまで、アドバイスを与え続けた。
時に、パートナーの顔が二人も三人も浮かぶ人がいる。不倫、再婚、事情は様々だが、そういう人には多くを言わない。
パートナーに対して誠実であることを伝えるだけだ。
天空のもとに、若いOLがやって来た。友人の女性と共にやって来て、恋愛運を占ってもらいたいと言う。
「あなたのパートナーを見せてもらいます」
天空は目を閉じると、目の前の女性の顔を思い浮かべた。脳裏に女性の顔が浮かぶ。パートナーがいれば、直ぐに隣に顔が現れる。
だが、この日は違った。
女性の隣に現れた顔は半透明で消えかかっていた。
(何故? パートナーの顔が消えかかっているの⁉)
天空は考え込んだ。
どういうことだろう? パートナーの顔が消えかかっているということは、彼が地上から消え失せようとしているということだろう。考えられるのは、思い病気を患っているか、事故に巻き込まれるのか、或いは事件に巻き込まれるかだ。
事故に遭う運命であれば、パートナーの顔は消えかかったりしない、現れないはずだ。となると、病気か事件かということになる。
天空が目を閉じて黙り込んだままだったので、心配になった女性が声をかけた。「あのう・・・大丈夫ですか? 何か、変なことがありました?」
「ごめんなさい。あなたの周りに、こんな人はいませんか?」と言って、天空は消えかかっていた男性の顔を女性に伝えた。
「います。会社の職場の先輩です。とてもいい方で、私が仕事で困らないように、いつも気を使っていただいています。頼れる先輩です」
どうやら女性は好意を抱いているようだ。好きなのだが、その気持ちを打ち明けることができないでいるのだろう。
「その人は病気を抱えていますか?」
「いいえ。そんな話、聞いたこと、ありません」
「事件に巻き込まれている可能性はありますか?」
「彼が、まさか!」
「あなたの好きな先輩に危機が迫っています」と言うと、女性は目を見張った。
危険を防ぐ方法はひとつしかない。
彼を説得して、今直ぐ病院に連れて行き、精密検査を受けてもらうのだ。もし病気があるのなら発見できるし、何か事件に巻き込まれようとしているのなら、それを避けることができる。
後は、こんな突拍子もない話、彼をどう説得するかだ。
「今直ぐ、彼と連絡を取ってください」と言うと、女性は躊躇った。彼女の側から連絡することを躊躇していたが、「あなたと彼は結ばれる運命なのです。その運命が今、途切れようとしています。あなた、それで良いのですか? 彼と永遠に会えなくなっても良いのですか?」と言うと、「私、連絡をとってみます」とバッグから携帯電話を取り出した。
彼に電話をかけた。残業で会社にいると言う。「家に帰してダメよ。今晩はホテルにでも泊ってもらって、明日朝一番に病院に行って、人間ドックを申し込んで」と天空は彼女に伝えた。
今晩は家に帰らずに、病院に行って検査をして欲しいと伝えると、「いや、俺、至って元気だから」と彼は病院に行くことを嫌がった。当然だろう。
だが、彼女が必死に口説いてくれた。「自覚はなくても、大病を患っているかもしれない」、「とにかくアパートに帰るのはダメ。悪いことが待っているかもしれない」と粘り強く説得を続けてくれた。そして、最後には「あなたに会えなくなるなんて、そんなこと、耐えられない」と電話口で泣き出してしまった。
彼女の気持ちが通じた。彼の心を動かすことに成功した。「君の言う通りにする」と彼は言ってくれた。
「私、先輩が明日、朝一番に病院に行く時、ついて行きます」
彼女も必死だった。
その夜、彼が住むアパートから出火した。
彼は二階建てのアパートの二階に住んでおり、真下の部屋から火が出た。燃え広がった火は二階にあった彼の部屋を焼き尽くした。
鎮火の後、火元から二人の焼死体が見つかった。
部屋に住んでいた男女と見られた。一人は焼死だったが、もう一人は死後、数日が経過していた。
何らかの事情があって、部屋で一人が死亡、もう一人は遺体と共に数日、過ごしたようだが、後を追って部屋に火を点け、焼け死んだものと思われた。
出火したのが明け方であったが、二階の住人は外泊しており、無事だった。
翌日、若いカップルが天空を訪ねて来た。
昨晩の彼女だ。今日は彼と一緒だった。
「ありがとうございます。命拾いをしました」と彼が言った。
あのまま帰って寝ていたら、延焼に巻き込まれて、焼け死んでいただろうと消防士に言われたということだ。彼の顔が消えかかっていたのも頷けた。
「人間ドックも受け来ました。変な病気があると嫌だから」と彼が言う。朝、病院に向かっている最中に大家から連絡があって、火事のことを知ったと言うことだった。
「良かったですね。これで運命の人と一緒にいることができますよ」と天空は彼女に言った。
今日は二人の笑顔がはっきりと見えていた。
「一緒に病院に行ったの?」と彼女に聞くと、「はい」と俯きながら答えた。
「大変だったね。朝、早起きしてホテルまで迎えに行ったのね」
「いえ、それが・・・」
昨晩、彼には彼女の部屋に泊ってもらったと言う。
彼はもう彼女のパートナーになっていた。
拙作をご一読いただき、ありがとうございました。
最初に頭に浮かんだのが「隣にいる」というオチでした。




