アリとクツワムシ
暑い夏だった。
アリたちは汗水垂らして働いていた。冬の食料を確保するためだ。人が落としたものだろう、ビスケットを見つけたアリたちは、強力な顎でかみ砕くと、列をつくって欠片を巣穴へと運んでいた。
「こんな暑い日に、朝から、ご苦労なことだな」
葉っぱの上に寝そべりながら、クツワムシがアリに話しかける。
「やあ、クツワムシ君。もうお昼だよ。今頃、起きてきたのかい?」
「昨晩はギグだったんだ。ちょっと盛り上がり過ぎてね」
「冬に備えて蓄えを始めておいた方が良いんじゃない?」
「まだ夏だ。たっぷり時間がある」
「そう思っていると、あっという間に冬が来ちゃうよ。忙しいから、じゃあね」
アリはそう言い残すと、ビスケットの欠片をくわえて行ってしまった。
秋になった。
アリたちは相変わらず働き続けていた。今日の獲物はセミだ。八日間の寿命を終えたセミの死骸があちこち、散らばっていた。それを食料として持ち帰るのだ。
「やだね~死骸をあさるのか?」
クツワムシが欠伸をしながらアリに言った。
「やあ、クツワムシ君。また朝寝坊かい?」
「フェスのシーズンだからな。毎晩、忙しい。こども公園で、大規模な野外フェスをやっているんだ。お前らも聞きに来ると良い」
「残念だけど、夜はきちんと休まないと、昼間、働けなくなっちゃう」
「面白くないやつらだ」
「もう冬は間近だよ。そろそろ準備を始めた方が良いよ」
「なあに。まだ時間はある」
「そんなこと言っていると、冬が来ちゃうよ。知らないからね。じゃあね」
アリはセミの一部をくわえて行ってしまった。
冬が来た。
アリたちは暖かい巣穴で食卓を囲んでいた。
「ずっと頑張って働き続けたお陰で、冬の間、飢えなくてすむね」
「そう言えばクツワムシ君はどうしているかな?」
「この寒さだ。きっと草葉の陰で震えているよ」
「お腹を空かせているだろうね」
「仕方がないさ。ずっと遊んでばかりだったんだから」
「そうさ。僕は何度も忠告したんだ。直ぐに冬が来るから、蓄えを始めておいた方が良いよって」
「あいつが馬鹿だっただけさ」
「まあね~」
その時、「た、大変だ~!」と一匹のアリが血相を変えて食卓に駆け込んできた。
「どうしたんだい?」
「クツワムシだ!」
「クツワムシ君がどうかしたのかい?」と言った時、巨大な影が現れた。次の瞬間、駆け込んで来たアリの首が刎ね飛んだ。
クツワムシだ。そこには武装したクツワムシがいた。クツワムシが巣穴に乱入して来たのだ。
「あぎゃ~!」、「ひええ~‼」悲鳴が上がる。
クツワムシは巣穴を駆けまわり、手当たり次第、アリを殺戮して回った。
そして、アリを殺し尽くすと言った。
「これで冬の間の食料を確保できた。俺はキリギリスほど甘くないからな。来年はまた、別のアリの住処を見つけて、あらいざらい奪ってやる。そうやって冬を超えるのさ。ふふふ」
了
拙作をご一読いただき、ありがとうございました。
童話「アリとキリギリス」をひねった作品。クツワムシの、あの平たい体が、どこか悪役っぽく見えてしまった。




