クリスマスの夜には奇跡を
シリーズかしていないショートショート集の第二弾です。
クリスマスの夜には奇跡が起きる。そう信じたい。
かねてより憧れていた優実ちゃんにメッセージを送った。
――君に伝えたいことがある。クリスマスの夜、チャペルの前で待っている。
彼女への想いを打ち明けてしまえば、友人関係にひびが入ってしまう。それが怖くて、ずっと胸に秘めて来た。だけど、卒業が迫っている。彼女との別れが目の前だ。僕は勇気を振り絞って、告白することにした。
だけど、既読にならない。
彼女に何かあったのか? 病気? 事故? 心配になった。
――大事なことなんだ。是非、会って話したい。夕方六時にチャペルの前で待っている。
もう一度、メッセージを送ってみた。
でも、彼女は読んでくれない。不安がよぎる。何故? あんなに仲が良かったのに。最後に会った時のことを思い出してみた。
「就職しても会えるかな?」と彼女に聞くと、「そうねえ~」と呟いた後、「仕事で忙しくなるから、今までのようには行かないと思うの」と答えた。
それは困ると思った。だから、思い切って、告白することにした。僕の気持ちを伝えるのだ。そして、そして――
結局、既読にならないまま、クリスマスの日を迎えた。
(大丈夫、クリスマスだ。きっと奇跡が起こるはずだ)
自分で自分を、そう励ました。
チャットは既読になっていなかったが、チャペルに向かった。六時の約束だったが、五時半には着いた。
クリスマスだ。チャペルの周りは、カップルでにぎわっていた。僕と彼女も、いずれはこの中に――そう願わずにはいられなかった。
刻々と、時間が過ぎて行く。
うろうろと歩き回っている内に、六時を過ぎてしまった。
大丈夫。彼女は時間にルーズだ。時間に遅れることなんて、しょっちゅうだ。メッセージは未読のままだ。何か事情があって、メッセージを読むことができないのだ。そうだ。そうに違いない。携帯電話を無くしてしまったのかもしれない。
チャペルの階段に座って、僕は待ち続けた。
彼女は来ない。
二時間が過ぎた。今日、何度目、いや何十度目か分からないが、メッセージを確かめる。未読のままだった。
(クリスマスの夜に、奇跡は起きなかった・・・)
流石に、あきらめた。
彼女は僕に会いたくないのだ。最後に会った時、僕の態度から、僕の気持ちを薄々、察知してしまった。それは彼女にとって迷惑以外の何物でもなかったようだ。
だから、もう僕からのメッセージは読まない。
四年間の片思いだった。今、恋が終わった。
涙が溢れてきた。泣くのが嫌で夜空を見上げた。都会の夜空は明るい。その明るい夜空に一筋の光が流れた。
流れ星だ
ひとつ、いや、ふたつ、みっつ、流れ星が流れる。流れ星にしては遅い。ゆっくりと夜空を流れて行く。その不思議な流れ星は、どんどん数を増やして行った。やがて、夜空を覆いつくすほど、流れ星が広がった。
光の川が空に広がっている。
(なんだ、これは?)
クリスマスの奇跡だ。
やはり、クリスマスの夜には奇跡が起きるのだ。僕は暫く、流れ星を見上げていた。そして、急に駆けだした。何故か無性に走りたくなった。
(人生、まだまだこれからだ。これから、彼女より、もっと良い人に出会える)
僕は「うわ~!」と大声を上げながら、息が切れるまで走った。
その夜、核戦争が始まった。
了
拙作をご一読いただき、ありがとうございました。
最後の一行で落とすことを目標に書いた作品。ブラックな作品でオチが気に入っている。




