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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その二
45/136

クリスマスの夜には奇跡を

シリーズかしていないショートショート集の第二弾です。

 クリスマスの夜には奇跡が起きる。そう信じたい。

 かねてより憧れていた優実ちゃんにメッセージを送った。


――君に伝えたいことがある。クリスマスの夜、チャペルの前で待っている。


 彼女への想いを打ち明けてしまえば、友人関係にひびが入ってしまう。それが怖くて、ずっと胸に秘めて来た。だけど、卒業が迫っている。彼女との別れが目の前だ。僕は勇気を振り絞って、告白することにした。

 だけど、既読にならない。

 彼女に何かあったのか? 病気? 事故? 心配になった。


――大事なことなんだ。是非、会って話したい。夕方六時にチャペルの前で待っている。


 もう一度、メッセージを送ってみた。

 でも、彼女は読んでくれない。不安がよぎる。何故? あんなに仲が良かったのに。最後に会った時のことを思い出してみた。

「就職しても会えるかな?」と彼女に聞くと、「そうねえ~」と呟いた後、「仕事で忙しくなるから、今までのようには行かないと思うの」と答えた。

 それは困ると思った。だから、思い切って、告白することにした。僕の気持ちを伝えるのだ。そして、そして――

 結局、既読にならないまま、クリスマスの日を迎えた。

(大丈夫、クリスマスだ。きっと奇跡が起こるはずだ)

 自分で自分を、そう励ました。

 チャットは既読になっていなかったが、チャペルに向かった。六時の約束だったが、五時半には着いた。

 クリスマスだ。チャペルの周りは、カップルでにぎわっていた。僕と彼女も、いずれはこの中に――そう願わずにはいられなかった。

 刻々と、時間が過ぎて行く。

 うろうろと歩き回っている内に、六時を過ぎてしまった。

 大丈夫。彼女は時間にルーズだ。時間に遅れることなんて、しょっちゅうだ。メッセージは未読のままだ。何か事情があって、メッセージを読むことができないのだ。そうだ。そうに違いない。携帯電話を無くしてしまったのかもしれない。

 チャペルの階段に座って、僕は待ち続けた。

 彼女は来ない。

 二時間が過ぎた。今日、何度目、いや何十度目か分からないが、メッセージを確かめる。未読のままだった。

(クリスマスの夜に、奇跡は起きなかった・・・)

 流石に、あきらめた。

 彼女は僕に会いたくないのだ。最後に会った時、僕の態度から、僕の気持ちを薄々、察知してしまった。それは彼女にとって迷惑以外の何物でもなかったようだ。

 だから、もう僕からのメッセージは読まない。

 四年間の片思いだった。今、恋が終わった。

 涙が溢れてきた。泣くのが嫌で夜空を見上げた。都会の夜空は明るい。その明るい夜空に一筋の光が流れた。

 流れ星だ

 ひとつ、いや、ふたつ、みっつ、流れ星が流れる。流れ星にしては遅い。ゆっくりと夜空を流れて行く。その不思議な流れ星は、どんどん数を増やして行った。やがて、夜空を覆いつくすほど、流れ星が広がった。

 光の川が空に広がっている。

(なんだ、これは?)

 クリスマスの奇跡だ。

 やはり、クリスマスの夜には奇跡が起きるのだ。僕は暫く、流れ星を見上げていた。そして、急に駆けだした。何故か無性に走りたくなった。

(人生、まだまだこれからだ。これから、彼女より、もっと良い人に出会える)

 僕は「うわ~!」と大声を上げながら、息が切れるまで走った。


 その夜、核戦争が始まった。

                                             了

 拙作をご一読いただき、ありがとうございました。


 最後の一行で落とすことを目標に書いた作品。ブラックな作品でオチが気に入っている。

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