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コーヒーブレイクにショートショートを  作者: 西季幽司
コーヒーブレイク・その二
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美しい魔女の子

 あだ名はチビデブス、チビで、デブで、ブスだからだ。

 学校の成績も悪かった。そんな私がたった一つ、自慢できるのが、友だちの美亜(みあ)ちゃんだ。幼稚園で出会い、同じ小学校に通っていて、しかも同じクラスだ。

 手足が長くて、お人形さんのように綺麗な顔立ちをした美少女だ。

 美亜ちゃんみたいに綺麗な子が私なんかと友だちになってくれるなんて思ってもみなかった。でも、最初に声をかけてくれたのは美亜ちゃんの方だったと思う。

「綺麗な黒髪」と私の髪の毛を褒めてくれた。

 私からすれば、赤味がかっていて巻き毛の美亜ちゃんの髪の毛の方が可愛く見えた。そう言うと、「あら、私のはダメよ。でもマコちゃん髪の毛は真っすぐで真っ黒で羨ましい」と美亜ちゃんが答えた。

 それから美亜ちゃんと話をするようになった。

 小学校に入って、男の子たちからチビデブスというあだ名をつけられた時は、美亜ちゃんは一緒になって悔しがってくれた。

「マコちゃんはチビデブスなんかじゃないよ」

「でも太っているし・・・」

「健康そうで羨ましい」

「チビだし・・・」

「今から背、伸びるよ」

「ブスだし・・・」

「年頃になれば綺麗になるのよ」

 といった感じで慰めてくれた。そして、「良いわね~マコちゃんは」と言うのだ。

「羨ましいのは私の方。だって、美亜ちゃん、お姫様みたいにキラキラしている」

 私の心からの言葉だった。だけど、美亜ちゃんは「私なんて、全然、ダメ」と相変わらず謙遜してばかりだった。

 ママに聞いたことがある。「どうして私はチビで、デブで、ブスなの?」って。ママは一瞬、絶句したけど、直ぐに笑いながら言った。「お父さん、スタイルは良いんだけど、顔はあんなでしょう。お母さん、子供の頃から太っていて、背が伸びなかった。でもね、痩せたら美人だよって言われるよ。今まで一度も痩せたことないけど。あははは」

 それを聞いて、生意気な弟が言った。「姉ちゃん、パパとママの悪いところばかり似ちゃったんだよ」

 悔しいけど、その通りだ。弟はパパに似てスラリと細い。


 最近、美亜ちゃんがよく休む。

 もともと運動が苦手な子だったが、運動神経が悪い訳ではない。体が弱いのだ。縄跳びとか上手に飛べるのに、直ぐに息切れしてしまう。

 私は丈夫なことが取柄だ。インフルエンザで学級閉鎖になった時も、私は平気だった。

「マコちゃんが羨ましい」と美亜ちゃんに何度も言われた。

 美亜ちゃんがいなと寂しい。美亜ちゃんがいないと、私の周りに意地悪な男の子たちが集まって来て、「チビデブス」とはやし立てる。あの子たち、美亜ちゃんに嫌われたくないのだ。だから、美亜ちゃんと一緒の時は、私を虐めに来ない。

 久しぶりに美亜ちゃんが登校して来た。

「大丈夫?」と聞くと、「ううん」と顔色が優れない。心配になった。

「どうしたの?」と聞いてみる。

「あのね。もう直ぐ、マコちゃんともお別れなの」と悲しいことを言う。

「嫌よ、そんなの。美亜ちゃんと一緒にいたい」

 私にとって唯一の自慢が美亜ちゃんと友だちでいることなのだ。いつも私が美亜ちゃんと一緒にいることをクラスの女の子も男の子も羨ましがっている。

「私の体、もうダメみたい」

「ダメ?」

「うん。お婆ちゃんが言うには、もう死んでいるんだって」

「死んでいるの?」

 どういうことだろう?

「お婆ちゃんの力で、こうやって生きているけど、それももう限界だって」

 お婆ちゃんって、凄いお医者さんなのだろうか?

「そんな・・・できることなら私が代わってあげたい。私なんて、チビで、デブで、ブスだから、生きていたって仕方がないのに・・・」

「そんなこと、言うものじゃない!」珍しく美亜ちゃんが怒った。そして、次の瞬間、「でも、ありがとう。マコちゃんの気持ち、とても嬉しい」と言って弱々しく笑った。

 その笑顔を見ていると悲しくなってしまった。私は「美亜ちゃん、本当よ。代われるものなら代わってあげたいの・・・」と言って泣いた。


 翌日、美亜ちゃんは学校を休んだ。

 体調が悪いのだ。嫌だ。美亜ちゃんとお別れだなんて。

 翌々日、美亜ちゃんが学校に来た。

「良かった。元気になったのね」と聞いたが、ただでさえ白い顔が青白くなっていた。

「ううん。みんなにお別れを言いに来たの」と美亜ちゃんが言う。

「そんな・・・嫌!」

 私には何も出来ない。

「ねえ。この間、私と代わってくれると言っていたけど、あれ本気?」と美亜ちゃんに聞かれた。

「うん」と頷く。

「お父さん、お母さん、悲しむわよ」と言われると、ああ、そうかと思った。あの憎たらしい弟にも会えなくなると思うと、それはそれで寂しかった。

「そうね・・・」

「ねえ。これからもずっと私と一緒にいる?」

「そんなこと出来るの?」

「うん。マコちゃんさえ良ければ・・・」

 美亜ちゃんが真剣なまなざしで言った。私は迷わなかった。「だったら、そうしよう!」

「ありがとう」美亜ちゃんは泣いて喜んでくれた。

「私のお婆ちゃんは魔女なの」と美亜ちゃんが言う。

 半分、ドイツ人だそうで、美亜という名前もお婆ちゃんがつけた。ドイツ人にミアという名前の女の子が多いそうだ。ミアは愛されているという意味らしい。

「私の体は朽ちて無くなるけど、魂はマコちゃんと一緒に生き続けるのよ」

 美亜ちゃんはそう言ったが、私には理解できなかった。

 その日、私は美亜ちゃんに連れられて、初めて美亜ちゃんの家に行った。びっくりした。家と言うより、お屋敷だったからだ。

 そこで、美亜ちゃんのお婆ちゃんと会った。

 びっくりするほど鼻が高くて、魔女だと言われると、そう見えた。美亜ちゃんのパパとママにも会った。「ありがとう、本当にありがとう」とパパが私に言った。ママは私を抱きしめると、「美亜のこと、よろしくお願いね」と言って泣いた。

 それからのことは、よく覚えていない。

 そして、美亜ちゃんは亡くなった。


 中学生になると、ぐんぐん背が伸びた。

 太っていた体も痩せてほっそりして来たし、手足も長くなって、スタイルが良くなった。「あら~パパの遺伝子のお陰ね~」と言って、ママは目を見張った。

 顔立ちもどんどん変わって、「ほら、ママが言った通りでしょう。私、痩せたら美人なんだから。あなた、私に似たのよ」とママが言う。

 だけど私には分かっている。

 私はどんどん美亜ちゃんに似て来ているのだ。みにくいアヒルの子が白鳥になるように、チビデブスだった私はハーフのモデルのように変って行く。何故なら、私の中には美亜ちゃんがいるのだから。

 美亜ちゃんのお婆ちゃんの魔術のお陰で、美亜ちゃんと私はひとつになった。美亜ちゃんの魂が私の中で生きている。

「あなた、寝過ぎなんじゃない」とママは言う。

 とにかくよく寝る。

「成長期だから」と答えているが、睡眠時間が長く見えるのは、私が寝ている間、美亜ちゃんと入れ替わっているからなのだ。私が寝ている間は美亜ちゃんが私の体を自由に使うことができる。お風呂に入ったり、テレビを見たり、時には外出したり、何だって好きなことができる。

 ただ、二人で体を使っていると、起きている時間が長くなり過ぎてしまう。だから、睡眠時間が長く見えてしまうのだ。

 美亜ちゃんの家にもよく行く。

 美亜ちゃんの家に遊びに行くと、お婆ちゃんが出て来て、魔法をかけてくれる。すると、直ぐに私は眠りに落ちて、美亜ちゃんが現れる。

 美亜ちゃんのパパとママは美亜ちゃんと会って話をすることができる。

 美亜ちゃんの連絡方法も決めてある。

 毎日、寝る前に、携帯電話に美亜ちゃんに伝えたいことを録画しておく。すると、翌朝には美亜ちゃんが返事を録画しておいてくれる。最初、自分の顔なのに、全く記憶にないことをしゃべっているのを見るのは、変な気持ちだったけど、もう慣れた。

 美亜ちゃんとの間に秘密なんてない。

 綺麗になって、男の子から告白されるようになった。恋人につくる時は、美亜ちゃんとよく話し合わなければならない。だって、二人の恋人になるのだから。


                                            了

 拙作をご一読いただき、まことにありがとうございました。


「みにくいアヒルの子」を題材として作品が書けないかと思った。

 チビデブスと呼ばれた少女が成長するにつれ美しく変身して行く――という筋書きを考え、どうやって変身するのかアイデアを練り始めた。

 美しい友達がいる――その子は余命僅か――代わってあげたいと心から言う――その子が喜ぶ――その子から美しさを譲られると発想が膨らんで行き、次はどうやって美しさを譲るのかを考えた。

 その子の祖母はドイツ人とのハーフで魔女だという設定――で何とか解決。後は、どうオチをつけるかで、衝撃的な展開を用意するか、ほのぼのとした結末を用意するかで迷った。結局、作品のテイストからほのぼのとした結末を選んだ。

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