表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
幽霊はタクシーに乗って
37/137

どっちが幽霊?

「お客さん。あんた、幽霊なのかい?」と運転手が言った。

「私が?」と後部座席の客が答える。

「だって、雨の夜に、こんな寂しいところを、一人でずぶ濡れになって歩いているなんて変じゃないか」

 後部座席に座る若い女性客は長い髪で白い服を着ていた。全身、ずぶ濡れで、長い髪が顔に張りついていた。車内が暗いので、バックミラー越しに、青白い顔をしていることは分かるのだが、表情が全く見えなかった。

「そうですか?」

「ここまで、どうやって来たんだい?」

「友人の車に乗って来ました」

「だったら、何で一人なんだい?」

「それが、ちょっとした言い争いになって、車から降ろされたのです」

「彼氏かい? そりゃあ、ひどい奴だね」

「全く・・・つまらない男に引っかかってしまいました」

「俺が通りかからなきゃあ、死んでたかもしれないよ」

「本当に・・・」

「で、あんた、くどいようだが幽霊じゃないよね?」

「違いますよ。それより運転手さん」

「何?」

「運転手さんこそ、幽霊じゃないでしょうね?」

「俺が? 幽霊?」

「この辺りで幽霊タクシーが出るって聞きました。あるタクシーが、お客さんを送っていった帰りに事故に遭って、成仏できずに走り回っている。うっかり幽霊タクシーに乗ってしまうと、あの世に連れて行ってしまうって」

「はは。馬鹿らしい」と運転手が笑った。

 だが、後部座席からは、バックミラーに映る運転手は、制帽を深くかぶっていて顔が全く見えなかった。

「だって、こんな雨の夜に、こんなところを走っているなんて変じゃないですか? お客さんがいる訳ないから」

「それは、あんた、客を送って行った帰り道だったからさ。こっちもお客さんを拾うことができるなんて思ってなかったよ」

「どこかで聞いたような話ですね。なんだか暗くて顔も見えないし」

「だから、幽霊なんかじゃないって。ほら、顔、見せようか?」と言って、運転手が後ろを振り返った。

「危ない! 前、前を見て‼」と女性客が叫ぶ。

 運転手が慌てて前を向く。すると、前方に人影が――

「うわわわわぁ~!」

 運転手が急ブレークを踏む。タイヤがききききき~! と音を立てる。タクシーが急停車しようとするが、雨でタイヤが路面を滑って、急には止まれない。


――撥ねた!


 と思ったが、何の衝撃も感じなかった。

 幸い、運転手も後部座席の女性客もシートベルトをしていたので、怪我はなかった。だが、急停車のショックで、シートベルトに圧迫されて、二人共、一瞬、気が遠くなった。

 運転手が意識を取り戻す。

「大変だ。人を撥ねたかもしれない!」

 運転手が車を飛び出した。

 雨が細々と路面は叩いていた。

 道路に出た。何もない。ヘッドライトが道路を明るく照らしていたが、路上には何もなかった。車の背後に回ってみた。

 こちらも何もない。

 心配した女性客が後部座席から出て来た。

「いました?」

「それが、誰もいない。何もないんだ」

「でも、確かに人影が見えました」

「俺も見た。だけど、いない」

「変ですね~」

「変だ」

「車はどうです。人を撥ねたのなら、へこんだり、壊れたりしていませんか?」

「ああ、そうだな」と運転手はタクシーの周りをぐるりと回って傷がないか確かめた。

「どうです?」

「異常はない」

「見間違いだったんですかね」

「そうだったんだろう。人を撥ねたにしては、衝撃がなかったから」

「そうでした。ひょっとして・・・」

「ひょっとして?」

「あれ、幽霊だったりして」

「ああ、なるほど」

 タクシーは幽霊を撥ねたのかもしれない。タクシーが走って来るのを見て、幽霊は乗客を装って、拾ってもらおうとした。だが、よそ見をしていた運転手は、それに気がつかずに撥ねてしまった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。悪いね。驚かせて。濡れるから、車に戻ってくれ。送って行くよ」

 雨の中、タクシーは走り去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ