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恋の伝書鳩

人の言葉を話す鳩ジョンが繰り広げるドタバタ劇です。

 バス停に一羽の鳩がいた。

 カワラバトと呼ばれる公園や駅前でよく見かける鳩なのだが、一点、他の鳩と違うところがあった。

 鳩と言えば黒目に白目の部分がオレンジ色になっていて、目が赤く見えるが、この鳩は白目の部分が白かった。それだけで、他の鳩より賢そうに見えた。

 バスが来るまで手持無沙汰なので、朝食のパンの残りをあげたりしている。

「いいな、お前は。悩みが無さそうで。お前、伝書鳩だろう。だったらさ、伝えてくれない? 僕の気持ち」と小声で話しかけてみると、「ああん?」と鳩が僕を睨みつけた。

「今、鳩がしゃべった?」

「鳩がしゃべって悪いか⁉」

「だって、鳩だろう?」

「そうだよ。鳩だ。で、誰に何を伝えるって?」

「あのね――」

 僕は鳩を相手に話し始めた。

 僕は高校二年生、バス通学だ。毎朝、僕が乗るバスに一人の可愛い少女が乗って来る。僕が乗るバス停から三つ目のバス停だ。今年の四月からバス通学を始めたようなので、多分、高校一年生、うちの学校の制服なので後輩だ。

 毎朝、僕と同じバスに乗って来る。まあ、バスなんて、毎日、同じ顔ぶれであることが多い。毎朝、彼女と会うのが楽しみだ。気がついたら、彼女のことばかり考えていた。

 好きになってしまったようだ。

 何とかこの気持ちを伝えたいのだが、フラれてしまうと、毎朝、バスで顔を合わすのが辛い。朝のバスなんて、そんなに本数が無い。これ以上、早く起きたくないし、一本、遅らせると遅刻してしまう。

 それに、いきなり話しかける勇気がなかった。

「先ずは彼女と友だちになりたいんだ。彼女のこと、色々、知りたい」と僕が言うと、「そうだな~彼女のこと色々、知りたければ、今日から十日間、毎朝、餌を持って来い。何時もの残り物のパンなんてダメだぞ。ピーナッツだ。ピーナッツを買って来い!」と鳩が言った。

「十日間⁉ ピーナッツ?」

「俺のサイズを考えな。十日分なんてたいした量じゃない。毎日、ひとつずつ、お前の知りたいことを彼女に聞いてやるぞ」

「う~ん・・・」

「嫌ならいい。この話は無しだ」

「分かったよ。明日からピーナッツを持って来る」

「OK~俺はジョン。お前は?」

「ジョン? 名前まであるのかい?」

「P・ジョンだ」

「ピージョン?」

「鳩は英語でピジョンだろう! だからジョンなんだよ」とジョンに切られらた。

「ああ、そうか。僕の名前はタイキ」

「ジョンとタイキだな」

「頼むよ。ここから三つ目のバス停で乗って来る彼女だ」

「任せておけ。俺がひとっ飛びすれば、バスより早く着く。バスが着くまでに色々、聞いておいてやるよ」

 こうして僕とジョンとの共同作戦が始まった。

 翌日、約束通りピーナッツを買ってバス停に行った。

「遅いじゃないか」とジョン。

「何時も通りだよ」

「早くピーナッツを寄こせ。腹が減った」

「ねえ。彼女の名前、なんていうのか知りたいんだ」

「聞いておいてやる」とジョンが飛び立つ。

「本当⁉ 明日が楽しみだな~」

 翌日、バス停に行くと、ジョンが待っていた。

「早くピーナッツを寄こせ。腹が減った」と昨日と同じ台詞を言った。

「で、どうだった? 彼女の名前、分かったかい?」

「自分で聞けよ」

「自分で聞けないから、こうして頼んでいるんだ」

「名前はレイコ」

「うん。想像通りの名前だ」

「そうなのか? 俺にはハトコとかの方が良いけどな」

「それだけかい?」

「それだけだ」

「もっと色々、聞いてよ。そうだな~部活は何をやっているのかとか?」

「部活って何だ?」

 翌日は部活のことを聞いてもらった。こうして、彼女のことが段々、分かって来た。レイコさんは一年A組でブラスバンド部に所属している。趣味は音楽鑑賞、彼氏はいない。

 ジョンと取引を始めて八日目の朝、何時も通り、ジョンから彼女の情報を仕入れてバスに乗った。三つ目のバス停で彼女が乗って来た。レイコさんだ。

 学校前のバス停に着く。彼女は何時も五つ目のバス停で乗って来る友だちと一緒に登校している。僕がバスと降りると、彼女が友だちと一緒にバス停に立っていた。

 彼女の友だちが僕に近寄って来て言った。「ねえ。あなた。あなたの飼っている鳩がうるさいのよ。毎日、私のこと、しつこく聞いてくるの。名前は何だ? 部活はなんだ? どこのクラスだ? って。何故、しつこく私のことを聞くのか尋ねたら、あなたに聞けって。一体、何なの⁉」

「・・・」僕は黙ったまま、忙しく頭を働かせた。

 どういうことだ? レイコさんって、彼女の友だちなのか⁉ そうか! ジョンのやつ、間違えて彼女の友だちに尋ねていたのだ。

「こういうこと、もう止めてください!」

 レイコさんはそう言うと、彼女の腕を引っ張って歩き去った。

 翌朝、ジョンが待っていたので、文句を言った。「人違いじゃないか!僕が知りたかったのは別の人だ。三つ目のバス停で乗っている子って言ったじゃないか」

「ここから三つ目のバス停がどれだか、俺には分からない。そうか、人違いか。じゃあ、今日から十日だ。彼女のこと、知りたいんだろう?」

「それは・・・」

 彼女の友だちに気味悪がられてしまった。

 今日からジョンが彼女のもとに行って、色々、尋ねたりすると、僕が友だちから彼女に乗り換えたように思われてしまうだろう。

 ひとますジョンとの契約は解消だ。

「ちぇっ! ケチ」と言うとジョンは飛び去って行った。

 バスに乗り。三つ目のバス停で彼女が乗って来た。気まずい。彼女が近づいて来た。また何かクレームを言われるのだろうか?

「ごめんなさい」と彼女が謝った。

「・・・」何故、彼女が謝るのだ?

「昨日、友だちが変なこと言って。鳩が話しかけるなんて、そんなこと、ある訳ないのに。最近、家で色々あって、参っていたみたいなのです」

「ああ、そうだったのですか」

「でも、もう平気みたいです。昨日、あなたに怒鳴って、すっきりしたって」

「それは良かった」

「本当にごめんなさいね」

「いいんです。僕でお役に立てたなら」

 やった! 彼女と友だちになれそうだ。

 五つ目のバス停に来たが、友だちは乗って来なかった。

「お友達、来ませんね?」と聞くと、「今日からブランスバンド部の朝練があるので、一本、早いバスに乗るって言っていました」とのことだった。道理で。暫く顔を合わせないので、僕に文句を言ったのだ。

 とにかく、暫く、毎朝、彼女と登校できる。

 ありがとう。ジョン。

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