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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その一
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僕らの胸に

――僕らの胸に~光り輝く~地球自衛軍のバッジ~♪


 僕らの間で大人気の特撮テレビ番組「エースマン」の挿入歌、「地球自衛軍の歌」の歌い出しだ。

 エースマンはキング星から宇宙の平和を守る為にやって来た超人だ。空から、海から、そして地下から現れる怪獣たちとエースマンは戦う。地球自衛軍はエースマンと共に怪獣たちと戦う防衛組織で、隊員の一人、ゲンタ隊員が実はエースマンなのだ。怪獣が出現し、危機が訪れた時、ゲンタ隊員はエースマンに変身することができる。

 僕は胸に輝く地球自衛軍のバッジがどうしても欲しかった。

 エースマン・スナックを買うと、エースマン・カードが一枚、ついて来る。基本、怪獣たちのカードなのだが、エースマンのカードが出るとラッキーだ。更に、スペシャル・カードがあって、それが当たると、地球自衛軍のバッジと交換できるのだ。

 タカト君もショウ君も、ミライちゃんもガンちゃんも、みな、隊員バッジを持っている。胸につけて、地球自衛軍員の隊員になったような気でいる。

 羨ましかった。

 僕もエースマン・スナックを買っているのだが、スペシャル・カードが当たらない。同級生の中には、親にエースマン・スナックを箱買いしてもらって、隊員バッジを手に入れた者がいた。

 羨ましかった。そんなこと、親に頼めば、叱られるに決まっている。


 お母さんに頼まれて、近所のスーパーまでお使いに行かされた。

「好きなお菓子を一個だけ、買って良いよ」と言われたので、エースマン・スナックを買うつもりだった。今日こそ、地球自衛軍のバッジを手に入れるのだ。

 歩いていると、歩道の真ん中に何か落ちていた。

(あれあれ⁉ ひょっとして・・・)

 駆け寄って手に取ると、間違いない。地球自衛軍のバッジだ。欲しく、欲しくてたまらなかった隊員バッジが落ちていたのだ。

 僕は踊り上がって喜んだ。

 だが、次の瞬間、(これ、僕のものにして良いの?)という疑問が頭に浮かんだ。

「落とし物を拾ったら、交番に届けましょうね」と学校の先生に言われている。

 今、大人気の地球自衛軍のバッジだ。無くしたことに気がつけば、その子はきっと涙が出るほど悲しいだろう。何処で落としたのだろうと、探し回っているかもしれない。

 僕は手の中にある、憧れの隊員バッジを見つめながら、どうしようと悩んだ。

(このまま黙っていれば、誰にも分からないさ)と頭の中で悪魔の囁きが聞こえる。

(ダメだよ。拾ったものは警察に届けないと)と今度はもう一人の僕が訴える。

 迷っていると、番組の中でゲンタ隊員が言った言葉が蘇った。


――我々、地球自衛軍は、この胸に輝く隊員バッジに恥ずかしくない行いをしなければならないのだ!


 ゲンタ隊員はそう言っていた。

 僕も大好きな怪獣ゲドロスの回だ。子供たちの夢が怪獣となったゲドロスは大人しい怪獣だったが、地球自衛軍はゲドロスに攻撃をしかける。怒ったゲドロスは町を破壊し始める。子供たちは「止めて!ゲドロスは悪い怪獣じゃないの。ただ僕らと遊びたいだけなんだ」と地球自衛軍を説得する。

 それでも攻撃を続けようとする隊員たちを前に、ゲンタ隊員が言った言葉だ。

 地球自衛軍が攻撃を止めると、ゲドロスはエースマンと戦うことなく、消えて行った。

(そうだ。やっぱり警察に届けよう!)

 僕は隊員バッジを持って交番に行った。

 交番に着くと、若いお兄さんが道を聞いていた。

「どうした? ボク、何か用かい」とお巡りさんが声をかけてくれた。

 僕は地球自衛軍のバッジを拾ったこと、無くした子が悲しんでいるであろうこと、そして探しているかもしれないことを伝えた。

「へえ~お菓子のおまけのバッジか。今、子供たちの間で大流行だものね。そうだね。無くした子は、きっと探しているよ。ボク、えらいね~ありがとう」とお巡りさんが笑顔で言った。

 お巡りさんに褒められた。僕は嬉しくなった。

 すると、お巡りさんに道を尋ねていたお兄さんが、振り返って言った。「君、偉いよ。うん。本当、その年で他人のことを第一に考えられるなんて」

 お兄さんの顔を見て、びっくりした。ゲンタ隊員だった。

「ゲンタ隊員・・・?」

「あれ? 君、隊員バッジをつけていないね。エースマンが嫌いなのかい?」

「ううん」と僕はエースマン・スナックを買ってもスペシャル・カードが当たらないことを説明した。

「そうか。じゃあ、これをあげよう。本物のバッジだ」とゲンタ隊員は僕に隊員バッジをくれた。

 見ると僕が拾った隊員バッジより一回り大きくて、しかも重かった。

「あ・・・りがとう」

 僕は恐る恐る受け取った。

「良いんですか? そんな貴重なものを、この子にあげて」とお巡りさんが聞くと、「大丈夫です。撮影所にいけば、予備がありますから」とゲンタ隊員は答えた。

「そうですか」

「大体、どう行けば良いのか分かりました。ありがとうございます」

「お気をつけて」

 ゲンタ隊員はお巡りさんにお辞儀をすると、「じゃあね~」と僕に手を挙げてから、交番を出て行った。

 僕は本物の隊員バッジを手に入れた。

 翌日、友達に自慢すると、「本物の地球自衛軍のバッジを持っているやつがいる」と学校中で評判になった。休み時間になると、「隊員バッジを見せて」とあちこちのクラスから生徒がやって来て、僕の前に列ができた。

 みんな、「良いな~」、「ねえ、ちょっとだけでいいから触らせて」と僕のバッジを羨ましがった。僕は鼻が高かった。

 しかも、ゲンタ隊員がテレビで「こんなことがあったのですよ」と僕のことを話したものだから、あっという間に他校にまで広まってしまった。

 お陰で隊員バッジを落とした子が交番に来て、無事、その子の手元に隊員バッジは戻ったらしい。

 朝礼で、僕は全校生徒の前で校長先生から褒められた。

「みなさんも彼のように正直に生きてください」

 みんなの前に立つ僕の胸には、ゲンタ隊員からもらった地球自衛軍のバッジが輝いていた。

カード付スナック~懐かしいですね~

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