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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」⑧

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 堤伸幸が行方不明になった。


 アパートにもいないし、勤務しているリサイクルショップに向かったが、今日は無断欠勤をしているらしい。これまでにそんなことは一度もなかったらしく、店の上司たちも何があったのかと首をかしげていた。


「・・・桜花さん、これ、かなりヤバくないですか?」


「・・・まさか、瘴気に取り込まれて駅に呼び寄せられたのか?そうだとしたら、かなり状況は危ない。あの時、馬場の霊に線路に引きずり込まれそうになっていた時点で保護をするべきだったか」


 桜花が舌打ちする。しかし、あの時は明良と霧江が線路に引きずり込まれそうになって、桜花たちもあの状況で逃げ出した堤を捕まえるのは無理があっただろう。その時、桜花のスマホが鳴った。


「・・・英美里から?」


 桜花がスマホをスピーカー機能に変えてから、電話に出た。


「もしもし、英美里か?」


『お疲れ様です。ちょっと気になることがあったので、報告します。昼間に霧江が堤伸幸と接触した時についた霧江の霊力を辿ってみたら、彼、どうやら棗塚駅の方に向かっていることが分かりました』


「あの時か!!棗塚駅だな!?」


『桜花さん、私なりに昼間の状況を考えてみたのですが、彼が棗塚駅で幽霊に引き込まれそうになっていたことから、あの駅の中にいる幽霊たちに何らかの理由で狙われている可能性が高いです。幽霊が人間を引き込もうとしているのは、引き込む対象の人間の瘴気の浸食具合が相当なレベルに達していることを踏まえると、急いで彼を保護しなければ、あの駅の幽霊たちは何度でも彼を狙います。あの駅に近づかなくても、駅の中に呼び寄せることもできるわけですから』


「わかった。教えてくれてありがとう!!あとでお前の好きなお菓子おごってやるからな!!」


『霧江と牡丹さんにも連絡を入れておきました。二人とも、棗塚駅に向かっています』


「わかった、本当に助かった!!私たちも棗塚駅に向かう!!」


 そう言って、桜花がスマホを切った。


「明良、急ぐぞ。堤だけは絶対に何があっても守り抜く!!ヤツが今度の事件の重要な鍵を握っているはずだ!!」


「はい!!」


 桜花と明良は棗塚駅に向かって、全力で走り出した。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 駅前広場にたどり着いたときには、時計の針は21時を回っていた。

 人気がまばらになってきた駅前広場に、明良は桜花を背負った状態で息が上がりながらも、何とか無事たどり着いた。桜花に関しては駅に向かう途中で体力が尽きてしまい、明良が彼女をおんぶした状態で走ってきたのだった。


「桜花さん、着きましたよ」


「ぜえ・・・ぜえ・・・お、お前、私をおんぶしたまま走ってきたのに、どうして、息が上がってねんだよ・・・どれだけ体力があるのだ」


 桜花の体力がなさすぎるのではないか、と口にしそうになったが明良は堪えた。そして駅前広場に向かうと、広場のベンチでは牡丹と霧江の姿があった。明良たちは牡丹たちのもとに向かい話しかける。


「国東さん、葛西さん!」


「あっきー!着てくれたんだね!」


「それで、状況はどうだ?」


 息も絶え絶えで、顔中から汗を噴き出しながら桜花が尋ねた。


「いえ、まだこの駅構内とこの付近で堤伸幸はまだ見つかっていません」


「しばらくこの辺りを警戒していた方がよさそうですね」


 堤があの幽霊に引き寄せられているのだとしたら、唯一の駅の玄関口であるこの駅前広場だったらすぐにわかる。そう思い、桜花をまずはベンチに座らせて、牡丹たちは周囲に目を配る。


 その時、明良の頭の中にある予感が思い浮かんだ。


(確かに堤がこの駅の幽霊に引き寄せられているのだとすれば、ここを必ず通るはず。でも、何か見落としていないか?駅に入る方法というのは、他にもあるのではないか?例えば、電車に乗って隣の駅から乗り込んで、ホームに降りれば棗塚駅の中に入ることが出来るはず・・・ホームから入る?)


「・・・ホームだ!!」


 明良が突然立ち上がって叫んだ。


「あ、あっきー、どうかしたの?」


「ホームですよ、ホーム!!ここを通らなくても、もし、隣の駅から電車で乗り込んでこの駅のホームに降りたら、ここを通らなくても棗塚駅の中に入れるじゃないですか!!」


 確証はないが、嫌な予感がする。今すぐにホームに向かわなければ、とんでもないことが起こりそうな予感がしてならない。明良は説明する間もなく、気が付いたら全速力で駅の中に向かって走り出していた。


「お、おい!?」


「何か嫌な予感がするんです!!ここにもうすでに堤がいるかもしれないんです!!」


 切符売り場で入場券を買い、に切符を滑らせてラッチ内の中に滑り込む。辺りを注意深く着まわしながら散策していると、1,2番ホームの階段から青い顔をした人物がふらふらとまるで夢遊病者のように出てきた。


 堤伸幸だった。


 生気を感じさせない虚ろな表情で、ゆっくりとした足取りで階段を上がると、改札とは正反対の方向に向かっていく。明良が堤の姿を捕らえると、素早く動き出した。


 その時だった。


 明良の目の前には異様な光景があった。思わず言葉を失い、踏み出した足が止まった。


(何だ、あれは!?)


 堤が歩いていく連絡橋の先・・・そこにあったはずの行き止まりがなくなっており、昼間には見たことのない【0】と書かれた看板と下に降りる階段があった。そのエリアだけが蛍光灯が灯っておらず、真っ暗な暗闇に覆われており、0番ホームの看板だけが闇の中に浮かび上がって、真っ白な明かりをともしていた。まるで、おいでおいでをしているかのように・・・。


 堤は0番ホームに続く階段に向かって、ゆっくりと、歩いていく。そして、暗闇から何本もの青白い手が出てきて、堤の身体につかみかかろうと伸ばしてきた。指先が待ちきれないとばかりに強く、骨のように細くて真っ白な指を伸ばして、堤に触れようとしていた。


「だああああああーーーーーーっ!!」


 爆発音のような雄たけびを上げて、明良が床を駆け出すとまるでロケットのように飛び出した。そして、堤の身体を前から抱き上げると、そのまま一気に抱き上げたまま猛然と走り出した。堤の身体はまるで石像のように固く、前に進もうとする足取りを止めなかったが明良が再び雄たけびを上げて堤の身体を持ち上げた。


「そこに行ってはダメだあああっ!!」


 堤の身体を抱き上げたまま、まるでラグビー選手のように猛然と進んで、堤を0番ホームの入り口から引き離していく。しかし、その時0番ホームの闇がまるで蛇のようにしゅるりと明良の足に絡みつき、思い切り強く引っ張った。


「うわあっ!!」


 明良はとっさに堤の身体を改札の方に向かって突き飛ばした。よろめいて下がったところで、牡丹が堤の身体を抱きとめた。そして、牡丹と桜花、霧江は目の前の光景に驚愕の表情で凍り付いた。連絡橋の中は真っ暗な闇に侵食されて、無数の青白い腕が怒りをあらわにしているのか、今度は明良につかみかからんと腕を伸ばしてきた。枯れ木のように細くて血が通っているようには見えない真っ白な腕は何十本と暗闇からにゅるりと飛び出てくる。


「明良ァ!!」


 そして、闇の中から何かがこっちに向かって飛んでくる”音”が聞こえた。普通の人間では絶対に聞こえるはずのない、そもそもこれはこの世におけるものが発することは出来ない音。しかし、桜花はその音を聞き逃さなかった。


 何かが迫ってきている。

 そして、その狙いは・・・明良だ!!


「明良、何か来るぞっ!!避けろっ!!」


 桜花が叫んだ瞬間、暗闇から飛び出してきたのはさび付いた鎖だった。鎖の先が欠けていて、その先端が鋭い切っ先に尖っており、ギラリと明良に狙いを定めるかのように光を受けて反射すると、明良の首めがけて襲い掛かってきた。


「ちっ!!」


 明良は鎖の攻撃をかわすととっさに左手で掴んだ。さび付いた鎖がそのまま左手に巻き付くと、。ものすごい力で明良の身体を闇の中へと引きずり込もうと、引っ張り上げてきた。


 ー・・・帰して・・・帰してよ・・・私の赤ちゃんを・・・帰してェェェェェェッ!!!-


 暗闇の中から、恨みと怒り、そして深い悲しみに満ちた声が聞こえてきた。そしてさらに左手を食いちぎらんとばかりに鎖が締め付けてきた。骨まで砕かれそうな激痛に歯を食いしばって必死で耐える。


(・・・一体誰の声なんだ?私の赤ちゃんを帰してって、どういうことなんだ!?)


 鎖が巻き付く左手に力を込めて、逆に鎖を握りしめた。痛くて、言葉が出てこない。肉が千切れた感触がしたかと思うと、握りしめていた左手から血が流れていた。


(・・・一体誰なんだ?どうして、堤を襲ったんだ?何を伝えようとしているんだ!?)


 疑問が次から次へと生まれていき、やがてそれが力に変わっていくように、ギリギリと締め付けてくる鎖を明良は強く握りしめた。血が染み込んだ鎖を強く握りしめて、ゆっくりと起き上がった。


(・・・教えてくれ、お前は、一体何があったんだ!?)


 闇の向こう側で、自分を引き寄せようとしている何かに訴えるように、歯を食いしばって睨みつける。鎖が巻き付く手にさらに力を込めて逆に引き寄せようと、思い切り明良は鎖を引っ張った。


「お前は一体何を伝えたいんだ!!僕が全部聞いてやる!!だから、もうこれ以上、誰かの命を奪わないでくれ!!」


 そう叫んだ瞬間、左手が急に熱くなった。

 左手が真っ赤に光り出して、握っていた鎖の部分を包み込むと、その瞬間明良の目の前の視界が遠い向こうへと消えていく錯覚を感じた。まるで穴に落とされているかのように、真っ暗な世界へと意識が飲み込まれていく。身体の力が徐々に抜けていき、自分の意志だけが暗闇の中へと吸い込まれていく。


 そして、握りしめた鎖が白い光を輝きだした。

 それを両手で強く握りしめると、視界が真っ白な光に飲み込まれていき、明良の意識は薄れていった。


(・・・僕は・・・死ぬのか?)


 明良の視界がブラックアウトした。


この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


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