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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第肆の噂「森の魔女」
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第肆の噂「森の魔女」⑥

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 公安部部長と指名手配犯を殺害したと思われる最重要容疑者が公安部の英雄で、しかも指名手配犯が所持していた拳銃を奪って逃走中。


 最悪過ぎる展開に、本庁の中は阿鼻叫喚の地獄と化した。マジで洒落にならねえ。


「今のうちに署に戻りましょう。ここにいたら、流れ弾に当たりそうです」


「だよね!」


 刑事課から血走った目をした刑事たちが、全身から異様なまでに殺気を放ちながら慌ただしく廊下を駆け抜けていく。「ブチ殺せ!!」「必ずホシをあげたらぁ!!」とまるで殴り込みのような勢いだ。最早怒りが頂点に達しているらしく、黒田を見つけた瞬間、逮捕よりも処刑に突っ走りそうである。


 霧江と牡丹は紅蓮隊と化した刑事たちが走り去った後、お互いにうなづきあい、非常階段へと向かった。人気のない非常階段に素早く入って一気に駆け下りた。


「牡丹さん、これ、かなりヤバくない?」


「ヤバいどころじゃないですね。まさか最重要容疑者が陽だまりの家の頂上作戦の立役者なわけですし。私たちはただでさえ警視庁の腫れ物扱いですから、目をつけられないうちに退散しましょう」


「まあ、それもそうなんだけどさ」


 ふと、霧江のスマホが鳴り出した。画面には「アホ鮫」と表示されている。青鮫からだった。


「もしもし」


『葛西、地下の駐車場の非常階段降りたすぐ近くに車停めてあるからこっちまで来い!」


「あれ、アホ鮫?確かあっきーと一緒に公園に向かったんじゃなかったっけ?」


『少し緊急事態があったんだよ!さっさと来やがれ!ノロマサイ!』


 ガチャリ、と憎まれ口を叩いて電話が切れた。


「誰がノロマだ、あのボケ鮫」


「青鮫さんがどうかしました?」


「知らね。アイツなぜか本庁に来てるみたい。駐車場に車停めているからすぐ来いだって」


「よくわかりませんが、彼らと鉢合わせするよりはマシですかね」


 牡丹と霧江がうなづきあい、階段を駆け下りていく。そして地下一階の駐車場の扉を開くと、パッとライトをこっちに向けて点灯させたワゴンが目に飛び込んできた。二人が近づくと、運転席には青鮫が、そして助手席には獅子島が大きな身体を縮こませているように座りこんでいた。サングラスをかけている強面は今日はどこか疲れ果てているようにも見えた。


「どうしてアンタがここにいるのさ」


「緊急事態だ。まずは小野塚署に戻る。そしたら話すよ」


「分かりました。では、明良さんはどうしましたか?」


「朱夏町の森林公園に向かった。アイツ、あそこに中条がいることをなぜか確信している感じだった。中条をまず保護してから署に戻るってよ」


 その時だった。


「ねえ、ちょっと。英美里がどうかしたの?」


 獅子島がドスの利いた低い声で尋ねてきた。いつもの強面に、わずかに動揺の色が浮かんでいた。霧江は少し驚きつつも答えた。


「えみぽん、6年前に朱夏町の教会で火事で亡くなった鳥居静華って言う人のことを調べていたんだよ。それで事件現場になった公園の教会に向かっているかもしれないからって、あっきーが迎えに行っているんだよ」


「つまり、英美里は今ひとりで行動をしているってことなのか!?」


 獅子島が思わず怒鳴るような大声を上げた。あまりの剣幕に、霧江だけではなく、牡丹や青鮫も震え上がる。獅子島は明らかに動揺し、サングラス越しの瞳が血走って冷静さを失いかけていた。


「急いで朱夏町の森林公園に向かってちょうだい!!」


「ちょ、ちょっとどうしたの!?」


「緊急事態なんだ!!このままじゃ、英美里が危ない!!黒田が狙っている可能性があるんだ!!」


 いつもの女性のような言葉遣いではなく、かなり焦っている様子の声色だった。獅子島のいつになく狼狽した様子に青鮫が何かを感じたのか、エンジンを入れるとアクセルが起動して、車体が脈動する。


「朱夏町の森林公園だな?」


「ちょっとマジ?桜花さんはすぐ戻ってこいって」


「中条と明良を拾って戻ればいいだろうがよ!」


 アクセルペダルを踏み込み、青鮫がハンドルを握りしめて車を走らせだした。


「その代わりオッさん、どう言うことなのか、説明してもらうぜ。中条が調べていた6年前の事件、そして公安部部長と陽だまりの家の幹部を殺された事件で容疑者が陽だまりの家を一斉検挙した公安部の黒田であることと、私たちが調べている人体発火事件は6年前に起きた森林公園の教会の火事で繋がっている。つまり、6年前に起きた何かが今度の一連の事件の発端になっている可能性が高い!!」


 有無を言わせない強い口調で獅子島に問い掛けると、獅子島は観念したかのように深くため息をついた。大きな身体を丸めて、どこか疲れ切った様子だった。


「・・・アタシも全ての真相を知っているわけじゃないわ。だから確かな証拠があるわけでもないし、あくまでアタシの勝手な推察に過ぎないわ。だから」


『いいからとっとと話しやがれ、この仕事馬鹿の朴念仁の駄目親父が。貴様が知っている情報も、もはや藁にもすがる思いで知りたいのだ。それが真実かそうでないかなど貴様の考察など知ったことか。私たちの大事な仲間が、貴様にとっては実の娘が危機に晒されているかもしれんのに、まだごちゃごちゃ抜かすならば私が貴様に引導を渡してやろうか!?』


 突然どこからか、桜花の容赦のない苛烈な言葉が車内に響き渡る。それは牡丹のスマホからだった。牡丹も耳を塞ぎながらスマホの通話をスピーカーにして、桜花に連絡していたのだ。


『全ては6年前に起きた教会の火事の事件がはじまりだと私は確信している。英美里もずっと追っていた。だから大嫌いな父親と同じ警察官になってまで事件を調べていたのだ。そしてヤツは森の魔女の噂を聞いて、朱夏町の森林公園に向かったことがGPS機能で分かった。だが、なぜそこまでその事件に固執しているのかまでは私にはわからん。それを貴様は知っているはずだ。その情報こそが、森の魔女や元警察関係者が続けて人体発火で殺されなければいけなかったのか、手がかりになるかもしれん。獅子島、貴様が知っていることを全て話してくれ!』


 桜花の問いかけに、獅子島が意を決したかのように深くため息をついて、口を開いた。


「6年前に鳥居静華さんが亡くなったのは自殺ではないわ。鳥居さんだけじゃない、陽だまりの家を一斉摘発に踏み込むきっかけになった証言をしてくれた元信者たちは殺されていたのよ。手を下したのは黒田、そしてそれを命令した黒幕は公安部部長の鴨川昌平だったわ。鴨川が自分の出世のために、そして恐ろしい野望のために、鶴ヶ島知里を自分のエスとして抱き込み、利用していたことを隠すためにね」


 獅子島の爆弾発言に、車内が静まり返る。青鮫がハンドルを握りしめたまま、震える声で尋ねる。


「おい、それマジかよ」


「2週間くらい前に、鷹橋徹って言うかつて同じチームだった仲間からいきなり電話がかかってきて、そんな話を打ち明けられたのよ。アタシも最初は耳を疑ったわ。でも鷹橋は冗談ではなく、本気で言っていた。そしてひどく怯えていたわ。自分も、同じチームだった鷲尾理恵、鷺沼哲哉もこのままじゃ殺されるかもしれないと言っていたわ」


「殺されるって、一体誰に?」


「そんな矢先に、鷺沼と鷲尾が続けて人体発火なんて言う普通じゃ考えられない死に方で亡くなったの」


「おい、それってまさか私と明良の目の前で突然体が燃えて亡くなったあの被害者は、アンタの知り合いだったってことか」


「ええ、鷲尾理恵で間違いないわ。さっき、監察官から話を聞いて初めて知ったわ。鷺沼と鷲尾が立て続けに身体が突然燃え出して亡くなったこと、さらに鴨川部長と陽だまりの家の生き残りだった鶴ヶ島が死体で発見されて、現場の防犯カメラの映像に現場から黒田が走り去っていく姿が映っていたこともね。鷹橋から聞いた話が、本当だったのかもしれないとアタシは思っているわ」


「その鷹橋って言う人はどうして黒田に殺されると思ったのですか?」


「・・・気づいてしまったからよ。鴨川に情報を教えていたエスが陽だまりの家の幹部の鶴ヶ島だと言うことに。そして、黒田は鴨川が犯罪者と裏で手を組んでいたことを知り、自分のことを騙していたと鷹橋に激しく憤っていたらしいわ。黒田の猟奇的で正義に対して異常なまでに執着している性格を知っていた彼らは、鴨川の部下だったことで自分たちも黒田に殺されるかもしれないと思って、それぞれ身を潜めていたらしいの。アイツは酔ったはずみで鷹橋に全て話したらしいの。自分が鴨川からの命令で、助けを求めるふりをして、警察関係者から情報を盗み出していた教団の告発者たちを手にかけたって」


 黒田ならやりかねない。万引きをした高校生たちに発砲して負傷させてから殴りつけると言う行為を正義と信じて疑わないような異常なまでに自身の暴力性を正義と思い込んでいるのだから。黒田の猟奇的な気質に、牡丹たちも思わず息を呑んだ。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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