第肆の噂「いばら鬼」③
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
「はあ?張り込みだと?」
小野塚市警察署署長に就任したばかりの巽真理警視正から捜査命令が出て、ゼロ係室長の北崎桜花が首を傾げた。陸の孤島とも呼ばれて、実際に警視庁でははみ出し者ばかりが集められた追い出し部屋である生活安全課特別捜査班0係にまさかそんな命令が下る日が来るとは思いもしなかった。
「実はさ、この間逮捕した玄武会の直参の幹部が事情聴取で気になることを言い出してさ。玄武会の隠し財産を狙って半グレが動き回っているから、隠し財産を探し出して押収してほしいってさ」
「ヤクザが警察に、自分たちの隠し財産を押収してほしいとは奇妙な話ですね」
国東牡丹巡査部長がコーヒーを淹れたマグカップを巽署長に差し出して疑問を口にした。
「司法取引による減刑が狙いかもしれないけどね。それに連中が破滅するきっかけになったのが子買いにしていた半グレたちの反乱だからね。これ以上組織の金看板に泥を塗られるのは面子に関わるらしい。でも、その隠し財産があるとされている場所が複数あってさ。その中の一つを調べてほしいの」
「まあ構わんがな。それで、その隠し財産とは何なのだ?」
「・・・末端価格で3億は下らないと言われている麻薬よ」
「3億!?そんな大量の麻薬が隠し財産だって言うんですか!?」
あまりの衝撃的な話に葛西霧江巡査が思わず声を上げた。近くにいた青鮫海雪巡査部長や、南雲明良警部補も目を丸くして驚いている。しかし、桜花は動揺することなく、やる気が無さそうに頭をかいていた。
「あ〜、なるほどな。要するに、死に体同然の玄武会に今更そんな隠し財産なんてあるわけがない。しかし、もしそのネタが本当なら玄武会やそれに群がる半グレたちを一網打尽に出来る。しかし、上は玄武会のシノギや他の資金源を潰すことを優先していて、その証言をまともに取り合わない方針だった。どうしても気になるなら全責任は貴様がとる形で捜査をやれとでも言われたわけか。それで、他の部署がやりたがらない仕事が我々に回ってきたと」
「・・・まあ、ダメで元々な捜査になる可能性は高いけど、でも、玄武会が隠し財産をまだ警察が見つけていない場所に隠している可能性はないとは言い切れないでしょう?そう進言したんだけど、女のくせに署長に就任していい気になるなとまで言われたらさ、絶対に見つけ出して鼻をあかしてやりたくなるでしょうが」
巽署長も肩身が狭い状況に置かれているらしく、頭を抱えているようだ。しかし、その話を聞いて「なるほど」と手を打ったのは明良だった。
「それは表向きの理由で、本当は国家公安委員会から特命が下ったんですね?無駄足の可能性が高い張り込みの手伝いで僕たちにも声を仕方なくかけた。だけど本当は心霊現象、もしくは自殺か事故としか思えない遺体が発見される事件が起きて、それらの事件に怪異が関わっている可能性があると思われるため、僕らに事件の調査を依頼したいと言うことですか?」
「それなら素直にそのまま言えばいいじゃん。どうしてそんなに回りくどい前置きなんて言うのさ」
「玄武会を壊滅させたのは警視庁の四課と警察庁の全面的バックアップによる完全撲滅作戦が成功したからと言うことになっている。ゼロ係には捜査権がないはずなのに勝手に捜査を行なって玄武会を壊滅させたなんてことがバレたら、組織の面子に関わるって上は頭を抱えているらしいのよ。国家公安委員会のお抱えとは言え、好き勝手にさせておくわけにはいかない。中にはアンタたちが暴走して、それを利用して国家公安委員会の幹部を陥れようと目論んでいる人間もいるらしい。つまり、今アンタたちは組織の中においていつ爆発するか分からない爆弾のような存在になっているのよ。当然、監視も厳しくなる」
「なるほど、つまりこの回りくどい前置きは口裏合わせと言うヤツか。全く面倒なことになってきたな」
「今回の捜査についても、何か分かったら私には報告してよ。勝手に暴走してとんでもないものを掘り当てたりしたら、私も手が打てなくなるから」
老舗の極道一家を壊滅させた代償はかなり高くついたようだ。警察組織において行動を監視されていると言うのは気分のいい話ではないが、それをされるほど警戒されているだけのことはやらかしてきた。
巽署長が部屋を出て行った後、桜花が明良に話しかけてきた。
「明良。貴様、何か心当たりがあるのか?あの会話だけで、国家公安委員会からの怪異が絡んだ事件が起きていると言う確信を得たと言うことは、貴様は何か知っているのか?」
「・・・実は一昨日、英美里さんの自宅があるマンションで遺体が発見された件なんですが、その身元が分かったんです。元スコーピオンの檜山勇です。実は檜山は、さっき署長が仰っていた玄武会の隠し財産を狙っていた半グレグループの一人である可能性があったんです」
「何?」
「玄武会の隠し財産を探して、彼らがよく身柄を隠す時に使っていたマンションや隠れ家を狙って空き巣や不法侵入を繰り返していて、生活安全課に目をつけられていた若者グループがいたんですが、その一人が檜山でした。その檜山が一昨日マンションの屋上から白い薔薇が咲いたいばらの蔦で吊るされた状態で発見されました。その情報を頼りに調べてみたら、小野塚市内で話題になっている噂話そっくりに死んでいたことが分かったんです。そんな時に、署長から張り込みの話が出たので、これは怪異が絡んだ国家公安委員会からのお話かと」
なるほど、明良は生活安全課や刑事課など様々な部署に潜り込んで、怪異が絡んでいると思われる奇妙な事件を調べていたらしい。生活安全課でヤクザの隠し財産を狙って空き巣を繰り返すような命知らずのアホ共の情報はすでに手に入れてしまったらしい。
「なるほどな」
「そしてこれは今朝方入ったばかりの情報なんですが、昨日、檜山と親しかった遊び仲間の梅田清志の遺体が梅田の自宅の部屋から発見されたらしいんです。梅田は元スコーピオンで、檜山や昔の仲間に声をかけて玄武会の隠し財産を手に入れようとしていたらしく、警察も梅田の行方を捜していた矢先に遺体が見つかったそうです。しかも、その遺体なんですが・・・」
明良の表情から血の気が引いたように青くなり、言葉を選ぶように慎重に話を紡ぐ。
「・・・身体中を鋭い切れ味の刃物か何かでズタズタに切りつけられていたそうです。しかも身体中に赤いバラが無数咲いている蔦がまるで身体から飛び出しているかのように、絡みついていた・・・と」
「・・・バラが身体中から飛び出して、身体を切り刻まれて死んでいた、だと?」
桜花たちも顔色が悪くなる。人間業とは思えない、惨たらしい死に様を想像し、身体中の鳥肌が立つ。
「・・・真っ白なバラで首を吊って死んだ檜山、真っ赤なバラで身体中を切り刻まれて死んだ梅田、この二つの遺体が発見された状況や死に方は、いばら鬼の噂にそっくりに見立てているかのように亡くなっているんです」
「いばら鬼、だと?」
新しい怪異の名前に、桜花の表情がこわばる。
「・・・はい、しかもその噂が流れている場所と言うのが、4つ目のヨドミスポットと思われる場所だったんです」
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