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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第肆の噂「いばら鬼」
60/63

第肆の噂「いばら鬼」②

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 事情聴取を終えて、英美里は帰宅せずにゼロ係の部屋に戻ってきた。パソコンのスイッチを入れると明かりを消した部屋に青白い光が灯る。部屋の電気を点けると何かとうるさくなりそうだったし、こっちの方が英美里にとっては落ち着く。


「あのバラの蔦、間違いなく呪物の類だよね」


 マンションで発見された首吊り死体の首に、首が捻れるほどに巻き付けられていた、真っ白なバラがおぞましく咲き乱れるバラの蔦、あれから感じたのは怒りや悲しみ、そして吐き気を催しそうになるほどの純粋な殺意だった。


「あんなに感情むき出しの思念が宿るなんて、被害者は一体どんな怪異に狙われたって言うのかしら」


 一言で言うと、あの思念はあまりにも無邪気過ぎる、純粋なものだった。まるで子供のようなまっすぐな怒り、悲しみ、大事なものを必死で守ろうとする思い、それ以外に何も感じられない。


 無邪気ゆえに手加減が一切出来ていない。この怪異に狙われたら、間違いなく殺されるだろう。じわじわと苦しめて恐怖を喰らうと言う意志も感じない。これまでの怪異と比べると異質にも思えてくる。


「まあ、何だっていいけどね。怪異は成仏させるか、消去するのが私たちの仕事なわけだし」


 何が相手であろうと、自分は自分の仕事を全うするだけだ。余計な感情を持てばそこを怪異はつけ込んでくる。人間が相手でも同じことだ。自分自身の使命を見失うな。感情に支配されず、機械のように冷徹に仕事をこなせ。


(もう、二度と失わないために。そう決めたはずでしょう?)



 脳裏によぎるビジョンが不意によぎる。

 真っ赤な炎が悪魔のように狂った笑い声を上げながら、何もかもを飲み込み灰に変えていく。いくら叫んでも自分の声は届かない。手を伸ばしても決して届かず、虚しく宙を切るだけ。そして、火炎に包まれた建物の天井が崩れ落ちて、あの人の頭上に降り注ぎ、全てを押し潰していった。


「・・・いやっ!!」


 我に帰り、髪の毛をかきむしり、意味もなく乱暴に立ち上がり椅子が横倒しになった。デスクの天板を叩き、近くにあったソファーに飛び込むと身体をよじらせるようにグルグルと何度も寝返りを打つ。イライラが溜まってくると、意味不明な行動をして苛立ちを目に映るもの全てにぶつけようとしたくなる。英美里は枕に顔を押し付けながら荒々しい呼吸を何とかして整えようとする。


「私は無敵、私は強い、私は最強、私は誰にも負けない、そうよ私はゼロ係の頭脳なんだから。私がいる限り、絶対に潰れたりしないんだよ。私は強い、私はもう泣かない。私は負けない、負けるもんか」


 自分自身に言い聞かせるようにぶつぶつと呟き続ける英美里の表情は今にも壊れてしまいそうな、悲痛なものに変わっていた。彼女はそのまま暗闇の中でぶつぶつと呟き続けていた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★


 人の住んでいる気配がまるで感じられない、月明かりが差し込む廊下は不気味な雰囲気に包まれていた。その通路をフードデリバリーサービス『エンジョイイーツ』の制服を着込んだ若い男性、【松島裕介】は足をもつれさせながらも、必死で駆けていた。


 ひいっ、ひいっと荒い息遣いを漏らし、こめかみに血管が太く浮かび、目は血走って焦点が定まっていない。その顔には恐怖と混乱が張り付き、理性が焼き切れる寸前まで追い込まれていた。


 どうなっているんだ。


 どうして、走っても走ってもエレベーターホールにたどり着かないんだ?


 まるで同じ場所をずっと走り続けているみたいだ。


 さらに、目の前に広がるマンションの風景は異常極まりない悪夢のような光景が広がっていた。


 錆びついた柵や、階段の手すり、壁から天井、床に至るまでびっしりと生えているバラの蔦がまるで行手を阻むように覆い尽くしている。バラの蔦は月明かりを受けてぬらぬらと異様に光って、まるで得体の知れない化け物のように蠢いていた。


「どうなってんだよ!?」


 今思えば、あんなバイトなんか引き受けるんじゃなかった。金欠で困っていた時に、高校時代からの腐れ縁である【梅田清志】に誘われて、このマンションの住人のところに出前の依頼が入るから、出前を届けて、引き換えにあるものを預かってきてほしいと頼まれて、依頼金で5万円を手渡された。ろくに考えもせず安請け合いしてしまったが、今思えば前金で5万など普通ならあり得ない話だ。


 松島が働いているフードデリバリーサービスの配達エリアにあるこのマンションから出前の依頼を受けて届けにきたとき、なぜか部屋に直接来るのではなく、一階のベランダから出前を渡してほしいと言われた。普通に玄関から受け取ればいいだろうと思いつつも、松島は渋々指示通りにベランダに回った。


 マンションのベランダがある裏手は長い間手入れがされていなかったせいか、雑草が生い茂っていた。耳元に耳障りな音が聞こえて、思わずのけぞった。服を見ると数匹の蚊が止まっていた。松島は乱暴に蚊を払い、足早に指定された部屋のベランダに向かった。


 103号室。

 ベランダに向かうと、柵にメモが挟んであった。見ると『ここにおけ。おいたらもっていけ』と書き殴ったようなメモが書いてあった。随分と横柄な感じがして、松島は苛立った。マトモなバイトではないと思ってはいたが、どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのか。


 ベランダに出前のラーメンと餃子を置いて、近くにあったビニール袋を掴み上げると松島はその場を走り去った。


「うおっ!?」


 その途中でつま先に何かがぶつかり、松島はバランスを崩して転びそうになった。何とか堪えて足元を見ると、草むらに隠れて見えなかったが、レンガのようなものが地面から生えていた。よく見ると、それは花壇だった。草に覆われていたため気づかなかったが、小さな花壇らしきものがあった。


「ちっ、ざけんなよ!」


 松島が花壇につま先で蹴りつけると、崩れかけていた花壇のレンガが崩れた。唾を吐き捨てて「ざまあみろ」と呟き、その場を立ち去ろうとしたその時だった。




 -あたしとおかあさんのおはな、いじめた?-




 頭の中に冷たく凍りつくような声が聞こえてきた。身体中の鳥肌が立ち、思わず振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。しかし、誰かが見ている気配を感じる。辺りを見回しても気配はすれど、姿がどこにもいない。


 -あかいの、しろいの、きいろいの、とったのはおじさん?-


 また聞こえてきた。松島は冷水を頭からかけられたような寒気を感じ、震える足を一歩、また一歩と後ずさる。


「だ、誰だよ!?」


 -アイツらと同じ、悪い人なの?-


 その声に怒り、憎しみ、殺意が孕んでいく。地の底から聞こえてくるような恨みがましい声に松島は耐えきれず、その場から走り出そうとした。


 しかし足が動かなかった。

 必死で動かしても、まるで地面に張り付いてしまったかのように。恐る恐る足を見ると、松島の瞳はかっと見開き、顔から血の気が引いてブルブルと震え出した。


 足には無数の棘を生やしたいばらの蔦が、いつの間にか巻き付いていたのだ。そしてものすごい力で引き寄せられると、松島は体勢を崩して倒れこみ、うつ伏せになったまま蔦に引きずられていく。その先には、廃墟のようなマンションがまるで怪物が口を開いて獲物を待ち構えているように見えた。


「助けてくれーーーーーーっ!!」


 松島が涙と鼻水まみれになってさけんだが、虚しく響き渡る。そして松島の姿はマンションの中へと消えていった。


 そしてマンションの廊下に投げ出されて解放された。松島は必死で逃げ出そうとしたが、廊下をいくら走っても走っても、あるはずのエレベーターホールにたどり着かない。階段を下りても、なぜか同じ階にたどり着いてしまい、一階に着かない。やがて、松島の視界には、至るところにいばらの蔦が巻きついた異様な風景が広がっていた。


 壁、床、柵、至るところにいばらの蔦が巻き付いて蠢いていた。松島は足を蔦に取られないように必死で走り続けてきた。心臓が破裂しそうなまでに高鳴り、呼吸さえろくに出来ない。視界がぼやけて、つま先に何かが当たり、バランスを崩した松島が倒れ込んだ。すると、床を這っていた蔦が獲物に一斉に襲い掛かっていく。腕や脚、首に蔦が巻きつき、ギリギリと締め上げ出した。やがて腕や足がものすごい力で曲がらない方向に引っ張られていき、激痛が走り、肉が裂け、ぶちぶち、ミシミシと嫌な音が聞こえてきた。


 そして意識を手放しそうになった時、あの声が頭の中に聞こえてきた。


 -黄色いばら、返して-


 それが松島が最期に聞いた言葉だった。

 松島の目の前には、自分を見下ろす人影があった。それは身体中にいばらが巻き付いて、床まで伸ばした黒髪を垂らしている小さい子供のような姿をしていた。赤々と毒々しいバラの花が無数咲き乱れており、むせ返るようなバラの香りを全身から放っている。人間のそれとは思えなかった。


 あの姿は、あの冷たい瞳は。


 鬼そのものだった。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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