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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第参の噂「顔無しカシマ」
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第参の噂「顔無しカシマ」25

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 刑事課に戻ってきた獅子島班の班長、獅子島陸と鷲尾天満は憤懣やるかたないといった様子だった。獅子島は疲れ切ったように椅子にドカっと座ると深くため息をつき、鷲尾は感情を抑えきれないらしく、机を思い切り両手で叩きつけた。


「納得出来ないっすよ、どうして俺と班長は減給で済んだのに、先輩だけが異動なんすか!?俺たちだって命令無視していたじゃないすか!!」


「アタシに言われても困るわよ。まあ、アタシも上には掛け合ってみたけど、どうも今度の辞令は本部よりも上からの異例の命令らしくてね」


「本部より上ってことは、まさか、警察庁ですか!?」


「・・・国家公安委員会、らしいわよ」


「どうして、そんなところから辞令が下るんすか。そんなのおかしいでしょう!?」


 驚きのあまりに声を上げた鷲尾に、獅子島も困惑していた。その横で異例の人事異動を命じられた本人、青鮫は黙々とダンボールに荷物を入れている。


「もう辞令は覆らないんだ。ここで騒いでいても仕方がねぇだろうが」


「ですけど先輩、よりによって警視庁の陸の孤島に異動なんてあんまりじゃないっスか!!」


「バーカ、刑事を続けられるなら、返り咲くチャンスはいくらでもあるだろうが。査問会議が中止になって、異動だけで済んだんだからな。それに、このまま終わるつもりはねぇよ。手柄を挙げまくって必ず刑事課に舞い戻ってやる。私の底力、甘く見るんじゃねぇぞ」


 青鮫は鷲尾に顔を向けると、涙ぐみながら不満そうに頬を膨らませている鷲尾の顔を上げて、真っ直ぐ彼を見る。


「鷲尾、獅子島のオッサンから刑事のイロハをきっちりと学べ。お前はおっちょこちょいで早とちりで不器用だけど、刑事として最も大切な正義感と熱いものを持っている。お前が一人前の刑事になれるって、私はこれでも期待しているんだからな」


「せ、先輩。ずるいっすよ。こんな時にそんなことを言われたら、俺だって・・・」


 鷲尾の瞳に涙が溜まり、腕で拭いながら「先輩に殴られるの、実はあまり嫌じゃなかったっす」と言うと「気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ」と青鮫が怒鳴りつけた。そんないつものやり取りが二度と見られなくなる。獅子島はサングラスを外して目元を拭う。


「青鮫、アンタ、向こうでもしっかりやっていきなさいよ。表向きではあまり仲良くするわけにはいかないけど、何かあったら出来る範囲で力になるわ」


「気持ちだけで十分だよ、ありがとうな、オッサン」


「・・・暴走族だった頃と比べると本当に成長したわね。アタシにとってアンタは手がかかるけど最高の仲間よ。今までも、そしてこれからもね。だから、貴方らしくしっかりやりなさい」


「・・・あざっす。班長」


 青鮫は段ボール箱を両腕で抱えると、いつものように快活な笑みを浮かべて「それじゃ、行ってくんわ!」と言い、刑事課を去っていった。青鮫の後ろ姿を見送りながら、獅子島はやれやれと苦笑する。どこか目元が一瞬光って見えた。


「・・・去り際に初めて班長って呼ぶなんて、もう本当にあの子は」


 そして再びサングラスをかけると、いつものヤのつく自由業の稼業人も真っ青になるほどの強面になり、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。


「鷲尾ちゃん、今日からアタシがビシビシ鍛えてあげるわ。青鮫に会った時に怒鳴られないような、立派な刑事に育て上げてみせるから、覚悟はいいわね?」


「ちょ、ちょっと勘弁してくださいっすよ!!班長、マジっすか!?」


「マジもマジ、大マジよ。大丈夫よ、とって食おうなんてわけじゃないんだから」


「ああー!!先輩、青鮫センパーイ!!今すぐ帰ってきてくださーい!!」


 刑事課に鷲尾の情けない悲鳴が上がった。


 ★★★★★★★★★★★★★★★


『辞令 刑事課勤務 青鮫 海雪巡査部長

 本日付で生活安全課特別捜査班0係勤務を命ずる』


 ★★★★★★★★★★★★★★★


「本日よりここに島流しになりました、青鮫海雪っス。よろしくお願いいたします」


 どこか開き直ったと言うか、さっぱりとした面持ちで挨拶した青鮫に、桜花以外のゼロ係の面々は鳩が豆鉄砲を食ったような呆気にとられたような顔になった。特に明良は「は、え、ええ!?」と驚きのあまりに珍しく狼狽えていた。


「もしかして、あの、僕たちのせいですか?」


「アタシが自分で選んだ選択の結果だ。後悔はしていねぇ。あのまま事件を有耶無耶にしたまま片付けていたら、真実も分からず、何も出来なかったことを引きずったままにするなんてごめんだからな」


「意外と潔いじゃん」


「だからと言ってこのままここで刑事人生終わらせるつもりはねぇ。手柄を挙げまくって刑事課にカムバックしてやる」


「あまり無理するなよ」


「お前に言われる筋合いはねーよ、バカサイ!」


「何だとこの命令無視して島流しにされたアホアホ鮫!」


 いつものように青鮫と霧江が胸と胸をぶつけ合いながら子どものような言い合いが始まった。桜花は青鮫の所に歩み寄り、名札を差し出した。


「貴様の名札だ」


「ご丁寧にどうも」


「改めて、ようこそ、生活安全課特別捜査班0係へ」


「・・・よろしくお願いいたします」


 桜花に頭を下げて挨拶すると、明良たちが拍手をして迎え入れた。新たなる問題児が加わり、青鮫もどこかまんざらでもないような穏やかな顔をしていた。


 こうして、6人目となる新しい仲間、青鮫海雪がゼロ係に加わったのであった。


 ★★★★★★★★★★★★★★★


 屋上にやってきた桜花と明良は、ベンチに座り缶コーヒーを飲んでいた。仕事の合間の休憩である。


「また一人、騒がしいのが増えたな」


「査問会議が中止になって本当に良かったです。ただ、海雪さん、お化けとか苦手なので大丈夫でしょうか」


「まあ、それでも腹を括って貴様らの捜査に加わったんだ。最初は我々で出来る限りサポートはするさ」


 桜花が缶コーヒーを飲んで「やれやれ」と呟く。すると明良の表情が神妙な顔つきになった。


「何だ貴様、まだ不安なのか」


「いいえ、ちがいます。あの、桜花さん。今度の事件なんですけどどうしても引っかかることがあるんです」


「針生茉奈を蠱毒の呪物で殺害した犯人か」


「はい。それと、以前から気になることがありまして。亀の杜学院の渚校長にロッカーのイズミさんを呼び出す方法を教えた人物のことも気になっていたのですが、この人物がもしかしたら針生茉奈の事件とも何か関係があるような気がするんです」


「・・・確かに怪異が絡んだ事件に、裏で手引きをしている人物がいるとすると、そうそういるものではないな。そもそも怪異と言う存在すら、都市伝説で面白おかしく噂話でしか世間には知られていないし、わざわざそれを利用したり、呪殺を行ったりするなど、針生を手にかけたヤツは心霊や呪術にかなり詳しい知識と技術を持っているな」


「その人物なんですが、一人、気になる人がいるんです。その人物は渚校長や、棗塚駅で起きた事件の加害者でもある城戸壮一とも過去に繋がりがありました。怪異が絡んでいる事件の関係者、しかも怪異を生み出すきっかけとなった加害者たちと繋がっているなんて、偶然かどうかは分かりませんが、無関係とも思えません」


「ほう、誰だ?」


「弁護士の錺せつな。牡丹さんをいじめていたグループのリーダー的存在で、今は父親の跡を継いで錺法律相談所の所長をしています」


 明良が調べ上げた調査によると、錺弁護士は業界では悪評が絶えない人物らしく、白を黒に、黒を白に変える切れ者の凄腕弁護士らしい。大物政治家や官僚など、有罪がほぼ確定とされていた裁判をあらゆる手段を用いて無罪にするとも言われており、28歳にして業界内では恐れられている天才弁護士だった。


「大金を積めば悪人でも無罪にする、悪魔の弁護士か。チッ、政界や警察関係者にもかなりの影響があるからな。ヤツを調べようとしても邪魔が入るだろうな。しかし、よく割り出せたものだな。いつ頃からヤツに目をつけた?」


「城戸壮一が霊域に送られることが決まった時です。彼らが過去に何度も事件を起こしていたにも関わらず全てが不起訴処分になっていたことが気になって調べてみたら、城戸の父親は会社の重役だったらしく、大金を積んで息子の不始末を頼んでいたらしいんです。しかし、今度の事件で父親は息子に愛想を尽かして絶縁を叩きつけた。それで送検が決まった。それから、これまで弁護を引き受けていた錺弁護士も手を引きました。それから彼女が気になって調べてみたら、亀の杜学院の顧問弁護士もやっていたことが分かったんです。そして、今は針生議員や金久保建設お抱えの弁護士をしていたんです」


「よくそこまで調べたものだな」


 明良は事件の報告書を書くにあたり、自分なりに錺弁護士のことを調べ上げてきたようだ。部下の仕事ぶりに、桜花は思わず目を見開く。


「なるほど、怪異が絡んでいる事件の関係者と、錺弁護士が全て関わっていたと。つまり貴様は錺弁護士が呪術にも精通していて、針生が錺のことを話そうとしたから、口封じで殺されたと言いたいのか?」


「まだ確証はありませんけど」


「針生が言っていたあの人と言うのが、錺のことだとしたら納得できるな。金久保たちを唆して牡丹を襲うように命じて、それを利用して顔無しカシマをけしかけて金久保たちを始末させた。そして針生は錺のことを伝えようとして殺された。しかし、口封じが目的ならば、顔無しカシマを使わなくても呪術で始末すればいいだろう」


「あ、確かにそうですね」


「貴様の推理もあながち的外れと言うわけでもないだろうがな。加害者たちと繋がりがある錺の存在は一連の事件と何らかの関係はありそうだが。しかし、それを確かめるには確実な証拠が必要だ。怪異を生み出す事件を起こさせて、ヨドミを集めて霊を怪異に変えることがもし人為的に行われているのだとしたら、目的は一体何なのか、錺はどう関わっているのか、そこもはっきりさせんとな」


 桜花が缶コーヒーを飲み干して、握りつぶしながらニヤリと笑みを浮かべる。肉食獣のような獰猛な光を宿した瞳で、桜花は言葉を続ける。


「必ず見つけ出してやるさ。この悪夢のような事件の裏に隠されている真実をな。私たちだけにしか、こんなことは出来ないだろう?私たちに喧嘩を売ったこと、存分に後悔させてやるよ」


「・・・はい!!」


 強い光を宿した瞳、上司が露わにした強い怒りと信念、そして自分たちを信頼していることを感じ、明良もコーヒーを飲み干すと、返事をした。

怪異紹介③

『顔無しカシマ』

顔や全身に包帯を巻き付けている、長い黒髪と血塗れの白いワンピースが特徴的な女性の姿をした怪異。顔はズタズタに切り刻まれてみるも無残なものをしていることと、自分の顔を探していることから『顔無しカシマ』と呼ばれるようになった。廃墟になった遊園地に住み着いており、自分が生前に暴行を受けて顔を刃物で切り刻まれたことがトラウマになったため、自分のテリトリー内で暴力を振るったものを自分を傷つけて顔を奪った犯人だと思い込んで呪いをかける。鏡やガラスなど映るものの中を自由自在に移動をすることが出来る。獲物を恐怖に陥れてから顔を切り刻み、身体から無数の刃物を生み出し、相手の身体を内部からズタズタに切り裂いて殺害する。生前の名前は『鐘島くるみ』と言う高校の教師をしていた美しい女性で、その美しさと頭の良さを生徒たちに妬まれて殺害された。親交があった女子生徒に深い思いを抱いていたが、彼女に裏切られたと誤解したまま死んだため、裏切りを激しく嫌う。また鏡など自分の顔を映すものや、自分を手にかけた生徒がしていたラベンダーの香水や匂いを嫌う。


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