第参の噂「顔無しカシマ」24
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
顔無しカシマ事件がひとまず解決した、3日後。
小野塚市警察署に激震が走った。
『辞令 本日付けで下記の人事の異動を命じる』
『生活安全課課長 巽真理警視 警視正に昇格並びに小野塚市警察署署長に任命する』
「はああああああ!?」
掲示板に貼られた辞令を目の当たりにして、巽課長は思わず絶叫し、その場に崩れ落ちた。晴天の霹靂とはまさにこのことである。巽課長は高校時代に古典の教師が授業で言っていた話を思い出した。
★★★★★★★★★★★★★★★
「巽課長、玄武会を実質的に壊滅させた功績を警察庁と国家公安委員会に認められて、昇進と署長就任だって。すごいよね」
霧江が興奮して、鼻息を荒くして自分のことのようにはしゃいでいた。明良も巽課長が出世したことを喜んでいるのか、素直に喜んでいた。しかし、桜花たちは複雑な面持ちをしていた。英美里に至っては大きく肩をすくめている。
「あーあ、これで巽課長、私たちというお荷物の面倒を見なくちゃいけなくなったわけか。ご愁傷様」
「でも、それは自動的に私たちゼロ係と言う何をやらかすか分からない問題児たちの直属の上司に任命されたわけでしょう。これからは国家公安委員会と私たちの板挟みなわけだし、考えてみると気の毒ですね」
「私たちと仲良くしていると、本当にロクなことにならないって言うジンクスが警視庁内で流れそうだよね」
「別に私たちのせいではなかろうが」
今日も今日とて暇を持て余しているゼロ係の話題は、掲示板の前で「ジーザス!!」と叫んで頭を抱えていた巽課長のことで持ちきりだった。まあ確かに署長就任と昇進だけならまだめでたいが、ゼロ係の直属の上司に強制的に任命されると言うことが問題だった。
警察官の中でもはみ出しもの、曲者揃いと言われたゼロ係のコイツらが問題を起こすたびに責任を四方八方から問われると言うストレスが爆発的に溜まりやすい、胃痛と頭痛とノイローゼに見舞われることは間違いないとまで言われる椅子になど誰も座りたくはないだろう。貧乏くじにも程がある。
「私たちと仲良くし過ぎたせいでしょうか?」
「知らん。私たちのせいじゃないしな。まあ、今後はアイツがストレスで倒れんように、少しだけは気をつけて大人しくしてやるか」
その言葉が3日ともたずに問題に巻き込まれたり、引き起こしたりするのが彼女たちたちなのだが。
「しかし、刑事部長を飛び越えて署長に昇進すると言うのもすごい話ですね」
「まあ、国家公安委員会からの特命を私たちに伝えなければならないのに、刑事部長が署長を差し置くのも色々と面倒なことになるからだろうさ。巽なら署内の信頼や人望も厚いし、適任だと思うがな」
桜花がゲーミングチェア(背もたれつきの椅子が欲しいと言ったらなぜか英美里が購入してきた。本人は気に入っている)をクルクルと回転しながら答えた。
すると、桜花のデスクに置いてあったスマホが鳴り出した。画面を見るなり「げっ」と苦虫を噛み潰したような表情になる。出たくねぇと言わんばかりに鳴り続けるスマホを睨みつけるが、覚悟を決めたように通話ボタンを忌々しそうに親指で押した。
「もしもし」
『お暇かしら』
「何の用だ」
『ちょっとお話したいことがあるんだけど、今日、お昼ご飯一緒に食べない?もちろん、僕がおごりますよ』
「・・・ちっ、分かった。それじゃ、12時半に駅前の回転寿司屋だな?」
『ありがとう。それじゃ、またあとでね』
通話を切ると忌々しそうに舌打ちした桜花を見て、全員の視線が桜花に集中する。特に新米の明良に至っては何があったのだろうかと不安げな視線を霧江に向ける始末だ。霧江が明良に近づいて耳打ちする。
「アッキー、多分大丈夫だと思うよ。桜花さんがあんな顔をしているときには話しかけない方がいい」
「えっ?」
「桜花さんを呼び出すことが出来る人なんて、限られているからね」
「あー、貴様ら、私はちょっとお昼に出てくるから、気にしないでくれ」
桜花は投げやりに言い放つと、ヘッドホンをつけてお気に入りのクラシック音楽を聞き出した。しかし、その表情はかなり苛立っているのか眉間に深い谷間を刻んでいた。
★★★★★★★★★★★★★★★
「君のおかげで、僕、国務大臣からお褒めの言葉をいただきましたよ。長年続いていた玄武会との腐れ縁を断ち切る大義名分のチャンスが手に入りましたから」
駅前の回転寿司屋は、大勢の人たちで賑わっていた。桜花と彼女を呼び出した国家公安委員の一人である初老の男性は、仕立てたばかりのシワひとつない高級スーツを綺麗に着こなし、含みのある笑みを浮かべながら桜花に頭を下げた。向かいに座る桜花は不機嫌を隠さず、能面のような無表情だが鋭い視線で睨みつけている。
「巽を私たちの直属の上司に任命したのは貴様の指示か?」
「まあ、他に任せられる人材がいなかったんですよ。小野塚市警察署は署長や刑事部長とか、幹部がまとめて総入れ替えになっちゃったでしょう?その原因となった君たちのことを、みんな腫れ物扱いしていましてね。まあ、君たちは部下にしたら、いつ手を噛まれるか分からない猛犬ですからね。そんな君たちを手懐けられるのは、巽真理警視しかいませんから」
「痛くもない腹なら探られても大丈夫だろうが。そんなに信用出来ないヤツしかおらんのか、今の警視庁は」
「お前たちがもう少し清濁を併せ呑む度量と言うものがあってもいいんじゃないかしら。組織でやっていく以上、正しいだけじゃやっていけないこともあると思いますよ」
「それがヤクザと裏で手を組んで持ちつ持たれつの関係を結ぼうとして、その結果が警察官がヤクザの口利きで定年後の再就職先を斡旋してもらう天下りや、その見返りとして情報や押収品の横流しまで発展し、奴らの犯罪を隠蔽するという悪習が横行するような腐った組織に成り下がったのではないか。正しくあろうとするならば、最初から手を組む相手を間違えてはいけないと思う訳だが」
「それを上手くコントロール出来ることによって、犯罪を未然に防ぐための対抗策を生み出すことも警察官としての仕事じゃないかしら。使えるものは何でも利用しないと。お前もそう言ったことをもう少し学んでおいた方がいいですよ」
「正義を貫くためなら手段を選ぶな、とでも?なるほど、たしかにそうかもな。だが、今回のように正義も信念も忘れ去られたやり方が悪習となって慢性化していくのならば、そんなやり方は組織を内部から腐らせるだけでしかない間違ったものだろう。信念を失い、手段を選ばなくなった正義などもはや正義ではない。それは、ただの暴走だ。信念を失った正義など、私は認めない」
「お前も頑固だねえ」
初老の男性がお茶をすすりながらため息をついた。しかしその表情は笑みを浮かべており、腹の中を窺わせない狡猾さを感じるものだった。
「話は変わりますが、実は君にお礼がどうしてもしたいんですよ。まあ、これは君へのお礼もありますが、君の部下の南雲明良君に対してもいい話になると思うのですが」
「どう言うことだ?」
「刑事課の青鮫海雪巡査部長、いるでしょう?」
桜花の表情が強張り、固まった。そんな彼女に、男性はマグロのお寿司を頬張りながら話を続ける。
「彼女、今、非常に危ない状態なんですよ。刑部刑事部長の命令を無視した上に、ゼロ係に情報を横流ししたばかりか、一緒に捜査までやっちゃったでしょう?刑事部長の最後っ屁で、彼女、査問会議にかけられるかもしれません。そうなったら懲戒免職は免れないみたいです。本庁でもゼロ係への風当たりはかなりきついですからね」
「そうか」
桜花は一瞬呆然とした。しかし、すぐさま苦虫を噛み潰したような険しい表情になり、考え込む。
「でも、彼女も能力に目覚めたわけでしょう?それを無駄にするのは、僕としても不本意な訳ですよ。君たちだって、君たちに協力したせいで彼女がクビになるのをこのまま黙っていられる訳がない。だから、僕が今回の一件、何とかしてあげようと思いまして。それが君への今回の報酬にしようと思うんだけど、どうかしら?」
にんまりと楽しそうに微笑む男性に、桜花は今にも舌打ちしそうなまでに不機嫌な表情になり、目の前にあった海老の寿司を口の中に放り込んだ。
「もうとっくに動いているんだろうが」
「表向きは国家公安委員会のゴリ押し、彼女はきっと君たちの今後の捜査に役に立ってくれると思いますよ。やっぱり使えるものは何でも使わないとね。これが人を使うと言うことですよ、桜花」
もう断ることは出来ない、半ば強制的に押し付けられたお礼に、桜花は憎々しげに男性を睨みつける。
「やっぱり私はお前が嫌いだ。クソ親父」
「娘のためなら例え娘に疎まれようとも、身の回りのことを最低限やってあげたくなるのが父親と言うものですよ。ああ、さっきから海老ばかり食べていないで、たまには違うものも食べたら?」
「やかましい。それで、どうするつもりだ?」
「何、君たちにとって悪い話にはしませんよ」
男性の名前は北崎将憲。
桜花の実の父親にして、国家公安委員会の委員の一人を担い、小野塚市警察署にゼロ係を設立した人物である。
「島流しにしましょう」
「はっ?」
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