第参の噂「顔無しカシマ」㉑
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
(まずは顔無しカシマの動きを封じないと!)
明良は今自分たちが持っているものを使って、顔無しカシマの動きをどう封じるか、頭の中で必死に作戦を展開していく。もし失敗したら、自分たちも銅たちのような末路を遂げることになる。
顔中を切り刻まれて、無数の刃物で切り付けられた銅たちの凄惨な遺体の光景が頭の中によぎった。
今持っているものは。
『たいまつ(油が染み込んでいる)』、『マッチ』、『掲示板の写真』、そして牡丹が切り札として持ってきた『プレゼント』だ。
(桜花さんが言っていた言葉のとおりだと、ここは金の気が満ちている場所だと言っていた。五行思想で金は『地面から掘り出されるもの』、『金は火に弱く溶けてしまう』、『金の表面には水滴が生じて水を作り出す』という性質があった。ここで使えるものは・・・!)
そこで作戦が決定した。
「牡丹さん、たいまつに火をつけてください!!そしてそれを牡丹さんが持っていてください」
「分かりました!」
牡丹がたいまつにマッチをこすって火をつけた。油が染み込んでいるたいまつに火がともるのと同時に、顔無しカシマが身体をよじらせながら狂ったように笑い出した。
それと同時に、床から,壁から、無数の刃物がにゅうっと飛び出してきた。地面を突き破り、足元を狙って飛び出してきた刃物がたいまつの炎が放つ熱気を浴びると、刃物はじゅうっと音を立てて溶けていく。壁から飛んできた刃物も熱気に当たった瞬間、まるでバターのように溶けていく。
「やった!」
明良が刃物に当たらないように床を駆け出して、顔無しカシマとの距離を詰めていく。顔無しカシマは熱気にあてられて、うめき声をあげた。異様にくびれて長くなった首をよじらせながら、顔無しカシマの顔の包帯がほどけた。顔無しカシマの顔が炎に照らされて浮かび上がる。
その顔には生々しい無数の傷痕が刻みつけられていた。両目を潰されて、頬や額などありとあらゆる所を切り刻まれて、歯を砕かれたのか隙間だらけになった歯と歯の間からぬるぬると血まみれの舌がまるで生き物のように蠢いている。
ここまで人の顔を傷つけた実行犯たちが、本当に何の変哲のない高校生たちだったという事実が明良には信じられなかった。まともな理性を持つ人間の所業とは思えない。
明良は思わず息を呑んだ。
鐘島くるみが、信頼してきた生徒たちに襲われた上に、無惨に傷つけられた自身の顔を見た瞬間、ショックのあまりに発狂したことは想像に難くない。ましてやそれを、大切に思っていた牡丹が裏切ったと思い込んでいるのだとしたら。
顔無しカシマが空気を震わせるような奇声を上げた。明良が一瞬怯んだ隙に、顔無しカシマの手から放たれたハサミが鈍い光を帯びて放たれる。明良がとっさにかわしたが、右頬に鋭い痛みが走る。
頬を手で抑えるとぬるりとした生暖かい、鉄の匂いがする液体がべったりとついていた。しかし次の瞬間、明良の目の前に顔無しカシマが突然目の前に現れた。
明良が身構える前に、枯れ木のように細く真っ白な腕が伸びて、明良の首を掴み上げた。明良の身体をものすごい力で持ち上げると壁のガラスに全身を叩きつけられる。全身に衝撃と激痛が伝わり、頭の中が真っ白になる。
爪が剥がされた腕で顔無しカシマが明良の首を締め上げる。必死で抵抗するが、吊り上げられた足は虚しく宙を切るばかりで、腕を放そうとするが万力のような怪力で締め上げる腕はビクともしない。
「ぐはっ・・・!!」
咳こむと喉から込み上げた赤い塊を吐き出す。意識が薄れていく中、明良の視界に何かが飛び込んでくるのが見えた。
「明良さん!!」
牡丹だった。
牡丹は手に持っていた松明の炎を、顔無しカシマの顔に叩きつけた。じゅううう、と嫌な音と悪臭を放ちながら顔無しカシマは絶叫を上げた。明良を放り投げると、顔を抑えてのたうち回っている。
「明良さん!!しっかりしてください!!」
「ごほっ、げほっ、ぼ、牡丹さん・・・」
必死で意識を取り戻して、牡丹の肩を借りて何とか立ち上がるが、松明の炎は完全に消えていた。顔無しカシマの生み出す刃物を防ぐ唯一の術を失い、明良の頭の中に撤退した方がいいのではないかと言う考えが浮かんだ。
(ここで逃げたとしても、顔無しカシマは間違いなく牡丹さんを狙う。しかし、松明を失った以上、顔無しカシマの刃物を防ぐ方法はもうない。それに、顔無しカシマが作り出したこの世界から逃げ出す方法もない。どうすればいいんだ?)
このままでは顔無しカシマに殺される。しかし唯一の反撃の手段である松明は地面に転がり、血溜まりに落ちたせいで火は完全に消えている。
無茶を承知でこのまま魂の奏者で、証拠品に宿る記憶を流しこみ、牡丹が無実だったことを証明して顔無しカシマの執着をなくすしかない。しかし、一瞬でも油断したら無数の刃物で身体を切り刻まれる。
絶体絶命だ。
顔無しカシマが怒りに満ちたうめき声をあげて、ゆらあっと動き出した。長く異様にくびれた首を左右に揺らし、木のみのようになった頭は見るも悍ましい形相になっている。彼女が腕を持ち上げた、その時だった。
「明良ーーーっ!!!」
明良と牡丹の後ろから、勇ましい掛け声と共に赤い光を放つ札が飛び出して顔無しカシマの顔面を捕らえた。一瞬真っ白な光を放ち、そして。
ドォォォォォォン!!!
凄まじい音を立てて爆発した。顔無しカシマが吹き飛び地面を転がっていく。突然の事態に呆然とする明良たちの前に飛び出してきたのは、桜花だった。
「桜花さん!!」
「ボス!!」
「怪我はないか・・・明良?」
桜花が明良を見て表情が凍りついた。明良の首には絞められた手の跡が残っており、右頬には刃物で切り付けられた傷がある。桜花の表情が無表情から一変し、悪鬼のような恐ろしい形相に変わっていく。
「・・・そうか、私の可愛い部下たちが随分と世話になったようだな。貴様に対しては少なからず同情の余地はあったが、それも今完全に消し飛んだ。貴様はもはや狂気に飲まれたただの化け物と言うわけか」
桜花がこれまでに見せたことのない怒りに満ちた表情で顔無しカシマを睨みつける。懐から数枚の霊符を取り出して指と指の間に挟んで身構えた。その姿は全身から激しく怒りの炎が燃え上がっているように見えた。青く高熱の炎、神秘的かつあらゆるものを焼き尽くさんとする破壊の象徴が今の桜花そのもののように見えた。
「・・・お、桜花さん」
「明良、牡丹、貴様たちに戦い方というものを教えていなかったな。改めて、怪異と渡り合う時にどう戦うのか、実践で教えてやろう」
桜花の足が一歩前に踏み込んだ。
「貴様の相手は私だ。かかってこい、顔無しカシマ!!」
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