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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第参の噂「顔無しカシマ」
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第参の噂「顔無しカシマ」⑰

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 ーギャアアアアアアアアア・・・!!-


 ミラーハウスの中から聞こえてきた悲鳴はまるで断末魔のようにも思えるすさまじいものだった。明良と青鮫が慌ててミラーハウスのドアを開けようとするが、ドアはビクともしなかった。


「ちっ、ダメだ!!鍵がかかっていやがる!!」


「まずはここの鍵を探さないと・・・!」


「いや、もうここはまともな世界ではない。鍵と言うものがそもそも存在しているかどうかさえ分からんな。そうなると、ここからではなくミラーハウスの中に他に入る方法を見つけるべきだろうな」


「そんなことを言っても、一体どこにそんなものがあるんですか!?」


 その時、牡丹が床に落ちているものを見て声を上げた。


「皆さん、これを見てください!!」


 牡丹が拾い上げたのは遊園地の地図だった。そこにはアトラクションにいくつか真っ赤なペンで丸が書かれていた。


「何だよ、この丸い点は?」


「えっと、丸が書かれているのは『園内広場のステージ』、『メリーゴーランド』、『ミラーハウス』、『ホラーハウス』、『休憩所』ですね。ここにある場所に共通する何かを示しているようですが・・・」


 それを見た霧江が何かに気づいた。


「・・・あー、もしかしてこれ、マスコットが出てくる場所のことじゃないかな?」


「マスコットだあ?」


「あたし学生の時に遊園地で着ぐるみを着込んで遊園地の案内をするアルバイトをやったことがあるんだけど、遊園地ってマスコットがまるで何体もいるかのように色々な所から突然現れたりするんだよね。このパンフレットにも、ホラーハウスやミラーハウスの中に入ると、マスコットキャラクターが出てきてお客さんを案内したり、おもてなしをしたりするイベントがあるみたいだからさ」


 案内所に置かれていた古びたパンフレットを開き、そこに書かれていた「オニッキー」と「オニベル」という鬼のような恰好をしたマスコットキャラクターが出てくるというイベントが紹介されていた。つまり彼らはこの場所で突然現れてお客を楽しませていたということになる。


「遊園地の中を移動しているマスコットなんてあまり見たことがないでしょう?キャラクターの世界観を壊さないように、こうして人目につかないところに地下で繋がっている通路を使ってアトラクションからアトラクションに誰にも見られずに移動することが出来るっていうわけ」


「その中に、もしかしたらミラーハウスの中に繋がる入り口もあるというわけですか!」


「おそらくね」


「ミラーハウスのドアも開かない以上、そっちを回ってみるしかあるまい。行くぞ!!」


 桜花たちは自分たちがいた園内広場の裏手に向かい、そこに地下に繋がる階段を発見した。そこから階段を下りていくと、無機質のコンクリートがむきだしになった通路が現れた。しかし、その壁には無数の血文字が浮かび上がり、真っ赤な通路の中で生き物のように蠢いていた。


 ー顔を返して。


 ー絶対に許せない。


 ーどうして裏切ったの。


 ー痛い、苦しい。


 ーお前たちも呪われろ。


 ー死ね。


「・・・これは」


「おそらく顔無しカシマの思念といったものだろうな」


 牡丹が愕然とした表情になった。彼女は自分のことも裏切った人間だと思い込んだまま死んでしまい、怪異へと変貌を遂げてしまった。彼女の心の中からあふれ出る憎しみや悲しみ、怒りがあらわになった血文字を見て、牡丹はやり切れない表情になる。


「・・・気をしっかりと持て。貴様が決着をつけなければ誰がつけるというのだ。これ以上、顔無しカシマがこの世に縛り続けられることは、貴様も望んでなどいないだろう?」


「・・・分かっています。ボス、行きましょう」


 桜花に喝を入れられて表情に生気を取り戻した牡丹がしっかりとした足取りで歩き出した。


 しばらく歩いていくと、ミラーハウスに続く道案内の看板が出てきた。

 それを見ながら真っ赤な照明で照らされた不気味な通路を歩いていくと、倉庫の扉が不思議な光を放っていた。明良が近づいて、手をかざす。扉からは不思議な力を感じた。


「・・・これは一体?」


「・・・霊力を感じるな。明良、貴様の魂の奏者で何か分からないか?」


「やってみます」


 明良は大きく息を吸って神経を集中させると、左手でゆっくりと扉に触れた。すると、彼の意識が真っ暗な闇の中へと引きずり込まれていく感覚がした。


 明良が目を開くと、そこはどこかの建物の屋上のような場所だった。

 フェンスから下を見下ろすと、とぎれとぎれにノイズがかかっている笑い声が聞こえてきた。黒い影がまるで人間のように無機質で歪な笑い声をあげているようだ。


 ーこんなはずじゃなかったのに。-


 ー私って、先生に向いていないのかな。-


 ーいくら頑張っても生徒たちには避けられているし、みんな、私の話なんて全然聞いてくれない。-


 ーあんなになりたかったのに、教師ってこんなにつらい仕事だったなんて、こんなの・・・あんまりだよ。あんなに一生懸命頑張って勉強して、やっと教師になれたのに。夢がかなったはずだったのに。-


 ー誰も助けてくれない。みんなで私のことを馬鹿にしている。先生も誰も助けてくれない。私はいつまでも一人ぼっちのままなのかな。そんなの嫌だよ・・・。-


 屋上に悲し気な女性の声がどこからか聞こえてきた。振り返ると、そこでは髪の長いスーツを着込んだ女性が隅に隠れるようにして一人で泣いていた。


 そこで、明良の意識が現実に戻ってきた。


「・・・ふう」


 顔中が汗びっしょりになっている。疲れ切った様子でため息をつくと、桜花が話しかけてきた。


「おい、大丈夫か!?」


「・・・はい、大丈夫です。それよりも桜花さん、僕、見えました。どこかの建物の屋上で女性が泣いていました。おそらくですが、あの女性は・・・鐘島くるみさんだったと思います」


「なるほど、ここは顔無しカシマの心が生み出した世界だからな。彼女の記憶や残留思念が残っているとすると、貴様が見たのは鐘島くるみの心の中の風景ということになるな」


「・・・おそらくそうだと思います。桜花さん、もしかしたらこの記憶や残留思念の中に、彼女をどうにかするための方法に繋がる手掛かりがあるかもしれません。何とかして調べてみたいのですが」


「・・・分かった。だが、絶対に無理はするなよ。今日、すでに貴様は一回「魂の奏者」を使ってしまっている。ここ最近の貴様の能力の成長を見てきたが、残り4回が限度と言ったところだろう。だが、顔無しカシマと対決をするときに貴様の能力を一回使用すると考えれば、残りはあと3回だ。それ以上は貴様の身体が危ない。貴様は魂の奏者を使う前に、顔無しカシマが何にここまで執着をしているのか、彼女の心残りになっているものは何なのか、それを選別しながら情報を集めてくれ」


 倉庫の扉を見ると、どこもかしこも赤黒く不気味な色の光が灯っている。まるでおいでおいでをしているかのような気味の悪さを感じる。明良は汗を腕でぬぐい、ジャケットを脱いでネクタイを緩めた。そして牡丹に話しかけた。


「牡丹さん、僕と一緒に来てくれませんか。彼女の記憶や残留思念を見ることが出来る貴方の超視力で、この扉の向こう側に見えるものを教えてください。その中に、必ず鐘島先生の執着を断つための手掛かりがあるはずです。僕に力を貸していただけませんか?」


「・・・分かりました。私も腹をくくりました。私は扉の向こう側の状況がどんなものになっているか、それを見る事しか出来ません。その状況を明良さんにお伝えするだけしか出来ませんが」


「十分です。お願いいたします」


 明良が歯を食いしばって全身から力が抜けていく倦怠感を必死でこらえながら、牡丹を連れて真っ赤な通路の中を歩きだす。


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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