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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第参の噂「顔無しカシマ」
49/57

第参の噂「顔無しカシマ」⑯

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 小野塚市警察署の地下駐車場に停まっていた黒のミラジーノ(青鮫のマイカー)に青鮫、明良、桜花、牡丹、そして霧江が乗り込むとライトが灯り、ゆっくりと移動した。車道に出ると、青鮫はスピードの出し過ぎに気を配りつつも、目的地でもある『鬼塚山上遊園地スタジオ』に向かって走り出した。


 後部座席に座っている桜花がスマホを取り出して操作をすると、画面にはどこかにあるビルの中から何人もの警察官に囲まれている横柄そうな態度を隠そうともしないスーツ姿の初老の男性が大きくアップで映し出された。彼の周りにはマスコミや記者が詰め寄って、カメラのフラッシュをパシャパシャと焚いている。


 そしてスマホの画面には『針生都議会議員逮捕』と大きくテロップが出ていた。よく見ると、それは都議会議員の針生邦治郎が公職選挙法違反で逮捕されたというニュースだった。暴力団の玄武会の幹部から多額のわいろを受け取り、その見返りとして玄武会が解散に追い込まれようとしていた時、警察の幹部に圧力をかけて頂上作戦を中止させたというものだった。


「巽課長、銅の事務所を調べていたらデカい魚を釣り上げたって言っていたけど、こういうことだったわけね」


「殺された3人の被害者たちと銅、そして金久保たちは繋がっていたんだとよ。玄武会で御法度とされていた違法薬物を撮影器具や部品と称して海外から仕入れてそれをスタジオに運び、スタジオの中で顧客に薬物を売買するという仕入れ業者と顧客の間を取り持つブローカーの役割をしていたのが銅で、その仲介料を銅たちは山分けしていたというわけだ」


「そして稼いだ金は政治の資金として針生の懐に入り、その見返りとして針生議員に警察の捜査の手が及ばないように圧力をかけてもらっていたというわけですか・・・」


「警察は秘書である針生茉奈が父親に頼まれて現金を受け取り、取引の場所に金久保警備保障会社が管理している工場や倉庫を使うように金久保たちと手を組んで裏方に回っていたことも調べ上げたそうだ。その矢先で、まさか針生が姿を消すなんてな」


 青鮫がハンドルを強く握りしめて、前を睨みつけながら歯ぎしりをする。その表情は鬼のように険しい表情になっており、緊迫しているのが空気を伝わって肌で感じるほどだった。


「・・・なあ、明良よぉ。針生のヤツ、もしかしたら顔無しカシマ・・・鐘島くるみの霊とやらにスタジオに呼び出されたなんて、アタシの考え、馬鹿げていると思うか?」


「いいえ、僕はその可能性が極めて高いと思います。今まで僕たちはネットに上がっていた顔無しカシマを呼び出す条件というものに縛られ過ぎていたんだと思います。顔無しカシマからすれば、目の前に自分を罠に嵌めて顔を傷つけさせるように仕向けていた連中がいるんですから、彼らに恨みを晴らそうとする思考はしごく納得が出来ます。どうしてそのことに今まで僕は気づけなかったのか、自分の間抜けさ加減が情けなくなります」


 今まで、スタジオにある地下の倉庫で顔を傷つけるという行為を行うことで、顔無しカシマにとっては自身のトラウマを呼び起こす行為をした人物を、自分の顔を傷つけた人物だと思い込んで復讐を果たしてきたため、条件さえ成立しなければ顔無しカシマにこれ以上誰かが狙われることはないと思い込んでいたのだ。


 その幽霊にとって、自分の命を絶つほどの深い絶望を負わせた加害者がもし目の前に現れたらどんな反応を示すのか、そんな初動的なことさえも考えていなかった。ネットで流れているうわさ話に固定概念を抱き、そのうわさ話をなぞって考えれば顔無しカシマにたどり着くと思っていた。逆に誰も近づきさえしなければ、条件さえ満たさなければ、顔無しカシマに呪われると言う事はないと勝手に思っていた。


 その思い込みが間違いで会ったことにも気づかずに。顔無しカシマからすれば目の前に自分を陥れた仇がいるのだ。恨みを晴らさんとしないわけがない。そもそも顔無しカシマを呼び出す行為は、彼らが間接的とはいえやったことなのだから。


「英美里が針生のスマホのGPSの発信地を調べた。鬼塚山上遊園地で止まったまま動いていないそうだ。あの倉庫の中で隠れている可能性もあるが、事態はかなり最悪な状況だ。急ぐぞ!」


 桜花の鬼気迫った掛け声に明良たちも緊迫した面持ちでうなづいた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 鬼塚山上遊園地スタジオの駐車場には一台のBMWが停車していた。今日は休日で誰も出勤などしていないはずなのに。スタジオの入り口の鉄の門は施錠されたままになっていたが、取っ手と門の近くの床に泥のついた足跡がついていた。おそらく門の取っ手に足をかけて登って乗り越えたのだろう。


「これ、もしかして針生の足跡か?」


「その可能性が高いね。そうなると、もう彼女はこの遊園地の中にいるってことかな?」


「私たちも向かうぞ」


 桜花たちは鏑木から預かってきたスタジオの裏手にあるスタッフ専用の鍵を使い、スタジオの中へと足を踏み込んだ。気が付いたらいつの間にかスタジオの上空には分厚い漆黒の雲で覆われていて、土の匂いが入り混じった生暖かい風が湿気を帯びて吹いてきた。


 遊園地の中に足を踏み込んだ瞬間、明良たちは違和感を感じた。

 頭の中に直接「ここは危険だ」と告げる信号が全身に伝達し、それが異様な寒さとなって鳥肌が一気に立ち、汗が噴き出してくる。何かがすぐ近くに潜んでいて、自分たちのことを舐めまわすように見ているような異様な気配、スタジオの中に灯っているわずかな照明の明りが暗がりをより一層色濃くしていて、その闇の向こう側がこの世ではないどこか異世界に繋がっているような気がした。


「・・・おい、何だよ、これ?相当ヤバい感じがするんだが」


 青鮫を見ると顔色が真っ青になり、かなり動揺しているのが分かった。額から噴き出す汗を腕でぬぐいつつも、目は泳いでいて何が起きているのか分からず困惑している。


「・・・もしかして、アンタも何か感じるの?」


「・・・今までこんな感覚、感じたことなんざねえ。これじゃ、桃塚駅の時と同じじゃねえか」


 しばらく歩いていると、いつの間にかうっすらと真っ白な霧が流れてきた。視界がぼんやりとして、よく見えなくなっていく。その霧を振り払うように5人は固まって歩き続ける。やがて歩き続けていくと、霧の中に人影らしきものが見えた。


「・・・あそこに誰かいる?」


 声をかけようと近づこうとした時、その人物がきょろきょろと辺りを見回しながら大声で怒鳴っている声が聞こえてきた。


「おい!!アンタがやったんだろう!?愛花も、恵奈も!!夢の中で毎晩毎晩私のことを呼び付けやがって、私のこともアイツらと同じように殺すつもりなんだろう!?あれは、アンタが生意気だったからちょっと懲らしめてやるつもりだったはずだったんだよ!!それが、あの連中が勝手に暴走してあそこまでやるなんて思わなかったんだよ!!だいたい、あのぐらいで勝手に自殺したのは、アンタの勝手だろうが!!どうして今になってこんなことをやるんだよ!!」


 その人物は針生茉奈だった。完全に混乱している様子で、ヒステリックに叫び続けている。


「え、あ、ぎゃああああああああああ!!!」


 突然針生が叫ぶと、奥にあるスタジオの扉を開いてその中に逃げ込んでいく音がした。明良たちが慌てて駆けつけると、スタジオの入り口の鍵が開いていた。ドアには鍵が刺さったままになっており、それを桜花が回収する。


「針生を保護するぞ!!」


 桜花が叫ぶと、一斉に事務所の中へと入り込んだ。

 しかし、飛び込んだ先は事務所ではなかった。さっきまでうだるように暑かったはずが、全身を突き刺すような寒気に見舞われて身体中から噴き出していた汗が一気に引っ込むようだった。


 空気がピーンと張り詰めているような真冬のような寒さだった。そして霧が流れている空間を見回すと、そこにはクリスマスを祝う派手なデコレーションがそこら中に施されて、大きなクリスマスツリーが飾られていた。園内のスピーカーから所々途切れたり、音程が外れたジングルベルが流れている。


「・・・遊園地、だと?」


「・・・嘘だろう、だってここは事務所の中のはず」


 青鮫が何が起きているのか分からず頭を抱えている。


「・・・もしかして、もうここは顔無しカシマが作りだした世界ということですか?」


 明良と霧江には覚えがあった。過去にも同じ体験をしたことがあった。棗塚駅で起きた、明良にとっては非日常の世界に足を踏み込むきっかけとなった事件。存在しないはずの0番ホームから繋がっていた存在しないはずの幻のホーム、大量の幽霊が乗り込む深夜の最終電車・・・。


 それと同じ状況だった。


 ここはすでに顔無しカシマが作り出した、彼女の狂気と執着が生み出した混沌の世界だった。


 そして振り返るとさっきまで繋がっていたはずのドアが霧に飲まれて見えなくなっていた。狂ったジングルベルが流れてこだまする悪夢のような世界が広がっている。さらに事務所があったはずの場所には今は存在しない『ミラーハウス』が建っていた。巨大な洋館風のアトラクションを見て、青鮫が唖然とする。


「嘘だろう!?。だって、あれはもうとっくの昔に潰れてなくなったはず・・・」


「・・・この中におそらく針生さんも、そして、顔無しカシマもいるはずです」


 近づいたとき、中から耳をつんざく悲鳴が響き渡った。





最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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