第参の噂「顔無しカシマ」⑭
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
青鮫が頭を抱えていると、後ろから話し声が聞こえてきた。
「ほら見て、やっぱり掲示板に書き込んでいたよアイツ」
「うわー、マジでこんな手の込んだことやるヤツいるんだ。なんでトークとか使わないんだろうね」
「スマホ持ってないんじゃね?それよりも早く消しちゃおうよ」
後ろを振り返ると、地元の中学生たちがビデオカメラで校内放送の映像の撮影をしていた。そしてすぐ近くにある掲示板の前で3人の制服を着込んだ高校生らしき少女たちが意地の悪そうな笑みを浮かべて、牡丹が書いたメッセージを消していた。
そして、そのうちの一人がメッセージを書き換えていた。
『K 今日の午後6時 鬼塚山上遊園地で待っています。 B』
「これでいいんだよね」
「うん、あとはあたしたちは何も知らないってことにすればいいんだよ」
「ねえ、書いたらアイツに見つかる前に学校に行こうよ」
「・・・ねえ、もしこれで本当にヤバいことになったら、あたしたち、どうなっちゃうんだろう」
「今更何を言っているのよ。あの先生があの連中の恨みを買ったのが悪いんでしょ。それに、錺さんの言う事を聞かなかったらあたしたちだってヤバいことになるんだから」
「・・・あの人は何をやるか分からねえからな」
「お、おい!!」
青鮫が話しかけようとした、その時だった。
突然視界が灰色に染まり、全ての時間が”停止”した。不思議な感覚だった。全ての音が一瞬で消える。そして、視界がグルグルと回転し始めて足が勝手に動き出し、ふらふらと夢遊病のように青鮫の意思とは関係なく先ほどまで倒れていた備品倉庫に向かっていく。
(・・・何だ、これ?クソ、このままじゃ、また気を失っちまう・・・)
青鮫は歯を食いしばり、とっさに手帳を開くとペンで乱暴に書きなぐる。今見たことを全て忘れないために、とにかく一言だけでも書き込む。そして備品倉庫に入ると身体中から力が抜けていき、視界が真っ黒になった。身体が倒れこんだという感覚を最後に、ぷつんと糸が切れたように倒れこんだ。
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「・・・ゆきさん、海雪さん!」
青鮫が目を開くと、目の前には自分のことを覗き込んで真っ青な顔になった南雲明良の姿があった。青鮫はまだ完全に覚醒していないまま、目をこすりながら起き上がろうとするが身体に力が入らない。
「海雪さん!!」
「・・・うるせえな、聞こえてんよ。お前、どうしてここに?」
「海雪さんの様子が気になって追いかけてきたら、倉庫の中で海雪さんが倒れているのを見つけたんです」
「・・・ああ、そうか。そういえば、そこにあった掲示板を調べていたら急に意識が遠くなって、それで、確か・・・」
そう言いかけて、青鮫は顔を手で覆いながら震える声で明良に尋ねた。
「・・・なあ、明良。今はいつだ?」
「え?」
「だから、今は何年何月何日だっつってんだよ!!いいから答えろ!!」
青鮫が怒鳴りつけると、明良が首をかしげながら答えた。
「・・・令和6年の7月18日ですが?」
「・・・マジかよ。それじゃ、さっきのは一体何だったんだ?」
青鮫がふと何かに気づいて、懐から警察手帳を取り出した。メモの欄を開くと、そこに書かれているものを見て、青鮫は自分の血の気が一気に引いていくのを感じた。メモの欄にはこう書かれていた。自分自身の汚い、辛うじて読める殴り書きのメッセージが。
ーけいじばん ちゅうがくせい こうないほうそう メッセージ かきかえー
「どうかしたんですか、海雪さん?」
夢のはずだ。
あんなことが本当に起こるはずがない。
しかし、夢の中で書いたメッセ―ジが現実にこうして書かれてある。
掲示板に触れた瞬間、自分の意識が何かに飲み込まれていくような気がした。
そして気が付いたら、自分は8年前のクリスマスイブの朝に飛ばされていた。
ありえない。
しかし、こうしてメッセージが書かれているということは。
「・・・明良、お前、今からアタシはとんでもねえ話をする。信じられねえかもしれねえけど、アタシ自身も信じることが出来ねえ話だが、これから話す話は絶対にふざけた話じゃねえ。信じてくれねえか?」
「・・・分かりました。信じますよ」
「言う前からそんなことを言うなよ。適当すぎるだろうが」
「適当じゃありませんよ。何年の付き合いだと思っているんですか。僕は貴方の真剣な言葉を今まで一度も疑ったことなどありませんよ。親友じゃないですか」
「・・・ケッ、言うようになったねえ、テメェもよ」
青鮫が壁に手を置いて何とか立ち上がると、ふらつきながらも一歩、また一歩と歩き出した。その隣で彼女が倒れないように明良が支えながらついていく。
「これからどこに行くんですか?」
「桃塚中学校だ。そこの放送部で、校内放送のビデオが残っていねえか確認がしたい」
「校内放送?」
「・・・8年前、鐘島くるみと国東巡査部長のすれ違いの真実の証拠がその校内放送の映像の中に映っているかもしれねえ。あと、今、備品倉庫にある8年前に取り外された掲示板に書かれたメッセージの筆跡を確認させている。その二つの証拠が揃えば、今度の事件がどうして起きたのか、手掛かりがつかめるはずだ」
「何ですって!?でも、どうしてそれが分かったんですか!?」
エレベーターに乗り込むと、青鮫は明良を見て真剣な顔つきで言った。
「過去の世界に飛んじまったから」
「・・・え?」
「・・・あのさ、アタシ、どうやら8年前のクリスマスイブにタイムスリープしちまったかもしれねえ」
「・・・ええ!?」
エレベーターの中に明良の困惑した声が響き渡った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ゼロ係の部屋の電話が鳴った。
桜花が電話を取ると、それは明良からだった。
「おう、何か分かったか?・・・うん・・・うん・・・はい?おい、それは一体どういうことだ?ちょっと待て!?何、つまり、物証も証拠も全て揃ったというのか!?おう!おう!なるほど、確かに信じがたい話だが、結果的に物証も証拠も揃って、説明がつくというわけか。ああ、今すぐに戻ってこい!!いいか、分かったな!?」
桜花が受話器を叩きつけると、みんなが桜花に視線を集中させる。
「あっきー、何かあったの?」
「・・・アイツら、8年前の事件に起きた牡丹と顔無しカシマのすれ違いが仕組まれていたという証拠を見つけたそうだ。そして顔無しカシマの怨念を浄化させるための切り札まで見つけ出したらしい」
「何ですって!?」
牡丹が思わず声を上げて立ち上がった。
「それと、その証拠があれば今度の事件における、隠されてきた真相を暴くこともできるかもしれん」
「隠されてきた真相?」
その時だった。
「桜花さん、ビンゴ!!桜花さんの言う通りだったよ、あの人も顔無しカシマの関係者だったわ」
英美里がパソコンの画面をみんなに見せると、画面に映し出されている人物の写真を見て目を見開き驚愕する。
「この人は!!」
「・・・まさかコイツが顔無しカシマとつながりがあったとはな」
「顔無しカシマこと鐘島くるみは、3歳の時に父親が殺害されて、母親が逮捕されています。それからは父親の実家で鐘島の苗字をつけて育てられたそうです。そして、その母親が・・・」
「巽が関係者の写真を見た時に、どこかで見たことがあると言っていた時には嫌な予感がしていたが、まさかこんな背景があるとはな」
パソコンのモニターには、自分たちが会ったことのある人物の姿が前科者リストとして表示されていた。
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