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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第参の噂「顔無しカシマ」
44/56

第参の噂「顔無しカシマ」⑪

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 明良たちが時計の館で聞き込みをしていた同じころ、ゼロ係の部屋では桜花、英美里も牡丹から8年前に起きた事件の話を聞いていた。椅子に座り込んで顔をうつむいたまま、時折激情を孕んでいるような口調が混じりつつも、彼女は淡々と話し続けた。


「・・・あの時ほど、本気で人を殺してやりたいと思ったことは今までにありませんでした」


 牡丹の瞳には、8年前に大切な恩師の命をゲーム感覚で奪っただけではなく、そのために利用したクラスメートたちを自殺に見せかけて殺害したことに対して全く罪の意識さえ持ち合わせていなかった金久保たちへの底知れない憎悪と殺意の光が剣呑と光っていた。危ういものだった。


「私にとって大切だった鐘島先生を集団で襲って傷つけて、死にたくなるほどまで追い詰めて苦しめたアイツらのことは絶対に許せないと思った。・・・でも、アイツらを頭の中で何度も何度も惨たらしく殺していることを考えていても、気が付いたら手が震えていて、ものすごく身体中から汗が噴き出して、身体が冷たく感じるんです。そこで自分は今何ということを考えていたのかと、怖くて怖くて頭がおかしくなりそうでした。私は目の前に先生を殺した連中がいるというのに、この手で先生の仇をとることさえ出来ない臆病者なんです。アイツらが8年前にやったことの決定的な証拠を見つけ出して、あの4人をこの手で逮捕することで先生に何もできなかったことに対する償いをしなくちゃいけない。そう自分に言い聞かせて・・・だれにも頼らずに自分だけで解決しなくちゃいけないって思って・・・」


「・・・なるほどな。それで、貴様は錫木恵奈に呼び出されたとき、彼女から8年前の話を聞き出そうとしたというわけか」


「しかし錫木はどうして銅を使って牡丹さんを襲ったんでしょうね?」


「・・・おそらく、その時の会話を牡丹が聞いていたことに気づいたか、もしくは錫木は牡丹が警察官になった理由が8年前に自分たちがやったことを調べているのではないかと疑心暗鬼になっていたから、牡丹をこれ以上真相に近づく前に口を封じてしまおうと考えたのではないだろうか?そう考えると、なぜ銅を使って牡丹を襲撃したのか、どうやって銅にそんなことを依頼することが出来たのかという疑問も説明がつく」


「どういうことですか?ボス?」


「いつもの冷静な貴様なら分かっていると思うがな。まず、銅のような輩に警察官を襲撃して監禁するという大それたことを頼むのに、スタジオのいち従業員に過ぎない錫木に支払うことが出来ると思うか?ましてや銅には500万円もの多額の報酬を支払うなど無理だろう?」


「500万円!?」


「ああ、獅子島たちから連絡が入ってな。銅の会社にここんところ最近大きな仕事など入っていないはずなのに、同じコンビニのATMから数回に分けて入金されていた。その合計が500万円だ。それで、そのコンビニのATMを特定して調べてみたら、防犯カメラに錫木が銅の会社の口座に入金をしていたことが分かったそうだ。そして銅の会社には、牡丹をあの遊園地のスタジオで襲撃してしばらくの間監禁をしてもらえないかというメールのやり取りがあった。そのやり取りをしていたのが金久保愛花のスマホのメールアドレスであることが分かったのだ」


 大手の警備保障会社の社長の娘である金久保愛花だったら、500万円もの大金を調達することなど錫木よりも容易くやってのけられる。そしてグループの中では気弱で大人しく、仲間たちからも小間使いを任されることが多かった錫木が銅に報酬を支払い、確実に牡丹を襲撃できるように手伝わせることも可能だと桜花は考えた。


「おそらくそいつらが話をしていたところを聞いていたことに、気づいたのではないだろうか?元々牡丹が警察官であることを知って、どこの部署で働いているのか、錫木が異常なまでに怯えていたのだろう?そこで8年前に自分たちがやったことを知られたと思った金久保たちが牡丹の口をふさごうとして、銅を利用して牡丹を襲わせたというのが私の推論だがね」


 桜花がため息をつくと、牡丹は目を見開き唖然としていた。英美里に視線を送ると、彼女も首を縦に振る。それで、英美里がもうすでにハッキングで銅のパソコンに潜り込んで情報を掴んでいたことを悟った。金久保が銅と連絡を取り合って、牡丹を襲撃、監禁するように命じるメールのやり取りもすでに掴んでいたのだ。


「・・・牡丹、貴様がそこまで思いつめていたというのに、私は貴様が話してくれることを待っていた。貴様が話せる心の整理がつかないうちに無理強いして聞いても、貴様はおそらく答えることは出来ない。貴様のことを信じて待ったほうがいいのではないかと思っていた。・・・だが、その間、貴様はずっと苦しみ続けていたのだろう。例え貴様が話すことが出来なかったのだとしても、私から貴様に歩み寄ればよかったと今反省をしている」


 桜花が牡丹に近づいて、頭に手を置いて優しく撫で上げる。その表情はどこか今にも泣きだしてしまいそうなほどに感情を必死で押さえつけているように見えた。


「すまなかったな。私にとって貴様は大切な仲間であり、部下なのに。貴様が苦しい時に、貴様の胸のうちに抱え込んでしまったものを一緒に背負ってやることなど私は全然迷惑などではないし、むしろ貴様は私に遠慮し過ぎなんだから、少しぐらいは甘えてほしい。だが私が受け入れてやるという意思を見せなければ貴様だって言えるわけがなかった」


「・・・あ、ぼ、ボス」


 牡丹の瞳に大粒の涙が膨らんで、頬を伝って流れて落ちていく。そして桜花の身体に抱き着くと顔を胸に押し付けて身体が小刻みに震えだした。


「・・・ボス、私、わ、わたし、その・・・」


「・・・お前の願いを今素直に思ったままの言葉を口にしてみろ」





「たすけて、ボス、くるしいよ」




「・・・そうか、分かった。貴様の願い、私たちが叶えてやる。明良には悪いが、アイツの決め台詞を言わせてもらうとすればな、貴様のことを必ず助けてみせる。心霊捜査班(ゼロ係)係長、北崎桜花の名に懸けて、必ずな」


 たすけて。


 たった四文字。

 今まで言いたくて、それでも言えなくて、心の奥にしまい込んでいた思い。

 彼女がずっと叫びたかった言葉を、桜花が受け止めた。


 牡丹は桜花に抱き着いたまま、大声をあげて泣き出した。まるで母親に泣きじゃくる子供のように激しく、感情のままに声を上げて声をあげて泣いた。真っ赤になった顔で、鼻水や涙でくちゃくちゃになりながら、抱え込んでいたものをすべて吐き出すように泣いた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「・・・全く、アイツ一体どういうつもりよ?こんな時間に呼び出すなんて」


 金久保愛花は深夜の人気のない鬼塚山上遊園地スタジオの広場でイライラした様子で、辺りをきょろきょろと見まわしながらベンチに座っていた。この陰気そうな雰囲気が漂う廃墟の遊園地はどうにも好きにはなれない。さび付いた手すりや塗装が剥げ落ちて不気味な佇まいを放つ打ち捨てられた遊具、時折点滅するライトの明かりが何とも頼りなく、暗がりに何かが潜んでいるような色濃い闇が広がっている。


「それにしても、銅のヤツがまさか殺されるなんて。しかも恵奈はいくら連絡をしてもスマホには出ないし、どうなっているのよ?」


 銅吾郎が死んだというニュースを聞いたとき、金久保は心臓が凍り付きそうになった。

 かつては玄武会のチンピラで、現在は金さえ払えばどんな汚い仕事でも引き受けてくれる何でも屋のような存在である彼らを父親の社長が裏で雇っていたことを知っていた彼女は、ホテルで話していた8年前の真相を偶然聞いてしまっていた牡丹を彼らに頼んで始末させようと大金を準備して銅に依頼をした。しかし、銅のようなチンピラが警察官を呼びつけるのはリスクが高いと思い、金久保は錫木に命令して、牡丹を呼び出させたのだ。


(あれから国東を襲撃して監禁したという報告は聞いていたけど、あの部屋に国東の姿はなかった。銅がその後すぐ誰かに殺されて、恵奈とは連絡が取れなくなった。まさかアイツら何か失敗して、ヤバいことになったんじゃ・・・?)


 もしそうだとしたら、錫木に指示を出した自分や他の仲間たちも危うい状況に置かれているのではないか?錫木がもし警察に見つかって自分たちのことを話してしまったとしたら?そうなったら、8年前のことまですべて調べ上げられてしまうのではないか?そうなったら確実に待ち受けているものは破滅だ。


「・・・恵奈、一体いつになったら連絡出るのよ!!」


 スマホで恵奈宛に「早く電話に出ろ!」や「今すぐに連絡しろ」と素早くメッセージを打ち込んでいく。打つたびに彼女の恐怖心が消えるどころかさらに膨らんでいき、彼女の額に無数の汗の玉が浮かんでいく。顔が青ざめて、目が血走り、身体が小刻みに震えだす。


 その時だった。


 彼女の背後に影が現れた。

 彼女が振り返ると、そこにいたものを見て、彼女は安堵の息を吐いた。


「あ、ちょっと待ち合わせをしていまして・・・」


 その人物になぜここにいるのかと問いかけられて、金久保は愛想笑いを浮かべながらとっさに誤魔化した。そして必死で平静を保とうと無理矢理作り笑いを浮かべて他愛のない話をしようとした時、金久保は疑問に思った。


(どうして、貴方はこんな時間に、ここにいるんだろう?)


 そう思ったが、言葉は出てこなかった。


 なぜならその時、彼女の首には太いビニールロープの先端に作られた輪っかが通されていたのだから。


 次の瞬間、ロープを巻き付ける機械音が鳴り出し、彼女の首に巻き付けられたロープがものすごい力で引っ張られて彼女の身体を引きずり出した。何が起きたのか分からず必死でロープを外そうとするが、上手く外れない。そして彼女の身体が空中に釣り上げられる瞬間、金久保は確かに見た。


 その人物が、今、まさに処刑されそうになっている自分を見て笑っていたのを。


(どうして・・・!?)


 それが金久保愛花が意識を手放す直前に抱いた疑問だった。


 その日の夜は満月だった。

 月明かりが差し込む遊園地の中で、彼女は人形のように静かに揺れていた。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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