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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第参の噂「顔無しカシマ」
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第参の噂「顔無しカシマ」⑩

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

いつも拙作を読んで頂きまして、本当にありがとうございます!

新作が書き上がりましたので、投稿しました。

どうぞよろしくお願いいたします!

 1ヶ月前。


 牡丹は高校3年生の時に同じクラスのクラスメートだった錫木恵奈に呼び出されて、今度高校の同窓会があるから参加してもらえないかと言う連絡を受けた。しかし、その誘いに対して牡丹の返事は「NO」だった。彼女にとって高校生活、特に3年生だった時のあの1年間は決して思い出したくもない辛いことばかりしかなかった。何よりも、自分が心から信頼していた恩師の鐘島があのような形で命を落とすことになったのだから。


 その場で別れて、牡丹はこの時、同窓会には参加するつもりなどなかった。

 ところが、1週間前に牡丹は小野塚市警察署の署長である星野ほしの玄志郎げんじろうに呼び出された。そして署長が困り果てた様子で手を合わせて牡丹に頼み込んできたのだ。


『昔、大学の時の先輩で今でもお世話になっている人から、今度、彼の娘さんが出席する予定の高校の同窓会にどうしても君を参加させてほしいと頼み込まれた。私もずっとお世話になってきた人なので、どうか、私の顔を立てるということで出席をしてもらえないだろうか』


 署長にまでかけあって自分を参加させようとしている人物のことを調べたら、それは金久保警備保障会社の代表取締役である金久保かなくぼ和彦かずひこであり、その娘は金久保社長の秘書を任されている実娘の金久保かなくぼ愛花あいかだった。彼女が父親を頼ってまで自分を同窓会に参加させようとしているのか分からなかったが、錫木とは高校の時にグループでつるんでいることを知っており、何かを企んでいるということは分かった。


 署長命令ということもあって、牡丹はしぶしぶ同窓会に参加することになった。会場である駅前のホテルの会場には3年生だった時のクラスメートのほとんどが集められていた。しかし、高校生の時には鐘島以外とは特に接点もなく、顔を合わせた覚えのない初対面の元同級生とどのような会話をすればいいかなど分かるはずがない。牡丹は適当にお酒を飲み、話を適当に合わせて、二次会には参加せずに一次会が終わったらそのまま退散するつもりだった。参加しただけでも署長の頼みは聞いたわけだから文句を言われる筋合いはない。


 そう思って、牡丹が会場から出て行こうとした時だった。

 同窓会の会場のすぐ近くにある小部屋の中から、何やら声が聞こえてきたのだ。


『・・・つまりアイツ、事務職ってことは捜査とかに参加しているわけじゃないってこと?』


『・・・国東はそう言う風に言ってた』


(・・・私の話をしているのかしら?)


 牡丹がこっそり部屋の扉の隙間から聞き耳を立てていると、部屋の中で話しているのは自分を無理矢理呼び出してきた金久保愛花と錫木恵奈、そして高身長で日焼けした筋肉質な身体つきをした女性の『針生はりお茉奈まな』とボブカットに眼鏡をかけて、蛇のような冷たい瞳を持つ端正な顔立ちの女性の『かざりせつな』が話し込んでいた。


 彼女たちのことを見た瞬間、牡丹は身体が凍り付きそうになった。

 なぜなら自分や鐘島へのいじめの主犯ともいえるグループのメンバーたちが全員揃っていたのだから。


『それならウチらのことを嗅ぎまわっているっていうわけじゃねーんだろ?気にする必要なくない?』


『そうだよ、アイカのパパまで頼ってわざわざアイツが今何をしているのか呼び出して調べたら、逆に怪しまれるんじゃね?』


 お酒を飲んで気が大きくなっているのか、ろれつの回らない口調でまくし立てる彼女たちの会話から、あの4人が自分を無理矢理この同窓会に呼び出したことが判明した。


 そしてそこで、怯えている様子の錫木が狼狽する。


『だ、だってさ、アイツがまさか警察官になっているなんて夢にも思っていなかったわけだし!!もしかしたら、8年前にあたしたちがやったことを調べるために警察官になったかもしれないし!!』


(・・・8年前?)


 その時、牡丹の脳裏に嫌な予感がよぎった。

 思考回路が凍り付き、足がその場で固まってしまったかのように動けなくなる。気配を悟られない様に彼女たちの会話を聞き逃さない様に耳を澄ませ、懐からスマホを取り出して録音機能を素早く作動させる。


『バカ、声がデケーよ!!あのことがバレたら、ウチらマジでおしまいだろうが!!』


『心配ないって!!あの事件は結局アイツらが自殺したってことでケリがついたし、アイカたちが疑われそうになった時にパパが警察に抗議してくれたから、アイカたちの所に警察が来なかったでしょ?』





『誰もあの時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




(・・・口封じ?消した?)


 頭の中に電流が流れたような気がした。心臓の鼓動の音が激しく高鳴り出し、身体の熱が急激に下がって肌寒くなり、全身の鳥肌が一気に立ったような気がした。8年前のあの時の惨劇が頭の中で鮮明によみがえっていく。


 その後も彼女たちの会話は続いた。


 元々自分のことを1年遅れて入学してきて、態度が気にいらなかったからいじめていたこと。

 そのことを注意されて、腹が立ったから鐘島をいじめて学校から追い出そうと愛花が言い出したことが全ての始まりだった。


 最初は彼女の悪口を叩いたり、ロッカーにゴミをぶち込んだり、靴を隠したりする程度だったが、彼女は一向に応える様子がなかったことに愛花たちが苛立ち、どんどん行動がエスカレートしていったこと。やがて、誰かが彼女を変質者か犯罪者に仕立て上げて学校から追い出すだけではなく、人生をメチャクチャにしてやろうと言い出した。そこで思いついたのが彼女を「口裂け女」に仕立て上げるという計画だった。


 白秋町で野良犬や野良猫を鎌で切り付けて殺していたのは、彼女たちだった。元々ストレスが溜まると小動物をいじめていた愛花たちは抵抗なく犯行に手を染めた。その中には飼い犬などペットも被害に遭っていたそうだ。下校中の小学生たちを変装した姿で襲っていたのも彼女たちだった。顔に包帯を巻きつけて、鎌をかざして追いかけまわすという行為を行い、その結果、白秋町どころか小野塚市内で顔に包帯を巻きつけて鎌を持って小動物を虐待している変質者『顔無しカシマ』と呼ばれる存在が作りだされたのだ。


 その時に使っていた血まみれの包帯や鎌を彼女のロッカーに入れて、発見されれば彼女が変質者であると疑われて学校に来られなくなるばかりか、警察に疑われて退職に追い込むことが出来ると思った彼女たちは半年以上にわたって嫌がらせでは済まない犯罪行為を行っていたのだ。


 しかし、それでも彼女は終始一貫して無実を訴えていた。そしてその時事件を担当していた警察官が、血の付いた鎌や包帯を自分の職場のロッカーの中に保管しておくだろうかという疑問から、彼女を犯罪者に仕立て上げようとしているのではないかという考えもあってか、彼女の身の回りの捜査も視野に入れて動き出した。彼女たちの思惑はあまりにも浅はかだったのだ。


 このままでは自分たちがやってきたことが全てバレてしまう。そうなったら推薦で決まっていた大学の入学や就職の合格などが全てパーになり、自分たちの人生が破滅しかねない。そう思った彼女たちは、彼女が真相に気づく前に、全てを終わらせるという強硬手段に出たのだ。


 愛花たちが選別したクラスメートの8人は、精神的に相当追い込まれている人間ばかりだった。志望校の合格ラインに成績が追い付かず毎日寝る間も惜しんで勉強に取り組むもの、元々気が弱くて自己主張が苦手としているもの、高校卒業後の自分の人生のビジョンが浮かばず不安にさいなまれているもの。そんな疲弊しきっていた彼らを選び、自分たちの教師が実は変質者で、犬や猫の次は自分たちのことを狙っているんじゃないかというデマを吹き込んだら、彼らは異常なまでに怯えだしたのだ。


『それで彼らが先生を襲った後に、アイカたちが顔を傷つけてやってさ。あの時、泣き叫んでいる先生のみじめな姿ったら思い出すだけで笑いが止まらないよね。顔をナイフで切り付けてやった時のあの時の感触、今でも思い出すたびに笑っちゃうって』


『連中も自分たちの命を狙っていた不審者をやっつけてやったって勝手に思い込んで盛り上がっていたしな。その後、カラオケボックスでバイトをしていた恵奈に、連中のために用意しておいた祝杯のジュースの中に青酸カリを仕込んで集団自殺に見せかけて始末して、口封じをすることにも成功したわけだし』


『警察も学校もアイカたちのことを全然疑わなかったし、今更何を調べられても証拠なんて出てきやしないってば。恵奈も落ち着きなよ』


『で、でもさ』


 さらに針生が興奮した様子でまくし立てる。


『まあ、今更8年も経ってるって言うのに終わったことでいちいちつつかれると面倒だしな。国東のヤツも今更何が出来るわけでもなさそうだし、それが分かっただけでもいいんじゃねえか。例え動いていたとしても問題ないさ。もしアイツが私たちのことを調べているのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「!!!」


 その言葉を聞いた瞬間、牡丹の意識は真っ白になり、全身を悪寒が駆け巡った。胸の奥から湧き上がるくすぶっていたものが熱を帯びて激しく燃え上がっていくのが分かった。手に持っていたスマホを震えるほどに握りしめていた。顔や身体中から汗が吹きだして、頬を伝って流れていく。そして彼女の瞳から大粒の涙が流れ出した。


 それからどうやって家に戻ってきたのかは覚えていない。


 ただ、部屋で再生した連中の会話が牡丹が長年抱いてきた疑問を全て解決してくれた。


 ーどうして鐘島先生が時計の館ではなく、あの遊園地に行ったのか?


(アイツらが私の名をかたってメッセージで呼び出した)


 ーどうして鐘島先生が死ななくちゃいけなかった?


(アイツらにとってはゲームのようなものだったんだ)


(最初は私を抹殺するつもりだった。でも、先生がかばってくれたから、先生が代わりに犠牲になった)


(その結果、先生は私にまで裏切られたと思い込んで、顔を傷つけられて、絶望してあんなことになった)


 8年前からずっと忘れたことのない、恩師が天井からぶら下がっていた姿が頭に蘇る。


(先生は、アイツらのゲームの犠牲にされたんだ・・・!!)


 牡丹の思考が真っ白になった瞬間、彼女の部屋に響き渡るほどの獣のような咆哮が響き渡った。髪を振り乱し、涙を流しながら人間の言葉とは思えないほどの奇声を上げ続けていた。そして彼女の思考がこれまでにないどす黒いもので塗りつぶされていった。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

ご感想、ご意見、心からお待ちしております。

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