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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第弐の噂「ロッカーのイズミさん」
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第弐の噂「ロッカーのイズミさん」最終話

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 事件が解決して、3日が経った。


「潮愛優美が獄中で死んだ・・・そうよ」


 暗い面持ちでゼロ係の部屋に訪れた巽課長が、深いため息を吐きながらそう告げた。コーヒーサーバーから自前のマグカップにコーヒーを注ぐと、来客用のソファーに深く座り込んでコーヒーを飲み始める。


「死んだそう、とは?」


「こっちも上からそんな連絡しかきてなくてね。どういうことなのか聞いてみたんだけど、詳しい事情はお応えできないとさ。これはあくまで噂でしかないが、潮はどうやら悪霊に呪い殺されたらしいよ。でもまあ、さすがにそれはデマでしょうけどね」


「渚冬美の事情聴取はどんな具合ですか?」


「それがさ、奴さん最初は容疑をとにかく否定していて、弁護士が来るまで何も話さないとまで余裕たっぷりな態度をとっていたのに、昨日になって突然人が変わったように全部の容疑を認めだしたんだよ」


 さらに渚は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような感じに変わり果てていたそうだ。そして何かに酷く怯えている様子で、ここを出たら間違いなく殺されるとか、死んだ瀬戸たちが檻の向こう側から自分のことをずっと見ていて、自分のそばにくっついて離れようとしないってわけのわからないことを言い出して錯乱しているらしい。


「まあ、今更になってようやく自分のやらかしたことの大きさが分かったのか、心神耗弱状態を利用して減刑に持ち込もうとしているのか、分からないけどね」


 コーヒーを飲み終えて巽課長が部屋から出て行くと、ゼロ係のメンバーたちは揃って大きくため息をついた。


「・・・3日か。潮はゆっくり時間をかけて苦しんだ末に命を落としたというわけか」


「霊域に隔離した時にはもう手遅れだったそうです」


「・・・自分が殺してきた瀬戸たちと同じように、身体が破裂するまで大量の汚水を身体の中に流し込まれたなんて、因果応報としか言いようがないよねえ」


 英美里がやり切れないと言ったように吐き捨てる。ゼロ係の部屋に重苦しい空気が流れていた。実は潮の死の真相は国家公安委員会から極秘裏でゼロ係には知らされていたのだ。他言無用と念押しされて聞かされたのは、潮愛優美の凄惨な末路だった。


「・・・渚冬美も潮のお粗末な呪殺を知っていてそれを利用していたからな。その結果が、彼女が今度の標的として選ばれたというわけさ。まあ、彼女は事情聴取が終えた後に霊域に隔離することが決まっているから、もう二度と娑婆の空気は吸えないだろうよ。霊域の外に出た瞬間、瀬戸たちの怨念による呪詛返しで命を落とすことになるかもしれないんだからな」


「でも、以前あのロッカーの中身を肝だめしで見たという高校生たちはどうして呪われなかったんでしょうか?あのロッカーの中に書かれてあった呪詛を見てしまったら呪われるというのに、彼らはなぜ無事だったんだろう」


 明良が思い出したように疑問を口にするが、桜花はやる気がなさそうに手を振った。


「どうせ本当はロッカーの中身なんて見ていないのに、適当なことを言ったんじゃないか?仲間内で肝試しをやったはいいものの、呪いのロッカーを開ける勇気がなくて違うロッカーを開けて、さも自分はやってのけましたとか言って強がりを言ったが、今更本当のことを言い出せずにズルズルとそのまま貫き通すしかなくなったとかな」


「そんなもんですかね」


「そんなもんだろう。あの呪詛を見て呪われていないというのが何よりの証拠だろうが」


 桜花は椅子にふんぞり返って座り込み、一息つくとどこか疲れた様子で話し出した。


「人を呪わば穴二つ。相手を呪っているつもりでも、実は自分の墓穴も掘っていることにも気づけていないヤツはいつかとんでもないしっぺ返しを受けることになる。だからこそ、呪いとは恐ろしいものなのだよ。そうそう簡単に手を出せる代物ではない、いや、触れてはいけないものなのだ」


 そう言うと、ヘッドホンをつけてお気に入りのクラシックを流すと、両手で指揮者のように指を振りながら鼻歌を歌い始める。


「・・・しかし、気になることがあります。一体誰が潮愛優美に怪異を利用して人を襲わせるなんて言う方法を吹き込んだのでしょうか?潮の性格上を考えると、彼女が瀬戸が襲われているところを目撃してしまった時に、自分が手にかけたはずの清瀬泉美の姿を見たらそんなことを思いつけるとは思わないのですが」


「・・・だよねえ」


 その時、明良のスマホからチャットの着信音が流れ出した。スマホの画面には「海雪さん」と表示されており、続くメッセージにはこう書かれていた。


『海雪さん:少しツラ貸せ』


「すみません、ちょっと出てきます」


 明良はそう言ってから、早足で部屋を飛び出した。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「本庁から戻ってこないかっていう話を蹴ったそうだな」


 屋上に着くと、ベンチに座ってコーヒーを飲んでいた青鮫からブラックコーヒーの缶を渡されるや否や、開口一番で尋ねられた。彼女の表情はどこか不機嫌そうだった。


「・・・ええ、まあ」


「ったく、本庁に戻れるチャンスだったっていうのにそれを棒に振りやがって。お前、これで完全に出世の道はなくなったぞ」


「・・・まあ、別に出世とか興味はないですから」


「お前が亀の杜学園の悪事を暴いたことで、亀の杜学園の悪事の隠ぺいに関わっていた警察幹部が何人も首を切られたり、地方に飛ばされたり、本庁は今ハチの巣をつついたような大騒ぎになっているそうだ。どうせお前を抱き込んでこれ以上余計なことを言わない様にするために、懐柔策を出してきたんだろうけどな」


「・・・おそらく」


「まあ、お前が本庁に戻れるなんて小躍りして浮かれているようだったら、尻でも蹴り飛ばしてやろうと思ったけど、その心配はなさそうだな。だがな、それはそれであたしはもう一つムカついていることがある」


 ブラックコーヒーを飲み干して、青鮫が明良を鋭い眼光で睨みつける。



「お前、どうしてゼロ係がどういう部署なのか、分かってンのか。警視庁でゼロ係が何て言われているのか、知っているのか」


「・・・オカルト部署、心霊現象や超常現象を専門的に取り扱う、窓際の中でもかなり特殊な部署、ですよね」


「一言で言えば邪魔者だ。いいか、今回はたまたま利害が一致したから、お前らを利用して事件を解決しただけだ。決して刑事部はお前らゼロ係と手を取り合って仲良くやろうなんて言うつもりはさらさらねえ。それだけは覚えておけ」


「・・・何だか、すごく嫌われているんですね」


「お前らゼロ係は捜査権もないのに、現場に平気で首を突っ込んでくるし、組織の命令や忖度なんて無視して、やれオカルトだ、やれ幽霊だ、やれ超能力だと言い出しては現場の捜査をひっかきまわしていく。地道に捜査をしているこっちからすりゃ目障りでしかねえんだ。本来警察官は縦割り組織で、上からの命令には絶対に従わなくちゃならねえ。どんな理不尽なものであろうとな。でも、ゼロ係はそんなことお構いなしだ。そういうところが腹が立つんだよ」


 青鮫は明良の胸倉を掴みながら鬼のような形相を浮かべて睨みつけている。その瞳には、これまでに刑事として理不尽な命令を下されて、納得できないことをいくつも経験してきた悔しさや腹ただしさ、強い怒り、羨望や嫉妬が入り混じった炎が燃え上がっていた。


「いいか?お前らが勝手に事件に首を突っ込んできて上からにらまれたりお咎めを受けることになろうと、それはてめえらの責任だ。だがな、特にお前は一度こうと決めるととことん無茶をしたり、暴走するところがある。それに振り回されるなんざ御免だ。だから、無茶をする前に一言ぐらい声をかけろ。勝手にやらかしましたなんて事後で言われてもこっちが腹立つんだよ。分かったか!?ゼロ係の南雲明良!!」


 そう一方的に怒鳴りつけると、青鮫は「フン!」と鼻を鳴らして不機嫌そうに屋上を出て行った。それを見送って、明良は目をきょとんと丸くして立ち尽くしていた。ショックを受けている・・・のではなく、彼女の言葉を頭の中で解釈して何が言いたいのか、整理をしていた。


「・・・つまり、利害が一致した時には手を貸してくれるということ?あと一人で勝手に突っ走る前に、相談をしてもいいってこと・・・かな?」


 彼女の言葉をぶっきらぼうで不器用なメッセージと言う風にとらえたのか、今も昔も変わっていない彼女らしさを感じ、明良は気づかれない様に、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(どうしてあんな風に言っちまったんだ・・・アタシの馬鹿!!)


 刑事部の机で不機嫌そうに頬杖を突きながら、青鮫は先ほどの自分自身の言動について後悔していた。そんな彼女の後姿を遠くで観ながら、獅子島と鷲尾がコーヒーを飲みながら顔を突き合わせてひそひそと小声で話していた。


「警部補殿が本庁から戻ってこないかっていう誘いを蹴ったせいで、本庁に目をつけられて仕事が今後やりづらくなるかもしれないから、何かあったら相談に乗るつもりで話をつけにいっただけなのに、どうしてあんなに不機嫌なのかしらねえ」


「自分はよく分からないっス。青鮫先輩、いつもカッカしていますし」


「まあ、あの子の乙女心も複雑なのかもしれないわね」


(・・・高校の時もそうだった。アイツからまさか告白されるなんて思っていなかったから。でも、当時ヤンキーで暴走族に入っていたアタシと、成績優秀で真面目な風紀委員のアイツが付き合うなんて、周りからアイツが白い目で見られるかもしれないなんて不安になって、思わず断っちまったけど・・・だいたいアイツはどうしてアタシが振ったっていうのに、恨み言一つも言わねえんだよ。アタシはアイツを思い切り突き放しちまったっていうのに・・・)


 イライラしてきて、頭をガシガシとかいてから青鮫は深くため息をついた。


 高校の卒業式の日、明良から校舎裏に呼び出されてまさかの告白をされるなんて夢にも思っていなかった。しかし、自分と付き合うことで明良が周りからどう思われるのか、それが不安になり、とっさに怒鳴りつけて彼を突き放して、そのまま別れてしまった。


 その後、更生して、猛勉強して大学に無事合格を果たし、刑事としての道を目指し見事夢をかなえた。その先で、まさか明良と再び同じ職場で働くことになるなど、夢にも思っていなかった。


「・・・はあ、女々しいったらありゃしねえ」


 自分自身に対する自己嫌悪で、青鮫は二回目の深いため息をついた。そして今後彼とどうやってやっていけばいいのか考えれば考えるほどに頭を悩ませ、三度目のため息を深くついたのであった。



この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


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