第弐の噂「ロッカーのイズミさん」⑮
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
そして、時間は現代に戻る。
「潮さん、6年前に貴方たちが池田圭祐さんに何をしたのか、清瀬泉美さんは分かっていましたよ。彼女の遺品を引き取った遺族を突き止めて、彼女の遺品の中から見つけたんです。貴方たちの会話が録音された音声データがね」
「なっ・・・!?」
明良たちがその証拠を見つけられたのは、清瀬泉美が最後に託した決定的な証拠品だった。そしてそれはすぐに見つかった。瀬戸たちの6年前の悪事を再捜査していた刑事部と地域安全部が清瀬の遺品を引き取った親せきを調べ上げていたからだ。捜査に当たっていた巽課長を駆り出して(本人は玄武会の取り調べもやっていたため『殺す気か!?』と思わず叫んでいた)調べさせた結果、彼女のお気に入りだったオルゴールの中にミニSDカードがあった。
そこには6年前、清瀬が命を落とす前日に録音された音声データが録音されていた。
「録音データには、瀬戸と沢田に違法薬物を渡して池田さんに飲み物に混ぜて服用させて、彼を水泳の世界から追放しようと目論んだのは当時水泳部顧問だった渚校長だったそうですね。動機は渚校長が池田さんに思いを抱き告白をしたけど、彼は清瀬さんと付き合っていたからそれを断った。しかし彼女は振られた腹いせに、その当時から付き合いのあった玄武会の河内から薬物をくすねてそれを瀬戸たちに池田さんを陥れるために協力をしろと言って実行させた。そしてそれを行ったのは潮さん、貴方ですね」
「瀬戸と沢田は裏ではいじめのみならず恐喝や傷害の常習犯で、その事実を知っていた渚は瀬戸たちを脅した。そして、瀬戸たちの腰ぎんちゃく同然だった貴様に違法薬物を池田に飲ませるように瀬戸たちが命じた。しかし、貴様は一度に大量の薬物を飲み物に混ぜてしまった。その結果、池田圭祐は命を落としたというわけだ」
「渚校長は警察の上層部に掛け合って事件の隠ぺいを図ったばかりか、池田圭祐さんが違法薬物をやっていたなどという嘘の情報を流して、池田さんが亡くなったのは違法薬物によるドーピングで副作用を起こしたものだとされた。理事長の湖城もそれに一枚噛んでいたのでしょうね」
「そして渚校長は河内と手を組んで、亀の杜学園の生徒たちの個人情報を不正に手に入れて恐喝のネタに利用したり、玄武会がケツ持ちをしているホワイトクロウに沢田が入ったことを知って、ホワイトクロウが裏で行った悪事で稼いだお金の一部を自らの懐に入れたり、瀬戸の実家の輸入雑貨を仕入れている会社を利用して薬や密輸品を売りさばいて、河内組、いや、玄武会とホワイトクロウの資金源となった見返りに渚は今の地位を手に入れた」
「しかし、渚校長に過去のことで脅され続けて、今の立場に不満を抱いた瀬戸たちが渚校長を陥れようと企んだ。組員たち以外に知っているはずのない河内組の飲み会の情報を敵対する組に流すことで、河内組が襲撃されれば疑いの目は渚校長に向けられる。沢田たちは敵対する組を煽って、河内組を襲撃するように仕向けた。渚校長が玄武会とホワイトクロウに狙われている隙に彼女が貯め込んだお金を奪って行方をくらますつもりだった。ところが、玄武会だってバカじゃない。沢田たちの不審な動きに気づいて、すぐさま沢田たちの仕業であることに気づいてしまったんですね」
ゼロ係のメンバーたちの追及のラッシュに、潮の顔色が青色を通り越して真っ白になっていく。そして、手に持っていたが力なく抜け落ちた。それを見逃さず、青鮫が「確保!!」と叫ぶと、一斉に刑事たちが潮の身柄を確保した。潮の手首に冷たい鉄の輪が食い込んで施錠されると、潮がわなわなと震えだして奇声のような絶叫を挙げて連行されていく。
そして、倒れていた渚校長が目を覚ますと、青鮫が近づいて彼女の首に食い込んでいたロープを外して、彼女の顔を覗き込んで話しかける。
「渚校長。あなたにも、玄武会の河内と手を組んで学園内で違法薬物を生徒に売りさばかせていたこと、6年前にあなたが池田圭佑に違法薬物を摂取させるように瀬戸たちに命じていたこと、学園の関係者の個人情報のリストを河内組に横流ししていたことについてお話を聞かせていただきますよ」
渚校長は青鮫をにらみつけると、すぐさま口元に余裕のある笑みを浮かべた。
「あなた、私が誰だと思っているのかしら。私を逮捕しようとしても無駄よ。逆にあなたが警察にいられなくなるわよ。覚悟しておきなさい」
罪の意識など感じられない高慢な物言いに青鮫の表情が険しくなった。しかし、青鮫を制して止めたのは・・・明良だった。明良は渚校長の顔を鋭い目つきで睨みつけながら、感情を押さえつけるような冷たい口調で話しかける。
「覚悟をするのはあなたのほうですよ。あなたは教育者でありながら、生徒たちの未来を犯罪者にしてしまったばかりか、その命まで奪っていった。あなたの身勝手な欲望のためにどれだけ多くの生徒たちの未来が奪われていったか、取り返しのつかないことになってしまったか、その罪はあなたが考えているものよりもはるかに重く、許しがたいものです。あなたがもし人としての心がまだかけらでも残っているのならば、あなたがこれからの人生のすべてをかけて自らが犯した罪を償うべきでしょう。我々はあなたが言い逃れができないように証拠を見つけて、すべて並びたてて、あなたの罪を暴き出して見せます」
明良の表情に、憤怒が浮かび上がった。
「首を洗って待っていろ!!!」
部屋の空気がびりびりと震えるほどの怒号、明良が体を震わせながら言い放った一言を受けて、渚も言葉を失っていた。そして、青鮫と鷲尾に連行されて、渚が出て行った。
「・・・貴様にしてはなかなかの啖呵を切ったではないか」
明良の迫力に言葉を失って呆然としていた桜花が思わず感心したように話しかける。
「・・・お恥ずかしい限りです」
恥ずかしそうにそっぽを向いた明良の前に霧江が回り込んで、明良を真剣なまなざしで見つめていた。
「あっきー・・・ありがとう」
「・・・別に礼を言われるようなことはしていませんよ」
そういって、明良は霧江にやさしく微笑みかけた。
「だって、僕たち相棒じゃないですか」
「・・・!!」
霧江の瞳が大きく見開かれると、彼女がうれしそうに微笑んだ。ほほを赤らめて、瞳からは尊敬のような熱いまなざしが宿っていた。
「・・・あっきー、これからもよろしくね!!」
そういって、明良の背中をバンっと強くたたくと、明良が思わず前に転びそうになった。「え、なに、なんで!?」と慌てふためく明良を霧江は目の端に涙を浮かべて楽しそうに笑っていた。明良が「霧江さん!?」と声を上げて彼女を追いかけていく。
「・・・あいつ、霧江さんって呼んでいなかったか?」
「どうやら、彼らはいいバディになりそうですね」
「あー、メッチャ疲れた。桜花さん、今日の夕飯ご馳走してよね。焼肉屋で焼き肉食べ放題でいいからさ」
「バカタレ、給料日前だというのに、私の財布をスッカラカンにするつもりか!?貴様の行きつけは高いところばかりなんだぞ!?却下だ!!」
「私も連日徹夜で頑張ったんですから、たまにはボスのおごりでおいしいお酒が飲みたいですね」
「牡丹、お前もかあ!?私が明日から給料日まで一日三食もやしで過ごせと言うのか!?」
牡丹と英美里の笑い声と桜花の絶叫が響き渡り、空一面には事件の解決を祝福するかのように無数の星々が瞬いていた。
この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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