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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第壱の噂「人喰い駅」
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第壱の噂「人喰い駅」③

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 3番ホームの端に置かれていた木製の祠は、見るも無残な姿と化していた。

 屋根の板が吹き飛び、扉や壁の板が割れて辺りに散らばっており、まるで内側から爆発でもしたような感じだ。一体何をしたら祠をこんな風に破壊できるのか、不思議に思えるぐらいだ。


「・・・ひどい、一体誰がこんなことを」


 明良は憤りを隠しきれない様子でつぶやいた。しかし、それを見て桜花は「あっちゃあ・・・」とつぶやき、どこか呆れているような表情になり、頭を抱えていた。


「馬鹿じゃないのか、ここまで汚れを吸い続けてボロボロになる前に、どうして祠を取り換えなかったんだよ。これ、少なくとも10年以上はほったらかしにされてんだろ」


「祠がここにあるということさえも知らない駅員さんもいたぐらいだしねえ」


「なるほど、引継ぎが十分に出来ていなかったのですね。それで、この駅で超常現象や心霊現象が目撃されるようになってきたというわけですか」


「そりゃそうだ。この場所によくもまあこんなところに駅なんておっ立てたもんだ。供養をきちんとしなければ、祟りの一つや二つが起きてもおかしくないぞ、全く」


「あ、あの、すみません、どういうことですか?」


 置いてけぼりにされていることに気づき、明良が桜花たちに話しかけると、牡丹が応えた。


「南雲警部補、あの祠は、人為的なもので壊されたというわけではないということです。あれはこの駅を中心とするこの地一帯の邪気や汚れを浄化するために置かれた、いわゆる鎮魂の祠というものなのです」


「鎮魂・・・?」


「ああ、貴様も例えば戦争で亡くなった犠牲者を弔うために建てられた祠や慰霊碑といったものは聞いたことがあるだろう?この祠は、この駅を中心とする土地一帯における霊を弔うために建てられたものなのだが、長い間手入れがろくにされていなかったせいで、かなり霊力が弱くなってきている。その結果、溜めに溜め込んできた淀みに侵食されて、この通り、由緒ある霊木で作られたはずの祠がここまで朽ち果ててきてしまったというわけさ」


 この人は一体何を言っているのだろうか。


 明良は真剣な顔で説明する桜花の言葉の意味が全く理解できず、頭の中が真っ白になってきた。それでも、混乱する頭を必死で整理して、桜花がこの祠が壊されている原因について考えることにした。桜花の話をまとめると、この祠がボロボロになっている原因は、この土地の霊たちを弔い続けてきて、ろくに手入れが行われなかったことで、祠の霊力が失われていき、ボロボロになっていったということになる。


(一体全体、何を言っているんだ!?)


 もしかしたら自分はからかわれているのだろうかと、明良は思った。というよりも、わざわざ駅まで呼び出してそんな冗談を言っているのだとしたら、相当悪趣味というか、やりすぎのようにも思えてくる。しかし、目の前で真剣な表情で祠について話し合っている彼女たちが、自分を騙しているとはどうしても思えなかった。


 その時、霧江のスマホの着信音が鳴り出した。


「おっ、えみぽん、何か分かったってさ」


 霧江がスマホの画面を桜花たちに見せながら、説明を始める。


「この棗塚駅が建てられた場所って、70年前にトンネルの崩落事故があったんだって。作業員30人以上が生き埋めになったって。あの祠は崩落事故で犠牲になった作業員たちを弔うために作られたものだってさ。それと、この棗塚っていう場所なんだけど、昔は罪人の首斬り場になっていたみたい。だから当時は罪人の亡骸を埋めていた墓地であるこの場所を掘り返して駅にしちゃったもんだから、その祟りじゃないかって騒がれていたみたいだよ」


 霧江の説明に、明良は言葉を失った。今、自分がいる場所はかつては処刑場で、墓地で、そして崩落事故で何人もの犠牲者が出た場所でもある。そう考えると、背筋に寒気が走り、気分が悪くなってきた。


「えっと、続きがあるね。えみぽんによると、80年以上前の小野塚市の風土記によれば、ここには罪人の魂を鎮めるための祠があったみたい。でも、戦争の時に焼かれてしまった後に、この土地一帯を買い取った地主が駅を作るためにこの土地を国に売却して、駅とトンネル工事が行われるようになったその矢先に起きた事故だったそうよ」


「なるほどな、祠が焼かれた上に墓まで掘り返されて、罪人たちの霊の祟りを買ったとか噂が立ったから、崩落事故の犠牲者を弔うという理由もあるが、祟りを恐れて祠を立てたというわけか。しかし、ここまでボロボロになる前に取り換えるなり、手入れをしておけば、ここまでヤバい状況にはならなかっただろうよ」


 そう言った後に、桜花が「よし」とうなづいてから全員に顔を向けた。


「牡丹、お前は今度の一件を報告書にまとめて上に報告しろ。それと、祠を立て直すための許可ももらっておいてくれ。必要なときには私も立ち会う。霧江はいつもの神社の宮大工に、祠の修繕の予約を取り付けておいてくれ。英美里には引き続きこの駅で起きている事件や超常現象の目撃証言などを報告書にまとめてもらうように伝えておく」


「かしこまりました、ボス」


「了解、桜花さん!!」


「あ、あの、僕は・・・」


「貴様はまず顔を洗って外の空気を吸ってこい。これから貴様にも色々とやってもらうことがある。そんな今にもぶっ倒れそうな青い顔をされたままでは仕事にならん」


 ぶっきらぼうに言われたが、もう反論する気力もなかった。きっとこれは自分がとてもひどい顔をしているから、彼女なりの気遣いなのだろう。そう思って、明良はホームを出ようと階段を上がろうとした。


「うわああああああっ!!」


 ホームの向こう側から悲鳴が聞こえてきた。真っ先に飛び出したのは、明良だった。ホームの床を全力で走り抜けて、悲鳴が聞こえた祠とは正反対の方向に向かうと、明良は思わず言葉を失った。


「い、嫌だっ!!だ、誰か、助けてくれーーーっ!!」


 30代前半かと思われる若い男性が、ホームから伸びている青い手にグイグイと線路の方に引きずり込まれそうになっていた。男を引っ張っていたのは、両目に何本もの五寸釘が突き刺さり、おびただしい量の真っ黒な血をまるで涙のように流している男性だった。その肌はもう血が通っているとは思えないほどに真っ青になっており、苦しく、悲しそうなうめき声を漏らしながら男の手を引っ張り、線路に引きずりこもうとしていた。


「あれだ!!」


 明良はとっさに近くに合った非常停止ボタンを見つけると、飛びついてボタンを勢いよく押した。しかし、いくらボタンを押してもベルは鳴らなかった。押してもボタンはカチカチと力なく引っ込むだけで作動している様子はない。


「あっきー!!」


 そこへ、霧江が駆けつけてきた。どうやら非常停止ボタンは使えそうにないようだ。明良は霧江と一緒に男性のもとに駆け寄って、線路の中に引きずり込もうとしている男性の腕を掴むと、明良も同じように青ざめている手を引きはがそうとする。


 その時だった。




 ー・・・邪魔を・・・するな・・・!!ー




「え?」


「何!?」


 トンネルの奥から恨みと怒りに満ちた声と恐ろしい殺意に満ちた視線を感じた瞬間、明良の身体と霧江の身体がまるで何かに突き飛ばされたかのように身体が浮き上がった。遠くの方からぷわーんと耳をつんざく音が聞こえて、まぶしいライトの光で視界が真っ白になる。風を切る音と振動が身体中に伝わってきた。


 目の前にはヘッドライトと巨大な鉄の塊が、新東京線の車体が迫ってきている。

 けたたましいブレーキ音が鳴り響き、時間が停止する。


 もうダメだ、と明良が固く瞳を閉じた。


「危ない!!」


 明良と霧江の腕を掴み、牡丹が力いっぱい引っ張って二人の身体がホームに引き戻された。二人はホームに倒れこみ、電車は何事もなかったように少しずつ速度を緩めていき、やがて停車した。心臓が激しく鼓動し、座り込んだまま明良は呆然としていた。


「大丈夫ですか、二人とも!?」


「・・・ぼ、牡丹さん~!!遅いってば!!」


「すみません、これでも全速力で走ってきたのですが・・・」


「・・・あ、ありがとうございます」


 明良は声を振り絞って、お礼の言葉を口にした。


「・・・ば、馬場さん、どうして・・・?」


 すぐ近くで腰を抜かして座り込んでいた男性が、口を震わせながらそう呟いていた。電車から乗客が下りて、ホームにいたわずかな人間が入れ替わり乗り込んでいく。そして、ドアが音を立てて閉まり、再び新東京線はゆっくりと走り出した。線路を恐る恐る覗き込むと、そこには何もなかった。さっきまで、青白い肌をした、両目に何本もの五寸釘を突き刺したあの男の姿はどこにもなかった。


「う、うわああああああ~っ!!」


 若い男は悲鳴を上げて、もつれる足で全速力で駆け出し、階段を上がっていった。


「ちょ・・!!」


 明良が追いかけようと立ち上がったが、足に力が入らず、再び膝を地面についてしまった。そして、遅れて息を荒げながら桜花が到着した。


「・・・ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ、ぼ、牡丹、私を、置いていくなぁ・・・」


 ホームの端から端まで全速力で走ってもあまり息を荒げていない明良たちに比べて、桜花はもう顔面蒼白になり、今にもぶっ倒れそうになっていた。


「ボス、体力がなさすぎです・・・」


「・・・うるさい、私は頭脳労働担当なんだよ。とにかく、一度ここを出るぞ。署でミーティングを行う」


 そう促されて、明良たちはホームを後にした。

この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

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心霊スポット紹介① 棗塚駅

黄麟おうりん町にある新東京線が通る駅。飛び込み自殺や事故の数が新東京線の駅の中でもダントツに多いため、オフィスビルが立ち並ぶ場所に駅を構えているのに、利用客の数はほとんどないため、平日の昼間でも人気が少ない。戦後まもなく駅が開発されたが、トンネル工事中に落盤事故が起きて多くの犠牲者が出たことと、かつて駅が置かれている土地一帯が罪人の処刑場であり、罪人の遺体を葬った塚を掘り返して駅を作ったことにより、呪われた駅として噂になっている。とくに有名な噂は「最終電車が出た後にあるはずのない0番線ホームが現れて、そこに来る電車に乗ると二度と戻れなくなる」や「あの世に死者の魂を連れていく幽霊電車が走っていて、それを見てしまうと電車の中に引きずり込まれてしまう」と言ったものである。


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