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小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第弐の噂「ロッカーのイズミさん」
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第弐の噂「ロッカーのイズミさん」⑩

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 中条英美里の能力、それは「超味覚」である。


 舌を通して摂取した食べ物の成分を一回につき、限界まで底上げしたものを吸収することで様々な効果を一時的に発揮することが出来る。例えば集中力を増す食べ物や飲み物を摂ると、一定時間の間、超人的な集中力を発揮して、高度な情報処理や演算処理をこなすことが出来るのだ。


 キャンディから摂取した糖分を摂取し、それにより一時的に人間の持つ頭脳の記憶力、演算処理能力、海馬の機能を驚異的に高めた英美里はパソコンのキーボードを素早く打ち込んで、膨大な量の情報を探し出して解析し、処理していく。そして、10分経つと彼女の身体が大きく揺れたかと思いきや「ぷしゅー」と間抜けな言葉を漏らして、両手をだらりと力なく垂らして背もたれに寄りかかるように脱力した。


「だ、大丈夫ですか!?」


「・・・タイムオーバー、タイムオーバー」


「相変わらず見ていて心配になるな、貴様のそれは」


「・・・とりあえず、今度の事件の黒幕が潜伏している場所を特定することは出来たよ。その場所と亀の杜学園から発生しているヨドミが同じもので繋がっているから間違いないと思う。ここにおそらくだけど、拉致された渚校長もいると思う。急がないとまずいかもしれない」


「刑事部にこの事を伝えてきます!!」


「科学捜査研究所の情報課で調べたと言えば奴らも納得するだろうからな」


 英美里は深くため息をついて、二本目のキャンディを口に頬張る。


「・・・あとは霧江と南雲さんがどんなものを見つけ出してくれるのか、それが今度の事件のカギになればいいんだけど、大丈夫かな?」


「アイツらだったら心配いらん。やる時にはバッチリ決める連中だからな。さて、我々も動くとするか。英美里、貴様は少し休んでおけ。何かあったらすぐ連絡する」


「・・・あざっす。10分ほど休んだら捜査に合流します」


 英美里が飴玉を頬張りながら、気が抜けたような気だるい感じで手を振った。超味覚を使用すると、通常の思考回路の数倍以上働かせる分、能力を終了した後に精神力を異常なまでに消耗してしまうのがこの能力のデメリットである。


 準備を整えると、桜花は慌ただしくゼロ係の部屋を飛び出していった。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 一方、明良と霧江は『小野塚市市民運動公園』にやってきていた。

 霧江は運動公園を前にして足を止めて、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「・・・あっきー、ここって」


「・・・葛西さん、もし辛かったら僕だけで行ってくる。もし万が一”彼”がここにいるのだとしたら、ロッカーのイズミさんを助けるための方法を何か知っているかもしれない。でも、もしかしたらいないかもしれないけど、それは彼が違う場所に行ったということで、色々と区切りをつけることは出来ると思うから」


「・・・そうだね。アタシも行くよ。ごめんねあっきー。アタシも覚悟を決めたから大丈夫」


 二人が意を決して乗り込んだのは、6年前、池田圭祐が命を落とした選抜会場が行われた屋内プールだった。屋内プールは今日休みになっていた。近々改装工事が行われるため、閉鎖されていることを受け付けの係員から聞き、許可を前もってとったことを伝えると、プールの鍵を差し出してくれた。


 プールに続くドアを開き、更衣室に入ると明良と霧江のそれぞれの頭の中にまるで電流が走ったような感覚を感じた。黒くもやもやするもので更衣室がよく見えない。呼吸をすることさえも重苦しく感じるむせ返るような部屋の違和感に、二人は顔を見合わせる。


「・・・あっきー、これ、もしかしてビンゴ?」


「・・・おそらく。まずはこのもやが一番濃い場所・・・つまりこのもやの発生源を調べなくては」


 更衣室を探し回っていると、奥に『競技者専用ロッカールーム』と書かれた看板がある部屋があった。この部屋からもやが漏れているようだ。扉に手をかけて重い扉をギッ・・・ギッ・・・と横にスライドして開ける。すると、視界を覆い尽くすような黒いもやが噴き出し、二人はとっさに顔を腕で覆う。その時、ロッカールームの一つのロッカーの近くに人影が見えた。


 まるで血が通っているとは思えない真っ青な肌をした、競技用の水着を着込んだ長身の男性だった。彼は感情が抜け落ちたような表情でこちらを振り返ると、まるで煙のように消えてしまった。


 ー・・・俺は・・・やっていない・・・。-


 恨めしく、どこまでも悲しい声が耳に響き渡る。


「・・・今のまさか・・・」


「・・・池田君・・・?」


 霧江が呆然とつぶやいた。今見た幽霊が、6年前に亡くなった池田圭祐の幽霊ではないかという疑問が確信を感じた。彼は一つのロッカーの前で立ち尽くしていた。何をやっていたのか、何が気になるのかを確認するために、明良たちは池田圭祐の幽霊が見ていたロッカーの前にやってきた。


 ロッカーを恐る恐る開くが、そこは・・・空っぽだった。


「・・・長い間使用されていないみたい」


「まあ、あんな事件が起きてから選抜会場が都内のプールを使うようになっちゃったからね」


「なるほどね」


 明良は突然ロッカーの下を覗き込むようにしゃがみこんだ。床に顔をつけて、ロッカーの下の隙間を覗き込む。相棒の突然の奇行に霧江が呆気にとられる。


「あ、あっきー!?どうかしたの?」


 霧江の質問にも答えず、スマホのライトをつけてロッカーの下を注意深く覗き込むと、あるものがライトの光を受けて反射した。明良は近くに何かないかと探し回ると、部屋の隅に掃除用具が入ったロッカーを見つけた。開くとそこには排水口に詰まった異物を取り除くために使うゴミばさみがあった。


「・・・これならきっと取れるはず」


 身体をうつぶせにして腕を伸ばし、ゴミばさみでロッカーの下の隙間に差し込むと何度か腕を引いては再び押し込むようにして、奥にあるものをゴミばさみで引き寄せていく。そして、ゆっくりとゴミばさみを隙間から引き出すと、そこにはある銀色の光を帯びた小さな袋が挟まれていた。


 それはハッピー・クラウンの包み紙だった。


「どうしてこんなものがここに・・・?」


「・・・もしかしたら6年前に池田圭祐さんが飲んだドリンクの中に、誰かがこの薬を入れて池田さんに飲ませた。そして、それが原因で池田さんは薬の大量摂取で命を落としたということは・・・これは6年前に犯人が残した証拠品かもしれない」


「マジ!?」


 明良はそれを手袋をはめた手で拾い、小さなビニール袋に入れると素早くふたを閉めた。あとはこれを科捜研に持って行って誰の指紋がついているか、袋の中にわずかに残っている薬の成分を調べてもらえば、6年前の事件の真相を解き明かす手掛かりになるかもしれない。


 そう思った時だった。


 明良は背中にまるで強烈な冷気を吹きかけられたような気がして、身体が凍り付いた。

 身体が思うように動かせない。呼吸さえも上手くできなくなり、目がかっと見開いていく。

 自分の後ろ、すぐそこまでへばりつくように誰かが立っている。




 ”・・・オマエ・・・ダッタノカァ・・・?”



 心臓が縮み上がるような、あらゆる感情が抜け落ちて、地の底から響いてくるような声。

 そして、徐々に自分自身に近づいてくるただならない気配を感じる。


 恐る恐る振り返ると・・・。




 ”お前が俺を嵌めたのかァァァァァァッ!!?”




 憤怒の形相を浮かべた亡者が、青ざめた顔を明良にくっつきそうなぐらいに近づけてきた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 もうすぐだ。

 もうすぐですべてが終わる。


 あとはこの女が全ての犯行は自分がやったという遺書を残して、ここで死ねばすべてが闇に葬られる。薬で眠った彼女の首にしっかりとロープを巻き付けて、そのロープをクレーンの滑車に巻きとらせれば、彼女はすべての罪を悔いてここで自ら命を絶ったという形で警察も結論付けるだろう。


 自分がまだ行方不明扱いになっているため、捜査は行われるだろうが、もうそれも心配はいらない。

 なぜなら、今日中にはこの国を飛び出してアメリカに高飛びするのだから。偽造のパスポートを使って、他人の名義で飛行機のチケットを手配したことなど警察は夢にも思っていないだろう。


 上手くいっている。

 あの女が、6年前に自分が殺したはずのあの女の霊が現れた時にはどうなるかと肝を冷やしたが、目の前で瀬戸を殺してくれたこと、あの場から自分だけが運良く逃げ切れたこと、そして校内で噂になっているあの女の幽霊に関する情報を聞きつけて、その情報を利用して今度の計画を思いついた。


 あの女の幽霊のおかげで、邪魔だった瀬戸や沢田も死んでくれた。

 沢田が子飼いにしていた女子高生も邪魔になる前に消してくれた。

 理事長の湖城が失踪したが、おそらく玄武会やホワイトクロウに目をつけられている以上見つかるのも時間の問題だ。そこでコイツが自殺したということで遺体が見つかれば、警察は一連の事件は彼女が仕組んだとみなすだろう。


 騒ぎに紛れて自分は姿を消す。

 そして、大金を使って海外に高飛びして、整形手術を受けて別人に生まれ変わって、第二の人生を華々しく歩むのだ。もうこれまでの自分の人生とは別れを告げて、生まれ変わるのだ。


 手の中に握っているスイッチ。

 このボタンを押せばクレーンが起動して彼女が天井に釣り上げられる。

 これでおしまいだ。さあ、早くやってしまおう。


 これで全てを終わらせるのだ。


 そう自分に言い聞かせてボタンに賭ける指に力を込めた。




この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


中条英美里のプロフィール

身長:160㎝

性別:女性

階級:巡査部長

趣味:プログラミング工作、掲示板巡り、諜報活動

好きなもの:パソコン、炭酸飲料、棒付きキャンディ

苦手なもの:時間のかかるシステムメンテナンス、面倒な作業、辛いもの

特技:自作でパソコンを組み立てることが出来る、ハッキング

イメージカラー:桃色

3サイズ:84・57・85

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