表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小野塚市警察署心霊捜査班  作者: 勇人
第弐の噂「ロッカーのイズミさん」
22/57

第弐の噂「ロッカーのイズミさん」⑤

注意

・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。

・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。

 翌日。


 明良と霧江は緑豊かな森に囲まれた【亀の杜学園】にやってきた。まるで外界から隔離されているような重々しい空気に包まれており、聳え立つ校舎はまるで監獄のような息苦しさを感じさせる。


「・・・もう二度と来たくなかったけど、相変わらずここは息が詰まりそうだね」


「葛西さん、大丈夫?無理だけはしないで」


「あっきー、サンキュ。頼りにしているからね」


 学園へと続く遊歩道を歩いていくと、学園が近づくにつれて二人はまるで自分たちが違う世界に入り込んだような錯覚を感じて思わず足を止めた。息が詰まりそうな塩素臭とカルキ臭が入り混じる水の匂い、まるで水の中に潜った時のような息苦しさを感じて二人の全身に鳥肌が立った。


「・・・これ、相当ヤバいかもしれない。あの学園から、怪異の気配がをすごく感じるよ」


「この匂い、この気配、自然公園で遺体を見つけた時に感じたものと同じだ・・・!!」


 学園全体を覆い尽くすような強い気配、怒りと悲しみ、憎悪に満ちた負の感情、それらがごちゃ混ぜになってさながら学院全体を飲み込もうとしているようにも思えた。そして、どこからか誰かの視線を感じる。自分たちがこの学園の中に入り込もうとしているのをじぃっと睨んで、監視しているような冷たい視線を感じ、辺りを見回す。


「・・・あっきー、これ、もしかして噂の”ロッカーのイズミさん”の気配なのかな?」


「まだ断定はできませんが、この学園には間違いなく人ならざるモノがいることだけは確かです。葛西さん、気をつけてください」


 始業時刻前、学生たちが楽しそうにおしゃべりをしながら学園へと歩いていく、どこにでもあるような日常の風景。しかし彼らは何も気づいていない。これほどなまでの怒りと憎しみに満ちている冷たい視線を感じたら、たとえ自分自身にやましいことがなかったとしても決して気持ちのいいものではないはずだ。この視線は一体誰を探しているのか、そしてどうしようとしているのか、一体この視線の主は何物なのか。


 頭の中に疑問がいくつも浮かんでくる。そして、この視線が狂的なまでの負の感情を今にも爆発させそうな危うい予感さえ感じさせることもあり、さらに焦りを感じてくる。


 その時だった。


「現場にしゃしゃり出てくるなって言ったはずだよな?ゼロ係の葛西~っ!!」


 後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには顔を真っ赤にして憤怒の形相を浮かべている青鮫がドスドスと荒々しく歩いて近づいてきた。その後ろからはどこからどう見てもヤクザにしかみえない獅子島と、その子分にしか見えない鷲尾がついてきている。青鮫の姿を見るなり、霧江が小さく舌打ちをする。


「ここに何しにきやがった!!」


「見ての通りこっちもゼロ係のお仕事だっつの。いちいち絡んでこないでよ、このアホ鮫!!」


「誰がアホ鮫だ、誰が!?テメエはとっとと薄暗い地下室に帰って草でも食ってやがれ、このバカサイ!!」


「誰がバカサイか、お前だって海に帰って魚でも食ってろ、バーカ!!」


 もはや小学生レベルの言い争いに発展し、額と額をくっつけて睨みあっている二人を見て獅子島がため息をついた。


「アンタたち、小学生みたいな喧嘩をするんじゃないわよ。さて、困りましたねえ、警部補殿。アタシたちの仕事の邪魔をしないでいただきたいのですが」


「あ、いえ、その、邪魔をするつもりはないのですが。何かあったんですか?」


「ええ、ここに勤めている英語の教師のうしお愛優美あゆみと言う女性が、被害者たちとよくつるんでいたという情報を聞いたので、最後にあった時のことを詳しくお聞きしようと思いまして」


「教えてンじゃねえよ、このバカ!!」


 あっさりと口を滑らせた鷲尾の後頭部をどつくと、青鮫は明良を睨みつけてくる。


「警部補殿、これはどういうことでしょうか?ゼロ係は大人しくしていただきたいと、この前おっしゃったはずなんですがねえ?」


「僕たちも捜査でここに来たんです。刑事部がこちらに捜査にやってくることは知りませんでした。それで、その潮という女性が今度の事件に何か関係しているんですか?」


「潮という教師と、この間公園のトイレで発見された沢田征爾、そして1週間前に沢田と同じように不自然な状況で溺死体になって発見された瀬戸織恵と言う女性が高校生の時からつるんでいる悪仲間であることが分かったのよ」


「何でアンタまであっさりばらしちまうんだよ!?」


 部下だけではなく、上司もあっさりと口を滑らせてしまったことに青鮫が思わず頭を抱える。


「なるほど、刑事部は沢田がやっていた名簿屋に協力をしていた学園側の情報提供者が潮という教師だと思って、彼女に話を聞きに来たというところでしょうか?」


「その通りよん。あの学園、学園関係者に関する個人情報を引き出すのは厳重な最新式のセキュリティシステムで守られていてね。ハッキングを仕掛けても、すぐさまアドレスや身元を特定されてしまうから、外部から情報を盗み出すのはかなり難しいということが分かったのよ」


「でも、内部からだったらパスワードを打ち込めば簡単に引き出すことが出来るんス。それで、玄武会に流れた学園関係者の個人情報を引き出したアドレスを調べてみたら、今月に入って、新しいパスワードでログインして個人情報を閲覧したのは潮愛優美だけだったんス」


「この学園、月が替わるごとにパスワードが変わるらしいんだが、パスワードを管理している情報管理者を訪ねて調べてみたら、潮愛優美の個人アドレスとパスワードを使ってデータベースにログインしたことが分かりましてね。リストのデータをコピーして沢田に渡したのは、彼女である可能性が高いってことで話を聞きに来たっていうわけです」


 青鮫ももう開き直ったのか、偉そうな態度で言い放つと「分かったら、さっさとお帰りください」と言って足早に校舎へと向かっていった。


「相変わらず本当に腹が立つよ、アイツ」


「葛西さんは、海雪さんと知り合いだったんですか?」


「警察学校の同期なんだよ。もう顔を合わせるたびにいちいち絡んでくるんだよ。ん?今、あっきー、アイツのことを海雪さんって呼んだ?もしかして、あっきー、アイツと付き合っていたとか!?まさか、元カノ!?」


「ち、違いますよ!!中学生の時からの付き合いといいますか、そのぉ・・・幼なじみと言えばいいのかな」


「幼なじみ!?アイツとぉ!?」


 霧江が明良に詰め寄っていた、その時だった。


「ぎゃああああああーーーーーーっ!!」


「な、何だ、この悲鳴は!?」


 校舎の方からただならない絶叫が聞こえてきた。空気をビリビリと震わせるほどの大声に、明良と霧江が飛び上がるほどに驚き、辺りを見回す。そして、霧江がくんくんと鼻で匂いを追い始めた。


 警察権の数百倍ともいえる超人的な嗅覚を有する霧江は、幽霊や怪異の存在を嗅ぎ当てる「超嗅覚」の持ち主だ。その能力を発動させると、ある匂いを嗅ぎつけた。その匂いが何が発しているものかを脳裏に浮かび上がると、かっと目が見開いた。


「・・・プールだ!!プールから、怪異の匂いを感じる!!」


 霧江が地面を蹴り飛ばして、ものすごい速さでプールに向かって走り出した。明良もその後を追うように走り出し、さらに悲鳴を聞きつけた獅子島たちも泡を食ったような顔になって後を追いかけていく。


 入り口広場を抜けて、大勢の生徒たちをかきわけながら霧江と明良がやってきたのは体育館と連絡通路で繋がっている屋内プールだった。明良たちが駆けつけると、プールの入り口の鉄の扉が開いていた。部屋の中に入ると、広々としたプールが置かれている部屋にはむせ返るようなカルキ臭と鉄の匂いが入り混じる異臭で満たされており、プールサイドでは二人の女子生徒が青い顔をして、腰を抜かして座り込んで震えていた。鼻を衝くわずかな刺激臭は彼女たちから感じるものだった。


「どうかしたんですか!?」


「あ、あ、あれ・・・!!」


 女子生徒の一人が涙を流しながら真っ青な顔で、プールの方を指さした。

 その方向を追っていき、そして、明良の瞳が大きく驚愕で見開かれた。


 水の抜けたプールの真ん中で、一人の女子生徒が倒れていた。その女子生徒は、顔やお腹をパンパンに膨らませており、彼女の周りには大量の汚水がぶちまけられている。それは彼女の目や鼻、口から流れ出ているものと同じものであることが分かった。


 そして、物言わぬ彼女を見下ろしていたものが、もう一人、いた。


 肩まで伸ばした長い黒髪で目元を覆い、学校指定の水着を着込んでいる女性だった。

 色素が異常なまでに抜けて真っ白になった肌、汚水を全身から滴らせている彼女の身体は水浸しになっており、わずかだが頭の右側頭部の一部がへこんでいるようにも見えた。そして彼女の首筋には見るも無残な深い切り傷が刻まれていた。それがきっと致命傷になったとも思われるほどに喉の肉がえぐり取られている。


 そしてずぶ濡れになった前髪の隙間から、怒りと憎しみ、悲しみ、殺意に満ちた人間のものとは思えない淀んだ強い光を宿した視線をこっちに向けてきたとき、明良は絶句する。まるでこの世の全てを憎み、何度殺しても飽き足らないほどの激しい憎しみ、絶望という言葉では生ぬるいと思えるほどの深い闇が渦巻いている。


 やがて、彼女の姿がすうっとまるで幻だったかのように消えていった。


「・・・泉美?」


 隣にいた霧江が呆然とつぶやいていたのを、明良は聞こえた。



この度は本作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

もし気に入っていただけたら、ブックマーク登録、是非ともよろしくお願いいたします!!


登場人物紹介④

青鮫 海雪(24):小野塚市警察署刑事課に在籍する刑事。階級は巡査部長。ゼロ係に対して好印象を抱いておらず、捜査権もないのに現場にしゃしゃり出てくるゼロ係を疎ましく思っている。警察学校で同期だった葛西霧江とはライバルで、顔を合わせるたびに「バカサイ」「アホ鮫」と憎まれ口を叩き合う関係。南雲明良とは中学からの付き合いで、当時は荒れており、風紀委員だった明良にしょっちゅう捕まってお説教をされていたが、不思議とウマが合い、唯一無二の親友となったが、高校卒業と同時にとある事情で疎遠になっていた。美人だがやや短気で粗暴な性格をしており、後輩の鷲尾がうっかり口を滑らせてゼロ係に情報を漏らすとひっぱたくなど強気で好戦的な半面、業務中は階級などの上下関係を重視し、明良相手でも慇懃無礼だが敬語で話すなど規律には厳しい真面目な一面も。正義感は強く曲がったことは許せない熱い心の持ち主。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ